第251話 船の人形
さすがに敵の数が多い。
無尽蔵かと思えるほどに、続々と異界の
異界の
一方、地上を進むデック・ドールは、あっさりと移民船に辿り着いて外壁を破壊し、内部への侵入を開始している。
「ボッス、おかしい」
「向こうの頭がおかしい」
ユアとユナが首を傾げている。
シュンとユア、ユナは、ナイトを出さず、デック・ドールに紛れて移民船の一つに潜入していた。
「ここは囮か? 別の拠点は見つからなかったが・・」
異界の神がどれほど巧妙に隠蔽をしようと、ムジェリ製の観測器を使い
結界を使えば結界を見つける。
視覚的なまやかしなら、それを・・。
わずかな風の揺らぎや、神力や魔力、霊力の
少なくとも、この世界には、他に異界神の拠点は存在していない。
「囮というより罠?」
「わざと中に入れた?」
ユアとユナがシュンを見た。あっさりと迎え入れられた感じである。もちろん、こちらはデック・ドールの戦闘に隠れて移動して来たのだが、いくらなんでも簡単過ぎた。
今歩いているのは、移民船の中。人間が歩くには広すぎる大きな通路の中だ。
3人は特に身を隠すことをせず、通路の中央を歩いていた。
5つあった移民船それぞれにデック・ドールが取り付いて攻撃を加えている。
中央に建造中だった塔のような物は破壊した。
敵ドールによる外での迎撃は熾烈だったが、移民船の内部では一切の妨害、攻撃を受けていない。
平穏そのものだった。
「罠か・・だとすると、移民船自体は破壊されても構わないということになる」
仮に、相応の強敵が待ち伏せていれば、応戦するシュン達との戦闘で、移民船は破壊されるだろう。
「船ごと爆発?」
「どこか別の空間に飛ばすとか?」
ユアとユナが数十メートル上の天井を見上げながら言った。口から
「あるかも知れないが、どちらも脅威では無いな」
「確かに~」
「無意味~」
ユアとユナが腕組みをして首を傾げた。この3人にとっては、移民船が吹き飛ぼうが、異空間に飛ばされようが、さしたる問題にならない。
「じゃあ、私達を洗脳する?」
「霊虫をつける?」
「霊虫や・・リセッタ・バグの類か?」
確かに、ああいう眼で捉えにくい相手は脅威だが、すでにマーブル主神が対策をしてくれたはずだ。
万が一、マーブル主神がうっかり忘れていた時のために、ムジェリ製の対抗バグが世界に放たれている。既知のバグは、完全に無力化できると、ムジェリが確約してくれた。
ムジェリは嘘をつかない。
自信が無ければ自信が無いと明言する。
出来ないものは出来ないと・・。
そのムジェリが確約してくれたのだ。リセッタ・バグと霊虫を心配する必要は無いと。
「じゃ、力尽くで捕まえて脳味噌を入れ替える?」
「マッドなサイエンティスト?」
ユアとユナが物騒なことを言う。
「アレク達を排除し、俺達3人だけを中へ招き入れる・・俺達を捕まえる用意があるということか」
他の者を排除し、シュン達3人の侵入は阻まない。
それが、今の状況だ。
脳を入れ替える云々はともかく、何らかの勝算があるのだろう。
「単なる時間稼ぎということも・・」
シュンは、通路前方へ眼を凝らした。
「いや・・俺達を殺す自信があるということか」
行く手に、細身の人影が立ち塞がっていた。
シュン達の知る人間とは姿が異なる。
「機械の人間?」
「サイボーグ?」
ユアとユナが露骨に警戒しながら、シュンの背中へ隠れる。
「さいぼーぐ?」
耳慣れない言葉だ。
人に似た姿だが、体付きからは男とも女とも判別できない。首から上はツルリとした球体が付いており、球形の頭部の内側に緑色をした光点が8個
「生き物・・では無いな」
シュンは相手を見つめたまま呟いた。
『
カーミュが姿を消したまま
「
『作り物の体に、作り物の魂が宿っているです』
「・・なるほど」
シュンは、カーミュの言葉をユアとユナにも伝えた。
「・・アンドロイド?」
「・・アンドロイド?」
ユアとユナが、姿の見えないカーミュに向かって訊ねた。
『あんどろいど?』
「あんどろいど?」
シュンが2人を見る。
「改造人間ならサイボーグ」
「作り物にちょっぴり人間を
「・・ふむ?」
訳が解らないが、ユアとユナは自信ありげに断言している。ニホンでは常識なのだろうか。
「カーミュ?」
『よく分からないのです。でも、あれは完全な作り物なのです』
「・・らしいぞ?」
「じゃ、ロボット?」
「でも、魂ある?」
ユアとユナが腕組みをして唸った。
直後、分類が曖昧な人型の何かから光弾が放たれた。 正確にユアとユナを捉える弾道だったが、シュンが展張している水楯に阻まれて消失する。
「水楯3枚か。悪く無い威力だな」
人型の何かから放たれた光弾は、シュンの水楯を3枚撃ち抜き、4枚目で消えていた。
次はどうするのかと見守っていると、人型の何かが身を翻して通路の向こうへと飛翔を開始した。
「露骨な挑発?」
「釣り餌?」
ユアとユナがシュンを見る。
「カーミュ、方向は?」
『前なのです』
「行こう」
シュンは2人を
闇雲に歩いて来た訳では無い。
この移民船を選んだのも、ここまで内部を歩いて来たのも、すべて導きがあればこそだ。
以前、マーブル主神に創ってもらい、夢幻の回廊で使用した"探知ちゃん"・・魔王種の生きた霊を使って神具を探知する魔法の杖に、今度は異界神の魂を封じて、異界神の所在を探知する道具として創り変えてもらったのだ。
色々と技術的に難しかったらしく、杖としての実体を失ってしまい、霊体であるカーミュにしか扱えない代物になってしまったが・・。
機械の人間・・機人。
その機人を生み出したのは、カーミュの操る杖に封じられた異界神だ。機人の神もまた、異界神が創造したものだという。
シュンに囚われた異界神が、死と蘇生を繰り返す中で語ったことだ。
「案外、嘘では無いのかも知れないな」
シュンは前方を遠ざかる"人形"を見ながら呟いた。
「ボッス?」
「何が嘘?」
「異界神を尋問した時の話だ。この世界への移民を諦めると言っていただろう?」
囚われた異界の主神は、もう嫌だ、他の世界へ行くから許してくれ・・と泣いていた。
「言ってた」
「確かに言った」
2人が頷く。
「あの時は、嘘だと決めつけたが・・」
この地に残された者達の他は、すでに別の世界へ入植しているのかも知れない。
「どうであれ、罠である確率が一番高い。その他の可能性は考えなくて良い」
「アイアイ」
「ラジャー」
シュンの言葉に、ユアとユナが敬礼をした。
=====
1月2日、誤記修正。
脳味(誤)ー 脳味噌(正)
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