第230話 マッチアップ


『おう! クソ猫、仕事しろやっ!』


 アレクのルドラ・ナイトが吼える。離れた場所に、大型の機関銃を抱えたルドラ・ナイトが立っていた。


『・・その辺に龍人の楯があります。拾って下さい』


 ロシータのルドラ・ナイトが、瓦解して崩れた城館の壁があった辺りを指さした。


『あぁぁ?』


『楯が壊れました』


『良いじゃねぇか! 楯なんざ・・』


『楯が壊れました』


『・・ちっ、しゃぁねぇな!』


 舌打ちをしながらも、アレクのルドラ・ナイトが瓦礫の辺りを覗き込もうと身を乗り出した。

 そこを狙って、瓦礫の陰に潜んでいた龍人が剣を突き出した。


『・・っと、危ねぇ!』


 アレクのルドラ・ナイトが軽く上体を捻って回避するなり、手にした大剣で龍人の腰から上を斬り飛ばした。


『あぁ・・こいつの楯にするか?』


 アレクのルドラ・ナイトが振り返った先で、ロシータのルドラ・ナイトが重機関銃を連射していた。狙う先で、複数の龍人が被弾して声を上げ、苛立つように龍息を吐き散らしているが、ロシータが居る位置まで龍息が届かない。射程距離が違うのだ。


『てめぇ、楯なんか居るのかよ?』


『来ましたよ?』


 ロシータのルドラ・ナイトが後退してくる。


『ん? ああ、まぁた黒鱗か!』


 アレクのルドラ・ナイトが前に出て、黒鱗の龍人を斬り伏せた。ほぼ捨て身で、重機関銃の弾幕に身を晒し、ボロ雑巾のようになりながら突進してきたのだが・・。


『まだ生きています。ちゃんと仕事をして下さい』


 ロシータのルドラ・ナイトが大鎌を振って、黒鱗龍人の首を刎ねた。


『うるせぇ! てめぇでやれや!』


 アレクが吼えた時、


『ロシータ、ごめん! そっちに落ちたわ!』


 空中戦をやっていたミリアムのルドラ・ナイトから連絡が入った。


 見上げた先を、2体の青鱗龍人が落ちてくる。

 どちらも、散弾で上半身から顔面にかけてがズタボロになり、無惨な状態だった。


『食堂のねぇちゃんか! やるじゃねぇか!』


 アレクが笑いながら、大剣を振って止めを刺した。


『青色までは何とかね。黒はぎりぎりだわ』


 ミリアムのルドラ・ナイトが降りて来て瓦礫の上に着地した。


『ミリアム、ルドラは初めてでしょう?』


 ロシータが訊ねる。


『ユアちゃんとユナちゃんに付き合って訓練していたの。ルドラを纏ったまま料理だって出来るわよ?』


『なるほど・・シュン様はその事を御存じだったのですね』


 どうして、ミリアムを同行させたのか、不思議に思っていたのだ。


『ジニーとディーンもなかなかよ? まあ、私達は守りの方が得意だけどね』


 ミリアムのルドラ・ナイトが短刀を片手に、斃れた龍人の魂石を取り出して収納する。実に鮮やかな短刀捌きであった。


『こちらユキシラ、各機に伝達』


 一斉通話が入った。

 ムジェリ製の通話器である。"護耳の神珠"とは違い、あまり遠く離れると通話が出来なくなるが、通話網に繋がっている者同士なら、まるでその場に居るかのように、互いに自由に会話が出来るという優れ物だった。


『ユア、ユナ機が、大型の龍人を撃破・・お二人とも収納の余地が無いため、回収に向かって欲しいとの事』


『・・お菓子でいっぱいなのね』


 ミリアムが苦笑を漏らした。


『黒鱗を追って下層へ降りたようでした』


『おう! でかい龍人ってのを拝みに行ってみようぜ!』


 ロシータとアレクのルドラ・ナイトが城館の下層部を目指して移動を開始した。


『ミリアム殿、上空の"U3号"に8体の龍人が接近中。支援に向かって下さい。ユア様、ユナ様も急行します』


『了解!』


 散弾銃に持ち替えたミリアムのルドラ・ナイトが上昇を開始した。


 半壊した城館から少し離れた場所に建っている尖塔で、ユキシラのルドラ・ナイトが狙撃銃を構えていた。ミリアム機は霊気機関車"U3号"の援護に向かい、アレク機とロシータ機は、崩落した城館の地下層へ向かった。ユキシラ機が照準器に捉えているのは、アオイ機とタチヒコ機が戦っている金色の鱗をした龍人である。


 アオイ機が近接、タチヒコ機が中間距離という位置取りで、金鱗の龍人を相手に巧みに立ち回っていた。

 金鱗の龍人は、さすがに手強いらしく、アオイ機が圧される場面も多かったが、タチヒコ機の支援を受けながら互角の戦いに持ち込んでいる。


『後方より龍人3体・・黒、青、青』


 声を掛けながら、不意を突こうと後方に回り込む黒鱗の龍人を狙って狙撃する。斃せる威力では無いが、角度によっては武器を取り落とし、頭部に当たれば衝撃で動きが鈍る。わずかな猶予さえ生み出せば、後はタチヒコとアオイが対応できる。


 タチヒコ機が、後方から迫る3体を相手に攻性の氷結魔法を放った。アオイ機が長剣を手に真っ向から金鱗と打ち合って鍔迫り合いに持ち込む。瞬間、ユキシラは静かに2度、引き金を絞っていた。

 金鱗の龍人が長い尾を振り、アオイ機の斜め下から攻撃しようとした。その尾を銃弾で弾いて勢いを殺ぐ。

 さらに、金鱗が至近から龍息を吐こうとして口を開く、その口腔に狙撃弾が飛び込んだ。


『感謝!』


 短い礼の言葉と共に、アオイがルドラ・ナイトの肩甲を使って金鱗龍人の顎をかち上げ、体勢を乱したところを斬り払う。


 続いて、ユキシラはタチヒコ機が相手をしている青鱗の龍人の眼を狙って引き金を絞った。続けざまに、隣に居る黒鱗の頭部、さらにはもう一体の龍人の喉元を狙って撃った。


 その時、シュンから連絡が入った。


『ユキシラ、全機撤収。"U3号"で待機』


『畏まりました。龍人ですか?』


『手強い』


『了解です。退避完了後に連絡します』


『頼む』


 シュンの声から緊張感が感じられる。

 ユキシラは手早く全員に連絡を入れつつ、金鱗の龍人めがけて集中して狙撃を開始した。あまり時間を掛けられる状況では無くなった。やや強引にでも討ち取らねばならない。


 だが・・。


『なんか、金色来た!』


『銀色も!』


 ユアとユナから通話網を使った報告が入った。


『こちら、ロシータ。太った龍人の死体から次々に龍人が生まれています!』


『アレクだ。ちとヤベぇ感じだぜ!』


 どうやら、死骸の回収に向かったロシータとアレクの方でも異変が起きている。


『ユキシラ、聞こえるか?』


 今度は、リールから"護耳の神珠"を使った連絡が入った。


『リール殿?』


『別口が来たようじゃ』


『別口?』


『龍では無いのぅ・・主殿が異界で遭遇した使徒じゃ』


 リールが楽しげに笑いながら言った。




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12月12日、誤記修正。

金鱗の打ち合って(誤)ー 金鱗と打ち合って(正)

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