第216話 神様、駄々をこねる。
・地上界を割譲して領域を与えた神の内、62柱が離反。
・マーブル主神に味方すると表明したのは、大地の女神、農耕神、薬神、海神、泉の女神の5柱。
・他は、態度保留。
・太陽神が、首謀者。
・凶神は、自我が崩壊して異空間を放浪中。
・夢幻の女神は、魔神を体に封じていた。魔神の名はカドケス。(死骸をポイポイ・ステッキに収納した事で、名称が判明。)
・月神は、凶神の代替として夢幻の女神を陣営に招き入れる役目だった。息子の仇を前にして暴走して死滅。
・終末の神器は、所在不明。太陽神も探している。
・異界神は、前主神との契約により介入。太陽神とは別の動き。
・異界神は、マーブル主神の迷宮から最も遠い位置に拠点を構築中。
・異界神は、神界への介入を目論んでいる。
・魔王種は、異界神の支配下。前主神から魔王種の支配権を引き継いでいる。
・争乱の女神が、勝手気ままに動いている。太陽神とは別の動き。
マーブル主神が、月神から得た情報を箇条書きに纏めた紙をじっくりと、念入りに何度も読んでから長々とため息をついた。
『泣いて良いかな?』
肩を落として呟く主神を、シュンは無言で眺めていた。
何の言葉も掛けず、ただ見守っている。
『・・えっ? ここ、慰める場面じゃない? 大丈夫ですか~とか?』
マーブル主神が驚いた顔でシュンを見た。
「考えたのですが・・」
『えっ? 今、何か考え事をしていたの? 傷心のボクを放置して?』
「神様は世界を創れるのですよね?」
シュンは物静かな口調で訊ねた。
『う? うん、まあ・・ね』
「では、今の世界を滅ぼしませんか?」
シュンは提案した。
『・・はい?』
マーブル主神が、きょとんと眼を見開いてシュンを見た。
「一度綺麗にして、もう一度創り直した方が良いと思います」
これから巻き起こる神々の争いを考えれば、早い内に世界を消し去った方が良いのではないだろうか。無論、迷宮を除いて・・の話だが。
『あのねぇ・・冗談でも、そんな物騒な事を言っちゃ駄目でしょ? みんな頑張って生きているんだよ? 人間だけじゃない。獣とか鳥とか魚とか・・み~んな、生きているの』
「しかし、遅かれ早かれ死滅しますよ?」
これから起こる神々の争乱、繁殖した魔王種の氾濫・・人であろうと獣であろうと、生き残れるとは思えない。数年と経たずに、生き物が食い尽くされ、神々の戦いに巻き込まれて死んでしまうだろう。
『・・いやいやいやいや、何言ってんの? そこを何とかするのが君の役割でしょ? えっ? そりゃあ、ボクの責任もちょっとはあるよ? でも、ほんのちょっぴりだけでしょ? ボクは主神として寛容さを示しただけじゃん? 裏切られたボクを責めるの? 違うよね? 裏切った奴らが悪いよね? そうでしょ?』
マーブル主神が手足をバタバタさせながら顔を真っ赤にして言う。
「・・そうですね」
シュンはわずかに頷いた。
『まあ、確かにボクの見通しが甘かったかもしれない。ほんのちょっとね? でも、だからって、みんなして裏切ること無いでしょ? 頭おかしいでしょ、あいつら?』
「・・そうですね」
『とにかく、ボクはこの世界を諦めないからね? せっかく創ったボクの世界なんだ。なんとしても守りぬくように手を尽くしてよ! ボクの使徒なんだからね!』
マーブル主神がシュンを指さして言った。
「どうして割譲を?」
何を考えて、地上世界を分け与えたりしたのだろう。
『・・今、それを言う? どうして、傷ついたボクの心を刺すの?』
マーブル主神が仰け反った。
「忠誠を誓う神々にだけ領域を割譲すれば良かったのでは?」
領域を与えるべき神と、与えてはいけない神を吟味すれば、ここまでの混乱は起こらなかったのでは・・?
『ちょ・・ちょっと、君? 攻め込みすぎじゃない? 裏切られたボクの心はぼろぼろよ? 君までボクを虐めるの?』
「単純に疑問に思っただけです」
『そりゃあさ、ボクが未熟だったのは確かな事だよ? でもね、仕方ないじゃん。主神になったの初めてだったんだし・・なんだか嬉しくて、ついつい良い顔したくなるでしょ? 君だって、レギオンとかの長なんだし、そんな経験があるんじゃない?』
「まったく理解できません」
シュンは首を振った。
『おぅ・・バッサリくるね。容赦ないね・・君だけはボクの味方だって信じてたのに』
マーブル主神が
「味方ですよ?」
『・・そうなの?』
マーブル主神が懐疑的な眼差しを向ける。
「私は、主神様の味方です。あぁ・・主神様と輪廻の女神様の、と言い直します」
シュンはきっぱりと宣言をした。
『ははは・・本当に君って・・凄いよねぇ』
「私は嘘を言いませんよ?」
『分かってるよ。もう、いい加減長いからね』
マーブル主神が苦笑交じりに嘆息を漏らした。
「異界神という存在は、どういう関わり方をしてくるのでしょう?」
『異界の神・・か。前の主神と一緒に、一度だけ対話をしたことがあるけど、何というか・・酷く狭い感じだったなぁ』
「狭いとは?」
『う~ん・・何というか、一つの問題について、解決策は一つのみ。他の方法は一切認めないって感じ。あの時は・・何だったかな? 向こうの世界での支配の方法を、こちらの世界でも導入すべきだって、前の主神に押し売りに来てたんだ』
「管理する神器でしたか?」
神が不要な世界を管理しているという神器・・。前の主神が話していた。
『神々に代わって神界を管理する・・そんな事を、前の主神が言っていたね』
「そのような物が存在するのでしょうか?」
『あるかもしれないけど・・問題は、神器そのものより、神器を創った奴の方さ。そいつの考える理想の世界を生み出すために創られた神器なんだから』
「具体的には、どのようにして神界を管理・・支配するのでしょう?」
『何らかの力で神の権能を封じる・・くらいしか思いつかないね。後は考えたくも無いけど、全ての神々を消し去るつもりなのかな?』
マーブル主神が首を捻った。
「・・当然、地上世界にも影響が及びますね?」
『そりゃぁ・・まあ』
「ところで、神が不要な世界に、神が存在しているのですか?」
シュンは訊ねた。
『えっ?』
「異界の神なのでしょう? その神器を持ち込もうとしているのは?」
『・・おお、確かに何だか矛盾してるね』
「異界の神、太陽神一派を滅ぼせば良いのでしょうか?」
やることが単純になるのは悪く無い。
『神々が・・5柱しかいなくなるじゃん』
「それでは、捕虜を作りますか?」
『いやいやいやいや・・説得して! 冷静になれって言って改心させてよ!』
「・・正気ですか?」
シュンは、まじまじとマーブル主神の顔を見た。
『だって、
マーブル主神が、駄々っ子のように手を振り回して叫んだ。
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