第198話 神の啓示
神殿町にある学園内の大聖堂に、ジナリドの生き残りが集められ、町での暮らしについて説明を受けていた。説明役は、"狐のお宿"のアオイである。
「何というか・・」
「別天地だな、こりゃ」
アンナとエラード、キャミやミト爺が呆然と眼と口を開いている。
全員がアリテシア教への入信を希望し、神殿町に入った。それから、町の規則について説明を受け、各人に仮住まいの部屋が割り当てられ、当座の生活費として一人につき、500デギンずつ支給された。そして、同額が毎月支給されるという説明を受けたところだ。
「もう一度、確認しておきたいんだけどね」
アンナが困惑顔のまま手を挙げた。
「何でしょう?」
アオイが応じる。
「ちょっと待遇が良すぎやしないかい? 余計なお世話だろうけど、あたしらみたいな難民に、こんなに手厚くやってたら先々立ちゆかなくなるんじゃないかい?」
アンナが訊ねると、アオイが微笑した。
「皆さんは難民ではありません。アリテシア教の信徒です。まずは、学園に通いながら町の様子などを把握していって下さい。学生の間は寮生活で仕事をすることは難しいですから、ある程度蓄えておいて、卒業後に町で暮らすための資金にしてはいかがでしょうか」
「それにしたって・・聖印銀貨500枚ってのは、さすがに多すぎると思うけどね?」
ジナリドの宿は素泊まりで6デン。神殿町では10デンだと言う。100デン=1デギンだから、500デギンというのは1ヶ月の生活費にしては多すぎる。
「仮に、今後100万人の信者の方々が暮らすようになったとしても、問題無く支給できる額です」
アオイが穏やかな口調で言う。
「・・本当かい? とんでもないね」
アンナがまじまじとアオイの顔を見つめる。
「その・・くどいようだけど、シュンが・・ここの一番偉い人なのかい?」
「はい。最高位ですよ。ここだけでなく、マーブル神が創世した・・この世界における最高位ですね。御存じ無い方がほとんどですけれど」
アオイが真面目な顔で言うと、アンナが低く唸った。
「そうなのかい。あの子がねぇ・・無茶しそうで怖いねぇ」
「もう十分に無茶をしていらっしゃいます。今さらですよ」
アオイが笑った。
「ああっ、やっぱり・・いやね、あの子はちょっとぶっきら棒で、愛想の欠片も無いし、おっさんみたいな偉そうな口調だし・・そりゃあ、とことん自分中心に物事を判断する子だけど。根っこのところでは、そこまで悪い子じゃないんだよ? 色々あったとは思うけど、許してやってくれないかねぇ」
アンナが頭を掻きながら言う。ほぼ謝罪の口調であった。
「シュン君はそんな人じゃないですよ?」
キャミが割って入った。
「何事も自分中心なのは鉄板ですけども。一度打ち解けると、思いやりのある態度に変わるんですから」
「でも口調はおっさんだろ?」
アンナが笑う。
「アンナさんの前だと年相応じゃない?」
「あれは無理してんだよ。回りが年寄りばかりだから、口調まで老けちまって・・ったく、ジナリドで育てずに早い内に王都の学校にでも行かせるべきだったかねぇ」
「もう王都は無くなっちゃいましたね」
キャミが苦笑した。
「・・だったね。まあ、同情はしないよ」
アンナが軽く鼻を鳴らした。
その時、大聖堂にシュン達"ネームド"が入って来た。
ロシータとアレク、タチヒコ、ミリアムが続いて入って来る。
「少しは落ち着いた?」
シュンは、アンナ達の表情を確かめるように見回した。
「夢のようさね」
「まあ、学園生活は窮屈かもしれないが・・町で暮らす人間には例外なく通って貰うよ」
シュンがアンナを見た。
「当たり前だ。例外は駄目さ。ちゃんと規則に従って学校に通うよ。ただ・・卒業したら、何をすれば良いんだい?」
「好きな事をすれば良い・・と言いたいが、できれば町でやっていた職をそのままこの町でやって欲しい」
「鍛冶仕事かい? そりゃあ、あたしには鍛冶しかできないが・・」
「この町は、何もかもがこれからだから。ここに居るアオイ、ロシータ達のおかげで、容れ物としては立派な物になった。だが、中身はこれからだ」
アンナには鍛冶屋を、キャミとエラード、ミト爺には冒険者協会を、他の町や村からの避難者にも、以前にやっていた仕事を始めて貰いたい。
「前にあった迷宮町が無くなって、今は外との取り引きが無くなった。おかげで、迷宮内の素材を売買する場が迷宮内に限定されてしまっている」
いつか、別の町、商人との取り引きを再開できるよう準備をしておきたい。
そのためにも、まずは迷宮の素材をエラード達の冒険者協会へ卸し、素材を必要とする職人や家庭などに販売する仕組みを作りたい。
「なるほどね。つまり、他の町・・国を諦めてはいないんだね?」
アンナが腕組みをして頷いた。
「そんなことなら、儂等でも手伝えるのぅ」
ミト爺が頷いた。横で、エラードとキャミも頷いている。
「ここは神様の空間・・大聖堂に居た全員が招かれたらしい」
シュンは上を見上げた。つられて全員が仰ぎ見る。
『やあ、使徒君、元気にやっているみたいだね』
水玉柄の半ズボン姿で、少年神がふわふわと漂いながら舞い降りてきた。
ロシータとアオイが無言で床に膝を着き頭を垂れた。それを見て、アンナ達も大急ぎで真似をする。
「新たに信者を迎えることができました」
シュンは、アンナ達を見ながら言った。
『うんうん、頑張っているね。輪廻の女神のために、今後も励むようにね』
マーブル神が余裕ありげな様子で微笑んで見せる。
「はい」
シュンは違和感を覚えながら頷いた。
『魔王種の討伐は順調そうだね』
マーブル神がにこやかに言いながら真上を指さした。
見上げると、頭上一面に絵図が拡がっていた。それがシュン達の居る大陸を含む世界の地図だと気が付くまで少し時間がかかったが・・。
『分かるかな? これが世界の地図だ』
「理解できます」
『うむ。さすがだ・・さて、君が知っているように、創世を行った神々は己の世界を失った』
「はい」
『神界を立て直す中で、地上界について幾つかの取り決めが成された』
マーブル神が頭上の世界地図に向けて手を振った。
シュン達が見守る中、世界地図上に光る破線が現れて、いくつかの区画に分かれていった。
『神々の合議によってボクは主神になった。闇ちゃん・・輪廻の女神やオグノーズホーン、そして君の活躍のおかげだ』
「・・主神に」
シュンは眼を見張った。
『もちろん、これは神界の正式な決定だ。全会一致とはいかなかったけどね』
「すると、この魔王種騒動は終わるのですね?」
『いやぁ、それがさ・・色々やったけど難しくてね』
マーブル神が首を振る。前の主神が行ったことを打ち消すことはできないらしい。
「・・そうですか」
『ただ、さすがに上限なくレベルが上がるということについては、すべての神々が問題視し、是正すべきだと言ってくれた。まあ、放っておけば、とんでもないレベルになって神界にまで来ちゃうからね』
「なるほど・・」
シュンは小さく頷いた。
『種としての限界をレベル1000とし、寿命を100年と決めた・・というか、それが精一杯だった』
「そうですか。レベル1000・・」
シュンは少し俯いて考え込んだ。
"ネームド"にとってはさほど脅威にならないが、地上で暮らす者にとってはどうだろうか?
『もちろん、いきなりレベルが上がる訳じゃ無い。あくまでも、限界値の話さ』
「・・そうですね」
『そして、もう一つ、世界地図を見て貰うと分かるように、ボクが創った世界を分割して他の神々に与えることになった』
マーブル神が言った。
「世界を分割?」
シュンは軽く眉を顰めた。
『世界を第1区から98区に分割して、それぞれ神と使徒によって魔王種の掃討を行ってもらう』
マーブル神が、神界で決定した事項を語り始めた。
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