第165話 平身低頭
『誠に申し訳ございませんでした!』
少年神が空中で平伏している。
その横で、シュンは所在なげに立っていた。
神様の白い空間である。
そこで、少年神が見えない相手に向かってひたすら謝罪を述べ、シュンはそれを眺めているのだった。
原因は、シュンがアルマドラ・ナイトを操って使徒を殲滅した事、そして、その際に他の神々の領域に被害を与えたことにあるらしい。
・・すべてを精査した。すべてに偽りが無いことを理解した・・
『本当にすいませんでした! うちの使徒が御迷惑をおかけしました!』
・・よい・・あらゆる点において事故であったと理解した・・
『よく言っておきますので、どうか今回はお許し下さいませ!』
・・よいのじゃ・・災禍の時は戻らぬ・・
『どうか、どうか・・うちの使徒には何の悪気も無かったのです! ものの弾みなのです! 念入りにやらないと気が済まない性分なのです!』
・・よいと言っておろう・・すべてを赦すと決めたのじゃ・・じゃが、あれはいかんな・・
『あれ・・とは?』
少年神がそっと顔を上げた。
・・人形じゃ・・甲胄人形じゃ・・
『あぁ・・ただ、あれも正当に進化した結果でして、決して不正が行われたわけでは無いのです!』
・・うむ、進化の過程も確かめた・・不正な手順による改ざんは無い・・じゃが、過ぎる力じゃ・・
『正当な手順による正当な進化の産物にございます。どうか・・ご容赦を』
・・案ずるな・・取り上げようなどと申しておらぬ・・ただ、度が過ぎる故に力を抑える必要があると申しておる・・
『・・正当な手順において与えた物です。制限を加えることは、神界の規則に違反します』
・・あの破壊の力は世界を滅ぼすぞ?・・
『それでも・・仮に世界を滅ぼしてしまうとしても・・定めた規則に例外は認められません』
・・相も変わらず頑固じゃの・・
「良いでしょうか?」
じっとやり取りを聴いていたシュンが、2柱のやり取りに割って入った。
『き、君っ、ちょっと・・』
少年神が大慌てで口を塞ごうと飛んで来るが、
・・構わぬ、何なりと申してみよ・・
主神の声が少年神の動きを遮った。
「アルマドラ・ナイトに何らかの制限を加えるとの話でしたので・・」
・・うむ、さすがにあれほどの破壊の力を野放しにはできぬ・・
「この先、レベル8000もの魔王が現れる可能性がありますし、龍人との戦いも控えています。脆弱な人の身で、そうした化物と戦うには相応の力が必要です」
『ちょ、ちょと・・落ち着こうか? ねっ? 使徒戦の報酬とか、後で相談に乗るからね? ねっ?』
・・ふむ、魔王や龍人と戦うとなれば、そうよな・・
「アルマドラ・ナイトは戦いを共にしてきた戦友です。使い方を工夫せよとの事でしたら努力します。どうか、アルマドラ・ナイトをこのまま使わせて下さい」
・・ふうむ、はっきりと物を申しおるの・・しかし、工夫・・工夫とな?・・
『あぁぁぁ、主神様? どうか、あまりお気にせず! ボクの方からよく言って聴かせますので!』
・・能力値に工夫・・条件付きの封印を設けても良いな・・ふうむ、悪く無い妥協点だのぅ・・
『ええと? 主神様?』
・・神界で血なまぐさい争いを繰り返しておる馬鹿共より、よほど理性的な提案ではないか・・のう、この世の神よ?・・
『はっ・・そ、その・・その節はお騒がせしておりまして、誠に申し訳ございません!』
・・ふうむ・・赤龍人を斃しておる・・その時の破壊の力を基準とするか・・ふうむ・・
「よろしくお願いします」
シュンは深々と低頭した。
・・そうだのぅ・・まあ、よかろう・・取り上げることが目的では無い・・世を破滅させないことが肝要なのじゃからな・・
「感謝いたします」
再び、シュンが頭を下げた。
・・破壊の力に段階的な封印を設定し、一定の条件を満たさぬ限り破壊の力に制限がかかるようにしたぞ・・
「どういった制限なのでしょう?」
・・地上界へ戻れば理解できるようになっておる・・心配せずとも必要な時には解除ができよう・・
「ありがとうございます」
シュンは礼を言って低頭しながら、小さく溜め息をついた。
非常に面倒な状況になってしまった。
アルマドラ・ナイト没収の危機は回避できたようだが、力に制限を加えられてしまったらしい。元の世界に戻れば、どういった制限なのか理解できるらしいが・・。いずれにせよ、これまで通りというわけにはいかなくなったようだ。
『・・ところで主神様、他の世界の使徒は消し飛んだわけですが・・どうなってしまうのでしょう?』
少年神が愛想笑いを浮かべ、伏し目がちになりつつ問いかけた。
・・どうもこうもあるか・・規則は規則、定めた通りだ・・ただ、さすがにこれは非道い・・
『ですよねぇ~』
・・他の世界の神々からも苦情と嘆願の書が大量に寄せられておる・・
『逆の立場なら、ボクも同じ事をやりますねぇ~』
・・そもそも、使徒戦の発生自体が神々の争乱によるもの・・使徒として散った者達を哀れに思うぞ・・
『えぇと、えへへ・・あれは龍神がですねぇ? うちの子孫に何するんじゃーーとか怒鳴り込んで来てですね? こちらの言うことに耳を貸さないものですから・・』
・・あれは、世界という種を生育するための役目を負っておる・・
『そうなんですよねぇ~別にそれは良いんですけど・・でも、子孫が虐められたぁ~とか騒ぎ立てるのはどうなんです? しかも、そんな些末な案件を主神様の裁定に持ち込むとか・・ちょっと情けなくないですか?』
・・ふうむ・・確かに、些か過保護に過ぎる部分はあるようだが・・
『龍種を引き連れて迷宮に殴り込んでくるだけならまだしも、神界にまで押し入るような事でしょうか?』
少年神が主神を相手に色々と訴えている。
「神様、世界はどうなるのでしょう? 他の神の世界はもう混じらないのですよね?」
シュンが少年神に声をかける。
『あぁ、ちょっと君は黙ってて・・今、主神様と大切なお話しをしているから』
・・その使徒には、世界の行く末を問う資格がある・・
『ですよねぇ~・・勝ち残ったんですもんねぇ~』
・・我が答えてやろう・・稀なる使徒よ・・
「ありがとうございます」
・・使徒が生き残った世界は一つ・・世界もまた一つのみが残る・・
「下層迷宮はこのまま維持されると?」
・・無論だ。神の創った迷宮こそが世界の中心・・使徒が無事である限り、迷宮もまた維持される・・
「安心しました」
シュンは深々と一礼した。多少の寄り道はあったが、迷宮で狩人として暮らすという計画に変更は不要らしい。
・・しかし、いくら規則の通りとはいえ、この度の他世界の使徒達はあまりに不憫・・
『あの者達は、正式に使徒として主神様の元に集ったのです。使徒との戦いで命を散らしただけのことです』
・・しかし、あの甲胄は非道いぞ・・
『・・ですよねぇ~』
少年神ががっくりと肩を落として
・・情けとして、世界各地に別世の迷宮を根付かせる。世界を失った神々に、迷宮を含めた少しばかりの土地を分けてやるが良い・・
『・・主神様の決定とあれば』
少年神が平伏した。
「迷宮が増えるのですか?」
シュンは少年神に視線を向けた。
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