第112話 伝言
「東西南北それぞれの壁正面には、75階を突破したレギオン。他の探索者は街中に死鬼兵の侵入を許した場合に討伐を担当して貰います。手に負えない場合は、他レギオンから応援が向かって始末します」
進行役のタチヒコが説明をする。
「死鬼兵の強さはどのくらいなんだ?」
質問をしたのは、"黒の旅団"というレギオンの総帥リョウジだ。痩せて背が高い体を黒衣で包んでいる。死霊魔術の使い手だ。
「レベルは200。HPは100万。ただし、肉体の再生能力は無い」
「再生しないのか」
「北、東、南、西・・と、順番に1000体ずつ出現して襲って来るようです」
タチヒコが淡々と答える。
「・・
「レベル200だろ?
リョウジが顔をしかめている。
「魔物の肉体が強いのは今に始まった事じゃ無いですね」
「レギオンで斃すような魔物がそんなに多く襲ってくるなら、防ぎようが無いだろう? トップレギオンのお前達だって無理なんじゃないか?」
「防がなければ、エスクードは
タチヒコが軽く肩を竦めた。
「"自由騎士同盟"のジェリーだ。勝算はあるのか? 正直なところ、勝ち目があるようには思えないんだが?」
「勝てなければ、ここでお終いです。勝算
アオイがジェリーという少年を見る。
「・・だが、ただ死ぬだけの戦いに、うちのメンバーを参加させるわけにはいかないんだ」
「どうぞ、辞退して下さい。ここで
アオイが手厳しい。
「いや・・協力をしないと言っているわけでは・・」
「ここは対策会議の場です。
アオイが冷ややかに言い放った。
「おう、タチヒコ!」
不意に大声をあげたのは、"竜の巣"のアレクだ。
「さっさと持ち場を割り振れや! ぐだぐだ説明が長ぇんだ!」
「説明も何も、まだ概要しか言っていませんよ」
「どうせ、やってみねぇと分からねぇんだろ? ちゃっちゃと持ち場決めて、そこを死守しろって言やぁ、お終いだろうがよ?」
「単純、ここに極まれりですねぇ・・脳が極小な人はそれでも良いのでしょうけれど」
「なんか言いやがったか?」
アレクがロシータを振り返る。
「持ち場を割り振れるだけの人数が居ないんですよ。メンバー全員がレベル60以上なんて、うちと"お宿"くらいです」
ロシータがため息混じりに言った。
「リョウジのところは?」
「60超えは、3人だけですよ?」
「はぁ!? なにやってんだ、てめぇら!」
アレクが眼を剥いて、黒衣の少年を睨み付ける。
「うるせぇよ! 脳筋野郎がっ!」
リョウジという少年が怒鳴り返した。
「・・ちっ、話にならねぇな! うちを二つに別けるか?」
「下策ですね。相手はレベル200の集団ですよ。"お宿"の人数ですら心許ないほどです」
呆れ顔で首を振るロシータを見て、アレクが腕組みをした。
「じゃあ、どうするんだ? 数が足りねぇまま、壁を抜かれるんじゃ、つまんねぇぜ?」
「普通に考えれば手詰まりなんですが・・」
タチヒコが一番後ろに座っている女へ眼を向けた。
「"ガジェット"のケイナさん、"ネームド"の方々はどちらでしょう?」
「・・担当する場所だけ聴いておけと言われてるのよ」
"ガジェット・マイスター"のケイナが困り顔で言った。
「なんだ、また狩りに行ってんのか?」
アレクが呆れ顔で訊ねる。
「えっと、一応、伝言は預かっているわよ? 人数が足りなかった時にだけ発言しろって言われてるんだけど」
ケイナが苦笑気味に言った。
「おうっ! なんだって?」
アレクが勢い込む。
「これ、うちの大将さんの意見だからね? 無茶を言っているかもしれないから・・ええと・・南壁を"ガジェット" 北壁を"ネームド"が担当する。東西を、アオイとアレクで受け持ってくれ・・"ネームド"は、ポップ地点を周回して順番に撃破する。討ち漏らした死鬼兵が逃げ散るから、一匹残らず殲滅しろ・・だそうよ? いつものマラソンだって、ユアちゃん達が笑ってたわ」
「・・決まりだな」
「決まりですね」
アレクとアオイが視線を交わして頷いた。
「おい、なんだよ、それ・・」
思わず声をあげかけたリョウジをアレクの視線が黙らせた。
「"黒の旅団"は、うちに混じって西壁だ。それで良いな、タチヒコ?」
アレクの言葉に、タチヒコが頷いた。
「ええ、構いません」
「えっと、もう一つ良い? さっきの意見が受け入れられた場合に、追加で伝えておけって言われてて」
ケイナが手を挙げた。
「おう! 言ってくれ!」
「エスクードを守る事を優先する。壁を壊す魔法や技は使い所を考えろ。最長で30日間の戦いになる事を想定しろ・・言いたい放題で御免ね、うちの大将さんの言葉そのまんまだから」
「いや、構わねぇよ。なぁ?」
「ええ、構いません」
タチヒコが頷いた。アオイやロシータも頷いている。
「"ガジェット"は南に避難場所を確保するように言われてる。例の陣地を作っているから、怪我の治療はもちろんだけど、食事の用意もあるわ。上手く使ってちょうだい」
ケイナが苦笑混じりに言った。
「助かります。長丁場ですから、不測の事態も起こります。備えがあるのは心強いです」
アオイが笑顔を見せる。
「薬品類の補給も頼めそうですか?」
ロシータが訊いた。
「1日毎に人数分を配達するわ。中級薬だけどね」
「上級薬も頼みたいんだが、なんとかならねぇか?」
アレクが立ち上がってケイナを見た。
「回った時に注文してくれれば良いわ。大将さんなら何とかするでしょ」
ケイナが請け負う。実際、上級薬もいくらか預けられていた。
「ありがてぇ! これで思いっきりやれるってもんだぜ!」
「壁を壊す魔法や技は考えて使えと言われましたよ? 覚えるだけの脳みそが無いんですか?」
「そりゃ、俺に言う台詞じゃねぇだろうが!」
アレクも笑っていた。
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