第103話 大災害
「"ガジェット・マイスター"の陣地へ退避できる位置に居てくれ」
シュンの指示に、アレクとアオイが頷いた。結局、全員が残って観戦する事になったのだ。
「やり方は単純だ。四方の龍が闘技場に入ったところで、"ネームド"が大魔法で攻撃をする。そのまま全滅するまで攻撃する」
「シンプルで良いな」
アレクが笑みを浮かべる。
「俺の魔法は毒と酸を
「おうよ!」
「南龍をあっさりと
アオイが微笑する。
「あれは前座」
「全力で手抜き」
ユアとユナが不敵に笑った。たっぷり休憩時間があったので、2人のMPは完全回復している。
「"ネームド"の本気・・ということですね?」
タチヒコが
2首の龍が次々に出現し、円形闘技場内はなかなかの賑わいを見せていた。
白龍人は中央を動かずに、腕組みをしてこちらを見ている。時折、口を開けて何やら鳴き声をあげているのは、挑発でもしているつもりだろうか。
「これで全部か?」
シュンの問いかけに、ユキシラが小さく首肯した。
「すべて闘技場内に集まりました」
「よし・・」
シュンは双子に頷いて見せた。
「アイアイ」
「ラジャー」
2人が足下の床に手をついて、全身から魔力光を噴き上げる。
途端、巨龍が入って来た四方の通路口を岩壁が塞いだ。さらに、闘技場の壁の内側を岩壁が隆起しながらぐるりと巡って円形に封鎖する。仕込んでおいた魔法陣が起動したのだ。
続いて、壁や床から大量の水が噴出し始めた。みるみる床面から1メートルほどまで
「始める。退避しろ」
シュンはアレクやアオイ達に声をかけて、左手を闘技場内の水に向けて差し向けた。
「テンタクル・ウィップ」
黒い触手が12本生え伸びて水中に浸り、触手それぞれに水を
十分に水の重みを
「カラミティストライク」
小さく呟くようにして左手を振り下ろした。
直後に、円形闘技場内が12に引き裂けた。遅れて水が大量に蒸発し、強烈な酸の刺激臭が吹き荒れる。致死毒、麻痺毒、呪毒、そして強酸が闘技場内を
「ユア、ユナ」
シュンに言われて、双子がもう一度、埋設した魔法陣を起動するための魔力を込めた。
再び、岩壁が外周に沿って出現し、カラミティストライクの傷跡を覆い隠すと、大量の水が噴出して場内を水浸しにした。
「カラミティ・・ストライク」
シュンの左手が振り上げられ、そして振り下ろされた。
再び、死の嵐が吹き荒れ、ずたぼろに寸断された巨龍が噴き飛び、2首龍が
「ユア、ユナ」
三度、シュンの指示が飛んだ。
「アイアイ」
「ラジャー」
2人が魔力光を放った。
岩壁が取り囲み、水が満たされる。
そして・・。
「カラミティ・・ストライク」
シュンが12本の黒い触手を振り上げて振り下ろした。
細切れにされた巨龍と2首龍が再生速度を上回る速度で、毒に冒されたまま酸に
毒も酸も30秒で消えるが巨龍を仕留めるには十分な時間だった。
「ユア、ユナ、ジェルミー・・やれ!」
シュンの号令を受けて、ユアとユナが右手を上に並び立った。
すぐさま、大きな黄金色の魔法陣が頭上に出現して回転を始める。
「シャイニングゥーーー」
「バーストカノーーン!」
双子がその場で跳び上がるなり、右手を振り下ろした。
魔法陣から巨大な光砲弾が連続して撃ち出され、円形闘技場を掃射する。9発ずつ、合計18発が一面を爆散させていった。
隣で、ジェルミーが、上方へ向けていた右手をゆっくりと振り下ろした。
直後、耳をつんざく落雷音と共に無数の雷光が闘技場内へ降り注いだ。
円形闘技場内を雷撃が埋め尽くし、乱れ飛んだ紫雷の光が水濡れた床上を荒れ狂って
闘技場中央では、白龍人が床に倒れ伏したまま動けなくなっていた。
「カーミュ」
『はいです!』
シュンに
そして、吐いた。
純白の炎がひりつくような熱気と共に白龍人を襲った。
白炎に包まれ、白龍人が声も無く身を仰け反らせて激しく痙攣しながら転げ回る。
(まだ足りないのか?)
シュンは水で
「テン・サウザンド・フィアー」
VSSを取り出して構える先で、ぴくりとも動かなくなった白龍人を黒い槍が
赤く黒い光りに体が包まれると同時に、シュンの指が引き金を絞った。
9999のダメージポイントが連続して跳ね飛び、闘技場の中央を賑やかに彩る。
(・・まだか?)
いったいどれほどのHP総量があるのか。EX技の効果が切れるまで撃ち込んだが、白龍人はまだHPを残しているようだった。あるいは、驚異的な回復速度の持ち主なのだろうか?
「シャイニングゥーーー」
「バーストカノーーン!」
双子の第2射が放たれた。
ほぼ同時に、ジェルミーの雷撃も斉射される。
激しい閃光が明滅し、高熱に視界が
(障壁は無い。ダメージポイントは出ている)
HPの回復速度が速いのか、そもそものHP総量が膨大なのか、どちらも考えられるが・・。
カーミュの白炎が円形闘技場を包み込んで渦を巻く。
「シャイニングゥーーー」
「バーストカノーーン!」
双子の第3射が放たれた。
その時、倒れ伏していた白龍人が頭を抱えて身を縮め、大声で叫び始めた。言葉にはなっていないが、ただの咆吼とは違う、声を想わせる叫びだった。
『ご主人っ!』
「どうした?・・あっ!?」
シュンの危険感知が激しく反応した。カーミュが
「ユアっ!」
「聖なる楯っ!」
反応良く、ユアがEX技を使用した。
「水楯」
シュンが水楯を多重に展開していく。
そこへ、光の奔流が襲ってきた。
金銀が入り混じった膨大な光の渦が、カーミュの
(身体強化っ!)
シュンは、咄嗟の判断で身体強化を使いながら"
バシュゥゥゥゥーーーー
異様な音が鳴り響いて、"魔神殺し"を中心に光の渦が左右へ引き裂けて散っていく。代わりに、シュンの体が燃えあがり、両肩が炭化して崩れ去った。
瞬間、ユナの魔法でシュンの両腕が
ユアの回復で、シュンの全身から
"
「・・すまん」
シュンは肩越しに双子を振り返った。シュンが
「ちょっと日焼けしただけ」
「サンオイル忘れた」
元気に答えたユアとユナだったが、2人とも戦闘服が灼かれて無惨に
シュンの奥歯が、ギリッ・・と軋み音を立てた。
上方を睨み付けるシュンの双眸が金緑色に光り始めている。その視線の先を、金の竜と銀の竜が上方からゆっくりと下りて来た。白龍人に
「始末する。退避して回復に専念しろ」
シュンは背後の2人に声をかけた。
「アイアイ」
「ラジャー」
ユアとユナが敬礼を残し、"ガジェット"の陣地へと駆け込んで行く。
「カーミュとジェルミーも戻れ。ユキシラも退避だ」
シュンは金銀の巨大な竜を睨んだまま指示をした。即座に、カーミュとジェルミーが消え、ユキシラが双子の後を追って陣地へ退避する。
「召喚っ、アルマドラ・ナイト!」
シュンは漆黒の重甲冑を召喚した。
黄金で縁取られた巨大な甲冑が出現してシュンの正面に浮かぶ。
シュンはMPの継続回復薬を飲み干して瓶を乱暴に投げ捨てた。
「我が甲冑と成れっ!」
シュンの命令を受け、巨大な甲冑の胸甲が上下に開き、黄金色の光がシュンを包んで吸い込む。それと同時に、甲冑の脚が生え伸びて石床を踏みしめた。
ブウゥゥゥーーーーン・・
重い震動音が辺りに響き渡り、青白い水のマントが巨甲冑の背へ拡がる。
『死にたく無ければ、"ガジェット"の陣地へ退避しろ』
シュンの大音声が響き渡った。
アレクやアオイ達が呆けたように眼と口を開けて立ち尽くしているのだ。
ヒュイィィィィィーーーー・・・・
すでにアルマドラ・ナイトの手で巨大な"
金の巨竜、銀の巨竜が白龍人の左右を護るように舞い降りた。直後、アルマドラ・ナイトの足下で床が爆散して崩れ去った。巨大な甲冑が消え去ったかに見えたのも一瞬、白龍人の真上に出現したアルマドラ・ナイトが "
まず銀の竜が、やや遅れて金の竜が、白龍人と"魔神殺し"の間へ巨体を入れようとする。
ドシィッ・・
鈍い破砕音と共に、金銀の鱗が飛び散り、身を断ち割られた巨竜が白龍人の上へ重なって落ちた。
直後に、衝撃が荒れ狂い、閃光が巨竜ごと闘技場を呑み込んだ。轟音が74階を激しく揺らす。
ヒュイィィィィーーーー・・
続けざまに、アルマドラ・ナイトが"魔神殺し"を振りかぶり、振り下ろす。閃光が白龍人と金銀の巨竜を撃ち抜いた。
巨大な騎士楯を前に、右手に"
斬り下ろし、
ヒュイィィィーーーー・・・・
アルマドラ・ナイトが"
黄金の輝きを
さらに、アルマドラ・ナイトがゆっくりと"
その時、
『はい、ストーーーーップ!』
少年神の大きな声が聞こえ、いきなり周囲から色が失せて何も見えない空間に包まれた。
=======
8月7日、誤記修正。
水のマントか(誤)ー 水のマントが(正)
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