第20話 パーティ結成


(なるほど、リーダーになると、パーティメンバーのHPが見えるのか)


 自分の左手の甲に並んだ文字に、双子の名前が追加されていた。


<1> Shun

 Lv:1

 HP:227

 MP:316

 SP:8,571

 EX:1/1(30min)


<2> Yua

 Lv:1

 HP:23


<3> Yuna

 Lv:1

 HP:23



 最低限、メンバーのHPくらいは把握しろという事だろう。


(それにしても、HPが少なすぎるな)


 見ていて怖い数値だ。

 巨鳥が翼で巻き上げた土石が当たっただけで即死だろう。


(2人とも魔法は、HP回復、防御力上昇、魔法防御か)


 シュンは水馬を召喚するだけなのに、双子は3つも魔法が使えるらしい。村に居ても、双子同士で常に防御力上昇を掛け合っているらしく、それなりに自己防衛を考えているようだった。


「繰り返しになるけど、ユアの手榴弾は眼と耳を潰すだけなんだな?」


「はい、ボス」


 双子の片方が敬礼した。


「で、ユナの手榴弾は、殺傷半径が2メートル?」


「はい、ボス」


 もう片方が敬礼する。まったく区別が付かない。今度髪飾りでも着けて貰おうか。


(この貸与というのを使えば良いのか?)


 本をめくり頁を読みつつ、右手の魔法陣の"護耳の神珠"を指で押したまま待つ。しばらく押していると、『貸与するメンバーを選択して下さい』という文字が目の前に浮かび上がった。

 少し考えて、左手の甲に浮かんだユアとユナの名前をそれぞれ押してみる。


『パーティメンバー ユア、ユナに貸与しますか? Yes / No 』という文字が浮かぶ。そこでまた本を見て、Yes が了承だと理解して、Yes を押した。


「おお!」


「おお!」


 双子が声をあげた。


「俺の魔法陣をメンバーに貸与できるらしい。これは、耳を銃の音や爆発の音から護ってくれる。あと、こうして指で神珠を触れると、離れた相手とも会話ができる」


「ピアスは不良」


「校則違反」


 さっそく魔法陣を使って、双子が互いの耳朶に現れた紅い珠を見せ合って騒ぐ。


「それから・・これが、閃光とか、眩しさから眼を護る魔法陣だ」


「おおお!」


「おおお!」


 双子が文字通りに眼を丸くした。すぐに魔法陣を使って、


「サングラスは不良」


「マナー違反」


 お互いを指さして騒ぐ。鏡面の眼鏡が目の前すれすれに浮かんでいた。耳や鼻には接触が無いようだ。


(よく飽きないな)


 双子の掛け合いにもいい加減慣れてきた。意味不明な言葉の羅列にも少し耐性がついた気がする。基本的に、この双子に悪気は無い。


「それから・・・ああ、これは貸与というか、使用の許可になるな」


 "便所"も、貸与できた。

 この魔法陣の説明と実演をやった後で、それぞれが扉の中に入って、そして出て来た。時間が経過しないので待ち時間は無いが・・。

 双子がはらはらと涙を流して、シュンを拝むように手を合わせて地面にひざまずいた。


「一生を捧げる」


「感涙しかない」


 それぞれ、嗚咽おえつを漏らして泣きじゃくりながら宣言していた。


(泣くほどか?)


 口から出任せの宣言内容はともかく、本気で泣いているらしい。


(異邦人というのは、よく分からないな)


 シュンは、"護耳の神珠"と"護目の神鏡"を使用し、風が吹き抜ける草原を見回した。見え方に違和感は感じない。風の音も普通に聞こえている。


「ユア、XMというのを頼む」


「イエッサー」


 双子の片方が敬礼をして、右手に黒い円筒形の物を握った。左手で何やら引き抜いて、前方へ向けて下手投げで放る。

 筒が地面に転がり、しばらくは何も起きなかったが、いきなり視界が真っ白に輝き、バァンと衝撃音が鳴った。


「どうだ?」


「眼も耳も平気」


「眼も耳も問題無し」


「ユナ、MKだ」


「ハイサー」


 双子のもう片方が、また円筒形の黒い物を取り出した。左手で何やら引き抜くところまでは同じ。前方へ向けて下手投げで、かなり遠くへ放った。そしてすぐに地面に身を屈める。


「・・ん?」


 何をしているのかと訊こうとした時、爆発が起こった。腹腔に響く重たい衝撃波が襲って来て、シュンはわずかに腰を落として耐えた。爆発音そのものはちゃんと軽減されて問題無い。


(10メートルくらいで、今の衝撃か)


 爆発した地点へ行ってみると、なるほど半径2メートルと言っていたのは嘘じゃ無さそうだ。もう少し広い感じだが、地面に爆発の跡が円く残っていた。


 眼と耳を一時的に使え無くするユアの爆弾と、半径2メートルなら即死しかねない衝撃を起こすユナの爆弾。


(これは使える!)


 実際に体感して確信が持てた。

 これほどの攻撃力と回復魔法の両方が使えるメンバーを得られるとは何という幸運だろう。


 シュンは、"護耳の神珠"はそのまま、護目だけを解除して、爆弾で抉られた地面にしゃがむと、指で図を描いていった。


「戦い方?」


「タクティクス?」


「予定通り、北にある迷宮入口へ行こう。他のパーティから攻撃を受ける可能性は常に考えておくこと」


「はい、ボス」


「はい、ボス」


「俺の武器は、300メートルくらいからの狙撃」


 シュンは、VSSを出現させて手に握った。


「スナイパー」


「ヒットマン」


「先に相手を発見して、できるだけ遠くから撃ち、寄って来たところで、ユアのXMで足止め、ユナのMKで脚を吹き飛ばし、安全な距離を取って撃つ。基本はこれで良いだろう」


「ボスについていく」


「ボスの言いなり」


「で、それを許さない敵が現れた時に、EXを使用して耐え、また距離を取って・・を繰り返す」


 シュンは大雑把に戦いの流れを地面に描きながら説明すると、とにかく基本は距離を取りながらの後退戦だと、2人に念を押した。こちらは少人数。背後を取られたら圧倒的に不利になる。


「無駄に前に出ても危険なだけだ。わずかな傷でも、すぐに回復して、休める時は少しでも長く休む。危険を感じたら、今までやっていたように、EXでも何でも使って良い。その時は、できるだけEXの名称を声に出してくれ。離れていても、使用した事が分かる」


「よく分かった」


「完全理解」


 双子がしっかりと頷いた。


「近接も多少はやれるが・・ぁ」


「ぃ・・?」


「ぅ・・?」


 双子が頭を傾ける。


「そういえば、刀剣はどんなのを使っているんだ? まあ近接戦をさせる気は無いけど、一応把握しておきたい」


 シュンが訊くと、


「出刃包丁っ!」


「柳刃包丁っ!」


 双子がそれぞれ片刃の短刀・・のような武器を取り出した。


「使えるのか?」


「経験皆無っ!」


「料理不能っ!」


 双子が胸を張って断言した。


(ん?・・料理と言ったか?)


 双子の片方が言った言葉を脳内で反芻する。


「もしかして、料理に使う刃物なのか?」


「料理専用っ!」


「魚専用っ!」


 それらしく構えたようだが、見るからに危なっかしい。もう握らせない方が良いだろう。うっかり手でも切ってダメージポイントが23を超えたら即死である。


「まあ、刃物は使わない方向で」


「イエッサー」


「アイサー」


 双子が素直に刃物を消した。


(こいつら、本当に16歳なんだよな? どこからどう見ても、12歳前後なんだが・・)


 シュンは見るからに幼げな双子の容姿を眺めつつ、揶揄われているんじゃないかと疑念を覚えるが、この双子が年齢を偽っても何の得も無い。


「俺は同じ年代の人間と付き合いが少なくて、言葉遣いがおかしいと言われることがあるけど、大丈夫だろうか? 嫌な感じがするなら、変える努力をする」


 今更ながら気になって訊いてみた。これから一緒に迷宮に挑む仲間なのだから。


「年上感、最高」


「年上感、最強」


「・・ええと、言葉遣いが年寄りくさいと言われる事は多いんだ。もう少し、この年齢らしい言葉を選ぶようにしてみようか」


「ノン! 今のままで」


「ノン! そのままで」


 双子が唱和するように言う。


「良いのか? いや・・偉ぶっているとか、堅すぎるとか・・」


「だが、それが良い!」


「そう、それが良い!」


「・・そうか。では、気になるようなら何時でも言ってくれ。魔物を狩って素材を売り生活費を稼ぐ・・それだけをやって生きて来た。俺は他の世界を知らないから、常識に照らせば間違ったことを口にすると思うし、リーダーとして判断を誤ることもあるだろう。その時は、遠慮なく指摘して欲しい。よく考えて理解できれば受け入れる。たかだか16歳の若造が絶対に正しい判断が出来るなどと思っていない。間違ったら謝る。そして繰り返さない努力をする。色々と未熟だが、よろしく頼む」


 シュンは双子に向かって深々と頭を下げた。


「もう、泣きそう」


「もう、泣くべき」


 双子が大きな眼を見開いて、半ば呆然とシュンの顔を見つめていた。しばらくして、双子が互いに顔を見合わせて頷いた。


「感謝です。シュン様」


「感謝です。シュン様」


「シュンと呼び捨てで良い。同い年なんだろう?」


 シュンが苦笑する。


「リーダーを敬う」


「リーダーは敬うべき」


「・・なら、敬われるリーダーになれるよう努力しよう」


 シュンは、再び地面を均して3人の基本的な位置取り、前進、後退、待機の方法、声が出せない状況での手信号など説明していった。


「今日から迷宮に入り、何階くらいがパーティの慣しに良いか調べよう。迷宮に入る際、迷宮内固有の規則説明があるらしい。まずは安全に安定して行動できるよう訓練だ。夜は宿に戻って休む。懐は暖かいから、焦って獲物を狩る必要は無い。何か質問は?」


「他のパーティは敵?」


「他のパーティは味方?」


「必要なら協力する。必要なら攻撃する。他パーティがいきなり攻撃してくる可能性は忘れずに、優先すべきは回避と防御、回復だ。先にも言ったが、EXは危機回避のために独自に判断して自由に使って良い。パーティで獲物を狩る時は、EXを使用しない前提で手順を組み立てる」


「ガッテン承知」


「完全に理解した」


「よし、では・・」


 次の話に進めようとすると、双子が深刻な顔で遮った。


「リーダー、要望がある」


「リーダー、お願いがある」


「なんだ?」


「私達は失敗する」


「必ず失敗しくじる」


「うん?」


「でも、見捨てないで欲しい」


「できるよう努力する」


 何を心配しているのか、双子がやけに真剣だった。


「ああ、そんなことは大丈夫だ。昨日今日会ったばかりで連携が上手くできるはずが無い。お互いに失敗しながら連携をしていこう。それに、連携が失敗して逃げ回っても何でも、この3人が生き残っていたら成功だからな。沢山の獲物を仕留めるための連携じゃ無い。3人が無事に生き残るための連携だ。それだけは勘違いをしないようにしてくれ」


 シュンは、言い聞かせる口調で2人に念を押した。エラードに連れられて狩猟を仕込まれた時に何度も言われたことだ。エラードの狩猟仲間は中堅どころの年配者ばかりで、幼いシュンは自分が役に立つところを見せようとして、背伸びと空回りを繰り返してばかりだった。


(・・考えてみたら、20以上も歳が離れた知り合いばかりだな)


 シュンが仲良くしている人間は、そろそろ引退を考えているような狩人ばかりで、同年代・・10歳くらい上まで含めても2、3人しかいない。


「なんか・・前に自分が言われたことを、そのまま言っている気がする」


 シュンは思わず笑みをこぼした。しかし、すぐに戸惑った表情になった。


「涙腺崩壊」


「限界突破」


 双子が大粒の涙を流していた。

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