第234話 プロジェクトなんとか、始動?
「武闘会のリベンジ・マッチねぇ」
「はい、そうなんです」
役所でバーバリアンとエストレージャの試合の件を少し詰めて、ルイさんの健闘を祈った後、私はレグルスくんを迎えにラ・ピュセルのカフェ改め菊乃井歌劇団カフェに来ていた。
折よく稽古の休憩時間だったようで、皆でお茶をすることになって。
ラ・ピュセルにも
ただし、あまり興味無さげな声色。
「何処の世界でも格闘技ってのは盛り上がるんだなぁ」
「ユウリさんはあんまり興味ありませんか?」
「なんか見てて痛そうだろ? それよりはコンサートとかダンスショーのが好きかな」
「そうなんですね」
「うん。だから売り込むみたいでなんだけど、歌劇団のコンサートとかもどうかな?」
「歌劇団の?」
「ああ」
そう言えば前世でも、アイドルがゲストとして何かのイベントに登場して、ついでにミニコンサートをするようなことがあったように思う。
ユウリさんの言葉でそんなような話を思い出したし、どうせやるなら皆一度に映像に出来た方がいいかも。
だとするとルイさんやシャトレ隊長と、プランを話し合わないといけない。
むむっと考えていると、ユウリさんが何かを思い付いたような顔をした。
「あのさ、オーナー。その幻灯奇術ってのは、オーナーが見たものをスクリーンに写すんだよな?」
「はい、そうです」
「それって、今見た映像を何処か遠い場所にも飛ばして、そこにいる人間に見せるって出来るかい? たとえば、このカフェで今オーナーが見ている映像を、お屋敷のロッテンマイヤーさんも見られる……とか」
「うぅん、どうでしょう? そう言うことを考えたことがなかったもので……」
ユウリさんが言ってるのって、前世でいうところの「生放送」ってやつだよね。
転移魔術や遠距離通信魔術があるんだから、映像も頑張れば出来なくない気はするんだけど。
私はその辺までまだ魔術が解ってない。
だから助けを求めるようにロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんに話を振る。
すると三人は少し考えて。
「うーん。転移魔術や遠距離通信魔術を応用して、そこに幻灯奇術を組み込めればなんとかなるだろうけど?」
「ただ、転移魔術も遠距離通信魔術も使える人が限られていますからね」
「そうだね。それにボクたちは魔術を使うのは得意だけど、研究するのはまた別だしね」
なるほど。
使えないことも無さげだけど、先生たちはその研究をしようって気にはならないってこと
か。
私が研究すれば良いのかもだけど、転移魔術とか遠距離通信魔術は使えないしな。
んー、どうしたもんだろ?
ちょっと考えてると、レグルスくんと紡くんとアンジェちゃんを連れた奏くんが近寄ってきた。
「ソーニャさんにたのめば?」
「あ!」
「ばぁばがにぃにとおはなしできるまじゅつつくったんでしょ?」
「そうだね、ソーニャさんなら解るかも」
ソーニャさんは遠距離通信魔術を作るくらい魔術に精通してる訳だし、聞いてみれば何か解るかも知れない。
家に帰ったら聞いてみよう。
ところで売り込みってなんでだろう?
尋ねると、ユウリさんが後ろにいたラ・ピュセルの六人に視線を投げた。
「あの六人は舞台に立ちなれてるけど、他の団員にも機会を与えてやりたいんだよ」
「ああ、歌劇団としてまだそんなに公演してませんもんね」
「そういうこと」
ラ・ピュセルは順調だけど、菊乃井歌劇団としてはまだミュージカルの公演は打てていない。
シエルさんを除くラ・ピュセルのメンバーがお芝居見経験者であること、団員が少ないこと、そもそもミュージカルの概念に戸惑って中々進まないなど色々理由はある。
でも日々研鑽はしているし、ラ・ピュセル以外の団員にだって光る人はいるから、その人達にスポットライトが当たるようにしたい。
それがユウリさんの目的なんだそうだ。
「ダンスショーなら他の子達にも活躍の機会があるかと思ってる」
「なるほど」
実際、大々的なミュージカルは出来てないけど、小さなダンスショーやらはお客さんに受けている。
だけど知名度という点において、ラ・ピュセルを上回ることは出来ないそうだ。
「私たちも歌わずにダンスショーに出てたりするんですけど、コンサートの方がたしかにお客さんの入りは良いと思うんです」
「だけど菊乃井少女歌劇団はラ・ピュセルだけじゃないですもん!」
「みんなでミュージカルをやるためには、私たちだけが目立つのは違うかなって」
「そうそう。菊乃井少女合唱団じゃなく歌劇団になったんだし!」
「歌劇団として菊乃井の皆さんに認めて欲しいっていうか?」
「男役もぼくだけじゃないし、皆でカッコ良く踊ってるの見てもらいたいな!」
歌劇団の中心であるラ・ピュセルのメンバーが、思い思いの言葉を告げれば、他の劇団員たちがざわっと揺れる。
それは嫌な感じのものでなくて、寧ろ喜びに近いような。
少し考えると、私はヴィクトルさんに尋ねた。
「あの砦で音響とかどう思います?」
「魔術で増幅なり調整したらいけると思うよ」
舞台になる広い場所は、訓練用の広場を利用したらいいか。
それなら歌劇団のショーを試合の前座に持ってきてもいいかもしれない。
「では試合と同時に歌劇団の慰問も、ルイさんに話してシャトレ隊長に打診してもらいましょうか」
私の言葉にラ・ピュセルを含めた歌劇団の皆さんが「やったー!」と口々に叫ぶ。
なんだかお祭りみたいな雰囲気に、ツンツンとレグルスくんが私の服を引っ張った。
「にぃに、れーもそのしあいみられる? かげきだんのダンスも?」
「つ、つむもみたいなー!」
「アンジェも!」
ちびっ子三人がぴこぴことアピールするのに、奏くんも「おれも!」と手を上げる。
私だって楽しいことは皆と共有したい。
なんなら生放送が出来るなら、領民の皆さんにも楽しんでもらいたい。
これはちょっと色々頑張ってみようかな?
その夜のこと。
屋敷に戻って私が最初にしたのは、ソーニャさんとのお話で。
刺繍図案に呼び掛けると、ソーニャさんはすぐに応えてくれた。
それでこれからの
なんでも私と話すのに、テレビ電話的な魔術を開発していたらしい。
幻灯奇術はヴィクトルさんからソーニャさんに伝わっていたそうで、後は魔力を込めたスクリーンを用意するだけって段階なんだそうな。
「近々そっちに行くわね」とソーニャさんが笑って、もしもしタイム終了。
気が付いたら夕飯の時間だった。
この日の夕飯は、ロッテンマイヤーさんも手が空いてる人も奏くんや紡くん、アンジェちゃんも参加するマナー講習夕食会で。
珍しくルイさんも同席。
もしかして、もしかして!?
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