第200話 何がどうしてなんだったのか
「にぃに!」
「あ、起きた!」
「ッ!?」
パチパチと瞬きしたら、目の前に弟と友達のドアップがありました、驚きすぎて息が止まるかと思いました。
住処や種族が違っても、正月を家族と過ごす風習は変わらないそうで、バーバリアンの三人は年末コンサートの後、冒険者ギルドの転移陣を使ってコーサラのご実家に行って、朔日の夕方にこちらに帰って来たとか。
明けて翌日、有難いことに私やレグルスくん、奏くんに誕生日のプレゼントを渡すために、屋敷へ向かっていたところ、森で件の父の使者というお嬢さんとかち合って。
「その時から暗い顔して具合悪そうだし、森の雰囲気変だし、なんだかなぁとは思ったんだけどよ」
「とりあえず声をかけてみたら、君達の親御さんからの使者だと言うし、そうでなくても街からは一直線の道を朝早くからずっと迷ってると泣きそうな顔をしていてね」
「聞けばお屋敷を解雇されて、このお使いが最後のご奉公で、プレゼントを無事渡した証拠のお礼状がレグルス坊やから来なかったら、最後のお給料貰えないって言うじゃない。それは流石に、ねぇ? まあ、ちょっと持ってたプレゼントから異様な雰囲気もしたし」
様子見も兼ねて道案内を買ってでたものの、行けども行けども屋敷に着かない。
そう言えばあの屋敷にはエルフの高名な英雄が三人とも揃ってるわけで、お嬢さんが持ってたプレゼントから発せられる薄暗い何かと合わせて考えたら、これは何かあるなとなったそうだ。
「それでウパトラさんの透かし見の魔眼を使ったんですか?」
「森を見るのにね。案の定、ほぼほぼ隠蔽されて見えなかったけど、道に何か魔術が掛かってるのだけは解ったから。ああ、これは多分お嬢さんが持ってるモノが原因だろうなって」
なるほど。
だけどお嬢さん自身は凄く体調が悪そうにしてたし、運んできたのはレグルスくんへのプレゼントだ。
そりゃあバーバリアンの皆さんも対応に困ったろう。
そこに屋敷に向かう途中の奏くんが通りかかったのだけど。
「遠くから『なんか近付いちゃダメな気がする』って叫んだきり、本当に近付いて来ないんだ」
「奏坊は直感持ちだって言ってたし、こりゃやべぇなって。とりあえず奏坊にはウパトラから状況を説明させて、他に道があるならそこから屋敷に行って、状況を先生たちや鳳蝶坊に知らせてくれって頼んだのさ」
「ははぁ、そういうことでしたか……」
それであの伝言に繋がる訳ね。
ただいま状況の整理のため、リビングでお茶しながらバーバリアンの三人に聞き取り中。
三人とも何処かホッとした様子で、姫君からいただいた蜜柑を皮ごと使ったジャムを落とした紅茶を飲みつつ、寛いでいる。
デミリッチから保護した桃色の髪の女の人も、使者のお嬢さんも、二人とも客間で寝ているそうだ。
「おれの直感は正しかったんだな!」
「そうだね、カナ。良くできました」
「おう!」
ラーラさんに誉められて奏くんが胸を張る。
しかし、ふっとその表情を引き締めた。
「でもその後がなぁ……。ひよさまに走りでおいつけなかった」
「それはボクもだよ。不意を突かれたとはいえ、あんなにあっさり抜かれるなんて……」
ガクッと二人して肩を落とす。
その光景にジャヤンタさんの視線が泳いだ。
「えぇっと、その、悪かったな……」
「私たちもすまない。このアホがまさか、ひよこ君に抜かれるなんて思いもしなかった」
「本当にね。ご免なさいね、ジャヤンタがアホで」
龍族の双子からアホアホ言われて、ジャヤンタさんが小さくなる。
なんでもレグルスくんから、私が何処に行ったのか聞かれてジャヤンタさんがうっかり「お化け退治」とか言っちゃったらしい。
ラーラさんはその時、双子にヴィクトルさんが念のために来てほしいと言っていたと告げられ、愛用の弓を手に、森と屋敷を隔てる鉄門扉から外に一歩踏み出そうとしていたそうで。
「背後から砂埃が舞い上がって、ひよこちゃんの気配がしたなと思ったら、本人が真横を走って行ったんだよ」
ジャヤンタさんはジャヤンタさんで、走り出したレグルスくんを止めようとはしたんだけど、うちのひよこちゃんはなんせ素早くて賢い。
大柄なジャヤンタさんが通れないような、植え込みの小さな隙間をくぐり抜け、同じくらい小回りの効く奏くんを振り切ってのけたのだ。
そしてかち合ったラーラさんが追い付く前に、全力疾走で私の元にたどり着いたという。
天才か。
前から思ってたけど。
じゃ、なくて。
「レグルスくん、心配してくれてありがとう。でも今回のお化けは、レグルスくんがいつも使ってる剣が通じないタイプだったんだよ。レグルスくんがそれでお怪我したら、私は凄く悲しいな」
「だって……」
「うん。助けに来てくれたのは嬉しいよ。だけどレグルスくんが私を心配してくれるのと同じくらい、私もレグルスくんが大事なんだ。解る?」
「……うん」
「周りのひとも同じくらいレグルスくんを大事に思ってるから、行かせないように追いかけたんだよ。それも解る?」
「うん。ごめんなさい」
お膝の上で大人しくお話を聞いていたレグルスくんが、私の言葉にジャヤンタさんや奏くん、ラーラさんにぺこんと頭を下げた。
良い子。
三人とも苦笑して許してくれた。
和やかな空気が流れる。
紅茶を一口飲むと、ミカンの香りが鼻へと抜けた。
その柑橘系の爽やかさを感じたと同時に、ふっと疑問が沸いてでた。
「あれ? ラーラさん、弓を持ってって仰ってましたけど、死霊系アンデッドて物理攻撃通らないのでは?」
それでジャヤンタさんが戦力外として屋敷に撤退したはず。
首を傾げた私に、ラーラさんが口を開いた。
「ボクの弓は死霊系アンデッドもぶち抜けるよ」
「へ?」
「神聖魔術が付与されててね。そういう武器は霊体もぶち抜けるんだ。アリョーシャの剣も霊体を切れるはずだけど?」
なんだと!?
ぎょっとしてロマノフ先生の方に視線を投げると、先生が涼しい顔で頷く。
「え? 物理攻撃が通らないから、あの時魔術だけで応戦してたんじゃなく?」
「いいえ。剣を使ったらデミリッチを消滅させてしまいそうだったから、魔術で徐々に弱らせていただけです」
「デミリッチをあーたんの練習台として捕まえる気満々だったもんね」
負ける相手じゃないってのは、手加減しても楽勝な相手ってことだったのね。
ロマノフ先生の剣にはアド・アストラという銘が付いていて、ラーラさんの弓にもプルス・ウルトラという銘があり、それぞれに霊体に対して攻撃が出来るよう神聖魔術が付与されているそうな。
因みに私が魔力を通したとはいえ、単なるマフラーでデミリッチを拘束出来たのは、神聖魔術が生えたからなんだそうで、神聖魔術が使える人は霊体にも触れられるようになり、桜蘭の偉い人の中にはグーパンでデミリッチを昇天させられる人もいるらしい。何それ、怖い。
ともあれ、現在解っているのはこのくらい。
後は使者のお嬢さんと、デミリッチの中から出てきた女の人の話を聞いてからということで。
「さて、じゃあ俺たちの本題に入るとしようか」
バーバリアンの三人が、いたずらっ子のように笑った。
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