第192話 巡る新年
一夜明けて、新年最初の朝は快晴だった。
うちのパーティーは夕方だから、朝のうちはポニ子さん家族のお世話をしたり、家庭菜園の白菜や大根の様子を見に行ったりと、いつもと変わらず。
その合間にエストレージャの三人組が、砦のシャトレ隊長から正月休みをもらったからと、故郷に帰る前に顔を見せてくれた。
三人は冒険者ギルドの転移陣を使って、故郷の村の最寄りの街に飛んで、そこから徒歩で半日かけて帰るそうだ。
「三日のお休みだと、一日くらいしかゆっくり出来ないのでは?」
「でも、他の人達はここの出身だから一日くらいしか里帰りも出来ません。それを考えたら三日も休みをもらえて有難いことです」
「そうですよ。隊長も『三日ですまんな』って仰ったけど、隊長なんて一日もお里に帰ってないって先輩達から聞きました」
「えぇ?」
ダメじゃん。
人手不足の皺寄せを誰かが被るのはあるあるだけど、ずっと休めないってのはダメすぎる。
働き方改革がまだ足りないのか。
そう思ったのが見事に眉間のシワに出たようで、隣でホットミルクを飲んでいたレグルスくんの手が、サワサワとその辺りに触れた。
それにロミオさんが手を否定系に動かす。
「ああ、いや、休めないとかでなく、正確には帰るお里はあっても、帰るお家がもう無いのだそうです」
「うん? どういうこと?」
「それがご両親は既に亡くなっていて、エリーゼさんくらいしか知人もないそうで、帰らなくてもエリーゼさんは休みになったらちょこちょこ来てくれるから問題ないって」
「はぁ……。え? エリーゼとシャトレ隊長ってお付き合いしてたり?」
「あー……そう、なのかな?」
ティボルトさんとマキューシオさんが顔を見合わせる。
その辺はロミオさんも解ってないらしく、だけど砦で一ヶ月に一回くらい、エリーゼとシャトレ隊長が兵士たちの食事準備をしているというか、シャトレ隊長がエリーゼに料理を習っているのを見かけるそうな。
え? 春なの? 春が来るの?
そうなら姫君がお戻りになった時に、お聞かせできるお話が出来るじゃん。姫君、恋ばな大好きだし。
ほわっと和んでいると、当のエリーゼがバスケットを三つ持ってきた。
「若様ぁ、エストレージャの皆様のぉ、お土産の準備が整いましたぁ」
「あ、ありがとう」
そう言って三つ、藤の籠をエストレージャの前に置くとエリーゼは綺麗な礼をして、シャトレ隊長の事を聞く間もなく退出してしまった。素早い。
バスケットを目の前に置かれたエストレージャも、驚いているようだし、説明しましょうかね。
ロミオさんを促して籠の蓋を開けて、中の物を見てもらうと、三人とも「え?」という顔をした。
「若様、これは……」
「うちで穫れたお野菜と、やんごとないお方からいただいた蜜柑のセットです」
「え、やんごとないお方からって……」
「見た目からは想像できないくらい実がぎっしりしてますから、ご家族でどうぞ」
それ以上は言わないよって構えでいると、三人とも視線で会話して「ありがとうございます」と頭を下げてから、真面目な顔で背筋を正した。
「味噌っ滓だった俺達が故郷に錦を飾れるのも、若様を始め師匠方や、俺達の過ちも受け入れてくれた街の人達のお陰です。これからもよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!」」
もう一度三人は頭を下げる。
それからティボルトさんとマキューシオさんに促され、ロミオさんがそっと懐から三つ、包みを私達兄弟に差し出した。
「これは?」
「なぁに?」
「若様とひよ様と奏君の誕生日プレゼントです」
「俺達三人で作りました」と、はにかむロミオさんが目配せすると、三つの包みが解かれる。
中から出てきたのは木彫りの独楽だった。
「俺達、もともと村にいた頃はこうやって独楽やらなんやら作って街に売りに行ってたんです」
「久しぶりにやったから、勘を取り戻すまでに大分かかりましたけど」
ティボルトさんやマキューシオさんも、なんだか恥ずかしそうにしているけれど、独楽は丸いのやら平たいのやら、可愛い形で綺麗に着色されていた。
「まるいの、かわいいねぇ!」
「本当だ。平たいのもよく回りそうだし。ありがとうございます」
「ありがとう!」
「奏くんにも、必ず渡しますね」
「はい、喜んでいただけて何よりです」
「こんなもので恐縮ですが……」
はにかむ三人にホッコリしたけど、そんな場合じゃない。帰ってきたら渡そうかと思ったら、先に渡されちゃったよ。
ちょっと待っててほしいと三人に告げて、私は早歩きで部屋に戻ると、三人へのプレゼントを持って、また三人の待つリビングへ。
そして、三人へとあわじ結びを連ねて作った、色違いのブレスレットを差し出した。
「私達からもお誕生日のプレゼントです」
「え!?」
「お、俺達にですか!?」
「そんな!? 畏れ多い!」
それぞれのジャケットと同じ色のブレスレットに、三人があわあわしている。
けれどレグルスくんが「おたんじょうび、おめでとうございます」と拍手すると、三人顔を見合わせて照れながらも受け取ってくれて。
そうしてエストレージャは田舎に帰っていった。
お昼は本当にいつも通りレグルスくんと遊んで、夕方。
奏くんと源三さんもやって来て、あとは去年と同じく先生方を待つばかり。
今年こそ昼には帰ってくるって仰ってたけど、やっぱりまだ戻られていない。
「先生たち、なにかお城であったのかな?」
「うーん、去年は
「今年はエストレージャの兄ちゃんたちやラ・ピュセルの姉ちゃんたちのこととか?」
「ああ、そうなのかな……」
奏くんがモショモショと小さな声で尋ねるのに、私は軽く頷く。
だけど多分それに加えて名工の銘付武具を壊した防具の話、それから菊乃井のゴシップの真相なんかも話題に出てそうだ。
そう思っていると、去年と同じくパーティー会場の中心に光の渦が現れて。
集まっていた光が一瞬強くなると、すぐに収まって中心には白い肋骨服の先生たちが立っていた。
「お帰りなさいませ、先生方」
「はい、ただいま戻りました」
「ただいま」
「お待たせ」
声をかけると、三人ともにこっと笑ってくれたけど、どことなく表情に疲れが見えた。
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