7-9話 雷撃の殺人鬼

 ──なんなんだよ奴の怒りは……昨日とは全くの別人だぞ。


 カズキのありがたい情報により、探していたソードツインズの1人・牛島の居場所が東船橋の公園にいることが判明した。しかも、理由はわからんが学校を早退したはずの塚田も現れ、をしているとのことだ。

 それを知った俺は、菜瑠美や桜井さんと共に塚田と牛島を説得することを決意する。


「牛島……奴の今の目的は何なんだよ?」


 何故、牛島はカズキを殺そうとしたのが気にかかる。ソードツインズは殺人と弱き者には手を出す方針ではないだろ。

 もう1つ、俺が藤野を拉致したせいで牛島の人格が変わったことだ。ソードツインズをスカウトするのが昨日までの目的なのに拉致……? 全くもって意味不明だ。


「これは緊急事態だ、早く東船橋に向かって鮫野郎と牛野郎を説得したい」

「そうですね、いち早くタクシーを手配しましょう」

「なんとしても、警察事までに発展したくないなこれは」


 ここは菜瑠美の言う通りにタクシーを使って東船橋に向かいたい、道路が混雑していなければ5分足らずで着くだろう。


「おいおい……東船橋なら歩いて行ける距離だぜ、タクシーで行くなんて正気で言ってるのか天須?」

「大丈夫です桜井さん……タクシー代は私が支払いますので。早く塚田さんと牛島さんを止めたいのでしょ」

「そりゃそうだけど……そうするか。ほんと、天須はまだ謎な点多いしな」


 桜井さんはまだ菜瑠美がタクシー通学していることは知らないんだっけ、タクシーを利用するのに抵抗ありそうな顔をしている。

 とにかく、金持ちがいてくれて非常に助かる。待ってろカズキ、俺達がすぐに駆けつけてバカ共を止めに行くからよ。



◆◇



 俺はタクシーに乗っている間は、ずっと牛島のことを考えていた。てっきり藤野と共に同時遺体破棄事件の犯人を追跡して学校をサボってたと思い込んでたのが、塚田と喧嘩とか意味わからねぇよ。

 そもそも藤野はどうしたんだよ? たしかに藤野は強いが、その藤野だけが同時遺体破棄事件と何かしら巻き込まれてるという線もある。

 菜瑠美も桜井さんも同じことを考えているだろう。菜瑠美はずっと両手で祈り続けて、桜井さんはイライラしすぎて歯を食いしばるような顔をして到着まで待っていた。

 

「東船橋に着いたぞ」


 俺達3人は、東船橋に到着してタクシーから降りる。運よく道路もすいてて信号にも引っ掛からなかったからために4分で着いたな、菜瑠美の判断が吉と出たぜ。


「来たか令!」


 公園に向かう前に、駅前のタクシー乗り場前で待ち合わせをしていたカズキと合流した。カズキは再び牛島と会うことを恐れているが、から安心してほしい。


「令だけでなく、菜瑠美ちゃんと桜井さんも一緒にいるのは非常にありがたいよ」

「私が塚田さんと牛島さんを止める鍵なのはわかってます……私の声であれば思いは届くはずです」

「俺もそのつもりだ、あのバカ野郎共は後で先生共から説教させないとな」


 牛島を怖がるカズキを東船橋から離れることも考えたが、移動中はとにかく情報がほしい。ま、今は菜瑠美の胸を集中して見てるけどなカズキは。



◇◆



「なあ増尾、さっきの牛島の様子はどうだったんだ?」

「それがね、まるで薬物に手を染めたかのような薄暗い顔してたな。あの牛島は殺人マシンと言ってもよく、あんなのが同級生にいるなんてとても信じがたい話だ」


 薬物ねぇ……高校生どころか人間が手に触れる物じゃないだろ。本当に薬物の効果なら、今の牛島の頭が相当イカれていることを頭に入れないとな。

 その場合なら、菜瑠美や桜井さんの声も届かない可能性だってある。俺達は制服姿だし、戦うことだけは避けたいんだよな。

 もし戦いになった場合、カズキや桜井さんの前で俺と菜瑠美と牛島が能力者であることがわかってしまう。


「公園に着きましたよ、あれは塚田さんと牛島さん?」


 俺達4人は公園に到着したが、まだ塚田と牛島は喧嘩している最中だった。この状況、俺はどうすればいい?


「ったくあの2人、まだ喧嘩してるな。しかも、塚田が牛島に殺されかけてるぞ」

「くっ……あのバカ共、命を賭けた戦いなんかしやがって」


 塚田は倒れかけている状態だし、牛島はボルト・ファングの構えじゃないか。これは下手したら、塚田は死んでしまう。

 もうここは前に出るしかない、今は考えることより先に行動に出ることを優先した。


「おい待てよ令!」

「塚田! 牛島! お前ら喧嘩はやめろ!」


 作戦もないと思っているカズキが俺を止めに入るが、生徒同士の無意味な喧嘩を避けるため、すぐさま塚田と牛島に割って入ろうとする。


「な……影地」

「影地……令!」

「塚田、お前大丈夫か?」

「お前ら、学校サボって何喧嘩してるんだ?」

「やめてください塚田さん、牛島さん! あなた達の戦いは無意味です」


 塚田は俺達が来てくれて非常に助かったような顔をしているが、あいつのことだから俺ではなく付き添いの菜瑠美を見て笑顔になったかもしれないな。


「影地っ! お前マジで気を付けろ、今の牛島は人を殺すのが当たり前となる殺人鬼そのものだ」

「わかってる塚田、全部はカズキから聞いた。牛島が何故俺に嫉妬してくるはわからないが、やべー奴なのはわかる」


 塚田は今の牛島が愉快犯になってることを俺に明かす。それに関してはカズキから聞いたし、俺は牛島が雷を操る能力者であることを理解している。

 しかし、今の俺の行動が牛島を怒らせる結果となり、牛島のハートに火を付けた。そして、牛島は地面に拳を叩き割ってきた。


「待ちくたびれたぞ影地令、よくも藤野を拉致しやがってよ」

「俺が藤野を拉致……は? なんのことかさっぱりわからない」

「黙れ英雄気取り野郎! てめぇは絶対俺がここで殺す」


 とにかく、牛島の殺意は尋常ではないが、俺は本当に藤野のことなんて知らない。無実な人間なのに、俺は何故殺される必要がある?


「待ってくれ牛島! お前とは戦、聞いてくれ!」

「なめてんのかてめぇ! 藤野を拉致した罪人の言うことなんて聞くか! 影地令、今ここでこの世から葬ってやる!」


 今の牛島は人の聞く耳を持つ気が全くなく、。昨日まではソードツインズを揃って『わだつみ』にスカウトするだけ考えていたのに、もうそんな状況ではない。

 これはもう戦うしか選択肢はない。『光の力』で牛島を止め、俺が藤野を拉致したと思い込んでる牛島の誤解を解かせてやる──

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