6-5話 賞金稼ぎとしての顔
──実物でその強さを拝見したが、強者と呼ぶのに相応しかった。
2019年5月17日11時20分
中間試験終了まであと5分、俺は最後の科目である数学で絶賛苦戦中だ。苦手科目が最後に残ったためか集中してできるものだと思ったら、個人的には難しく感じたのでそんなことはなかった。
数式と2次関数の問題が1問づつわからない……ここは適当に書いておこう、俺は空欄を出さないと決意していたからな。
「試験終了です、答案用紙を回収してください」
「はー、やっと中間試験が終わったー」
今は後ろから聞こえてきた川間さんの言葉に同意したいな、俺も口から言いたかったけどね。これで、高校最初の試験がようやく終わった、俺はまた能力者に戻る日々が続く。
「ここ1週間は勉学に励んだ」
ただ、数学に関しては満足はいってない。期末試験も1ヶ月近いし、結果が返ってくる前に少しづつ予習しておこう。
「なあ令、試験が終わったから随分とご機嫌だな。昼休み中でもよく勉強してたけど、本当は勉強嫌いだろ」
「そ……そんなことはないさ」
カズキは嫌らしい目線で俺を疑い始める。たしかに、俺が愛媛にいた頃はそうだったかもしれないけど変わったんだよ。能力者と文武両道を目指すことを。
「影地くん、もしかして頭が良いという売名行為をしたいわけ?」
「違うわ! 俺は高校になってから勉強好きになっただけだ。じゃあな」
俺はカズキと川間さんにとびっきりの笑顔を見せながら、教室を後にして下校した。放課後、すごく楽しみにしてることあるんだよね。
なぜなら、俺は菜瑠美と幕張近辺で特訓をしてから菜瑠美の家で一泊するからだ。学校から直接行くよりも、一旦家に帰って出掛ける準備としましょうかね。
あれこれ1週間はまともに動いてなかったから、鈍っていた身体能力と所持技を鍛えるだけでより楽しみになってきた。そもそも、菜瑠美と一緒にいること自体が嬉しいけどね。
◆◇
「待たせたな……菜瑠美」
「時間通りに着きましたね……つかさ」
俺は菜瑠美と待ち合わせをしていた幕張海浜公園に到着した。初めてこの地に踏むこととなったが、とても広い場所だな。
菜瑠美の家から近いということもあり、夜にこっそり菜瑠美が特訓している場所である。今は真っ昼間だから、初めて松戸で特訓した時と同じ状況だな。
「菜瑠美さ……ここは公園なのだから、戦闘服は少しまずくないか」
「そうですか……あなたのために着てきましたし、コスプレと言えば問題ないと思いますが」
菜瑠美は今こそロングコートを着ているが、その下は戦闘服を着用している。喉先にハイレグレオタードが見えているし、靴や長手袋も戦闘服のものだ。
ここもコスプレ好きがいそうな感じもするし、嫌な目線で見られるのも間違いない。てか、恋人の俺でさえも恥ずかしくなるわ。
まさか、菜瑠美は普段ここで特訓してる時も戦闘服じゃないよな……俺は何しだすかわからない菜瑠美を不安視した。
「さてと、『光の力』を使うのも久しぶりだし、まずは様子を見てから動き回ろうか」
相変わらず俺は変に菜瑠美のことばかり考えてしまうが、気持ちを切り替えて今は特訓に励むか。
「つかさ……あれを見てください」
すぐさま特訓を始めようとしていた俺だが、菜瑠美は何かを感じていた。そして、俺に11時の方向を見るように指示された。
「ん、どうしたんだ菜瑠美? え……あれはソードツインズ?」
こんな時にソードツインズの姿を目撃するとはね、あいつらも幕張近辺の出身なのか? 今日は特訓の気分だから、戦う気はさらさらないぞ。
見た限りでは誰かを探してるような感じがするが、もしや桜井さんが言っていた賞金稼ぎとしての姿なのだろうか。
「つかさ……ソードツインズを尾行しに行きますか?」
「バレたらどうなるかわからないが、行ってみよう」
俺と菜瑠美はソードツインズの行動が気になったあまりに、特訓を中断して尾行することにした。あいつらが俺と菜瑠美の存在に気付いてないといいのだが。
もう1つ俺にとって助かったのは、菜瑠美がロングコートを脱ぐ前にあいつらを見かけたことだ。あの衣装は牛島はもちろん、冷静な藤野でも注目するだろう。
◇◆
「お前ら、とにかく見逃してれ」
「はぁ、とぼけたこと抜かしてんじゃねぇ! てめぇさっき駅前のコンビニを襲った強盗犯だろ」
「それがなんだよ、お前らそんなことしたら今後いいことが起きないぞ」
「あんたが言うセリフか? 窃盗という悪事に加担したんだぞ」
市街のビルの挾間に隠れた俺と菜瑠美は、ソードツインズと怪しい黒服の男性が揉めあっていた。
相手は強盗を起こした犯罪者のようだが、あいつらはここでとっ捕まえようとしてるな。俺と菜瑠美は今回尾行が目当てだから、協力ができない。
「こいつらガキの癖にー、生意気だぞ」
「あんたを捕まえるのにガキも老人も関係はないはずだ、この賞金首が」
藤野の奴、強盗を見て目付きが変わった。これを見た強盗は怯えはじめ、その場から離れようとしている。
「おい逃げんじゃねーよ悪党! 藤野、悪いが今日は俺にやらしてくれ。最近試験で暴れ足りなくてイライラしてたんだ、いずれ影地令との戦いに備えてな」
「好きにしな、ただし、いつも通り命だけは奪うなよ」
牛島の奴、あの強盗を俺との前哨戦の相手に決めやがった。暴れ足りないのは牛島の性格を見てわかるが、俺への八つ当たりと見てもおかしくはない。
「ひぃぃ! お助けを!」
「何がお助けだ、欲ばかり言うんじゃねぇよ! 命こそ奪いはせんが、俺の裁きを受けるかよい。うぉぉぉおボルト・ファング!」
牛島は強盗に向けて雄叫びをあげながら飛びかかり、雷をまとった左手を大きく振るいはじめた。まるで、獲物を逃さないような突進力で強盗に襲いかかる。
一方の強盗はボルト・ファングを見て手も足も出すことができずに、怒りはじめた牛島の攻撃を受けることとなる。
「ぐはぁ! この俺がこんなガキごときに」
「俺達がガキで悪かったな、てめぇは檻の中に入ってな。盗んだものも返せたし、結果オーライか」
牛島は倒れた強盗のそばにつき、まるで椅子変わりのように強盗の背中を座っていた。今の牛島、悪人を倒すのが何よりの喜びだと感じる顔をしてるな。
「始末したぞ藤野!」
「……」
「どうしたんだ……はやくこの悪党を警察に連れて行こうぜ」
「ふっ、気のせいか」
藤野は俺と菜瑠美のいる方へと目線を変え、すくざまその場から離れた。なんか、察しの良さそうだし、これは俺と菜瑠美が今の現場を見ていたことがばれてしまったかもな。
「雷の能力者の牛島か」
改めて、ソードツインズは恐ろしい連中であることを認知しし、彼らが実力のある能力者であることはしっかり目に焼き付けた。
牛島が相当なものだから、きっと藤野もとてつもない異能の持ち主だろう。あの牛島を止めることができる唯一の人物だから、それ以上の強さかもな。
「つかさ……あの人達のやり方には賛同できないところはありますが、味方にしてくれれば心強いことは間違いありませんね」
「菜瑠美もソードツインズの『わだつみ』入りには納得か、本当に加入してくれればありがたいのは事実だ」
やり方はどうであれ、メンバーが増えるだけでも俺達にとってはありがたい。後で柳先生や大和田さんに、海神中央高校にやり手の能力者がいるという報告しておこう。
「説得するには、俺自身もそれなりの実力が必要だ」
俺は決心した、何としても二匹狼のイメージの強いソードツインズを『わだつみ』に入れること。
そのためには、俺自身もソードツインズに匹敵するほどの強さを持っていないとな。スカウトするのは、もう少ししてからだな──
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