1-3話 巨乳美少女から突然のキス?

 ──突然美少女にキスされて、俺は夢と現実の区別がわからなくなってしまった。


 同級生の少女をつけ狙おうとする犯罪組織の一員、ファルとデーバの切り札である合体技、双晶氷柱ツインアイシクルをくらいそうになった俺は、このまま万事休すになると思い込んでいた。

 そこに少女が割り込んで入り、2つ目の『不思議な力』で俺を援護した。


「なんだお嬢ちゃんまで邪魔するアルか」

「本当はこの『力』を人前で使いたくありませんでした。でも今は……あなた達を許さない!」


 口数が少なく無表情でもの悲しい雰囲気を見せた少女だったが、顔つき・性格共に一変して、初めて奴らに強い怒りを見せた。

 何せ奴らに、何度も誘拐されかけそうになっていた訳だし、一度は身を救われた俺の惨めな顔なんて見たら、さすがの悲しい顔をしていた少女も慷慨憤激だ。


「別に許さなくてもいいだべよ、だがお嬢ちゃんは獲物だけあって傷つけたくないだべな。」

「しかしもう手遅れアル、王子様だけは始末してお嬢ちゃんを組織の元に連れて行くアル」

「んだとぉっ!」

「落ち着いてください……私が食い止めます」

「落ち着け? 正気か?」

 

 こんな絶体絶命の中で落ち着ける訳がない。今までは上手いようにかわせたりできたけど、今度は奴らの切り札だけあって強力なものだ。


「無駄だべ」

「そろそろ終わりにするアル」

「まずい、共に逃げよう」


 奴らが同時に双晶氷柱から手を離し、俺と少女に目掛けて当てようとした。

 俺は少女を連れてよける以外思い付かない。それでも少女は、その場から離れる気配もなく、手に持っていた球体を消そうとする気配もない。


「何してるんだ、下手したら君もやられるぞ。くそっ、俺にも君みたいな『力』があればっ」

「いいえ、あなたもここにいてください」


 俺は少女に最終忠告をするもの、聞く耳すら持たなかった。本当に奴らの双晶氷柱を食い止める自信がある程の秘策があるのか?

 

「はぁああああああ!」


 今まで見せなかった少女の高い叫び声により、彼女の手にあった直径50cmの輝く闇の球体が1m程に大きくなり、手にあったものが飛ばしてくる双晶氷柱へと向けた。


「な、なんだとアル?」

「お嬢ちゃんにこんな『力』が隠されてたとはだべ」

「私の持つこの『力』、絶対あなた達に渡さない」


 双晶氷柱が、凄まじい勢いで吸うような感じで、少女が放つ闇の球体の中に入っていった。だが、奴らの切り札だけあって威力は十分だし少女は耐えられるのか?


「ばっ馬鹿なー、わし達の切り札がアル」

「その悪しき『力』、あなた達に返します」


 吸い込んだ双晶氷柱は、闇の球体の中で徐々に破片していったが、少女はただ破片しただけでは満足していなかった。


「これ以上……私に関わらないでください」


 奴らにお返しと言わんばかりに、破片していった双晶氷柱を闇の球体から戻しだし、再び奴らの元へ送り返して命中させた。


「まさか王子様ではなくお嬢ちゃんにやられるとはだべ……」

「だがよ……組織がを狙うことだけは忘れるなアル……」


 奴らは捨て台詞を言いながら、仰向けになって倒れていった。

 まあ、『力』とペンダントを狙うために誘拐しようとした少女を怒らせて、奴らの切り札が少女の返り討ちに遭うなんて到底思ってないと見越す。しばらくは公園の地べたで寝たきりの状態と察する。

 しかし、ファルはと言っていた。少女だけでなく、少女の誘拐を妨害しようとした俺までも、奴らの組織の標的にされたようだ。俺も奴らのことは許す気にもなれないがな。


 闇の球体はあまりにも強い『力』だけあってか、少女は左手に右肩を抱えていた。すると、少女が再び俺の元へ顔を合わせようとした。


「あ、あの……今倒れてる人達に連れていかれそうな私を、助けてくれてありがとうございます」

「ま、格好からして同じ海神中央高校の生徒だったからな。そちらも俺がピンチの時に助けてもらってありがとな」


 少女は笑顔こそ見せないものの、俺に対して照れた顔をして感謝を込めていた。俺も少女の援護さえなければ今頃病院送りになっていたと思い、強く感謝した。

 

「奴らが寝ているうちに公園から出よう、俺と一緒に学校まで行けるか?」

「はい……あなたとなら大丈夫です」


 俺は少女を連れて人の気配がない場所を進みながら、安全な場所である海神中央高校の入学式へと向かっていた。

 しかも、あなたとなら大丈夫と言われて俺は少女から厚い信頼を得たんじゃないのかと妄想してしまった。


「胸だけでなく『力』も相当なものとはな」


 学校まで向かう間、俺は少女について考えことをしていた。これまで、オカルトや異能力に眼中のなかった俺が、少女の持つ『力』に関心を示していた。

 一体少女は何故このような『力』に目覚めたのか? 少女自身の体質なのか、それとも誰かに与えられたものなのか? たしかに、外見や胸のサイズなど、出逢って僅な時間だけにも関わらず少女を見て衝撃な所は数多くあった。

 なんといっても凄かったのは、奴らの切り札を仕留めることができた闇の球体を使った『力』だ。

 まるで天文学上だけの話だと思っていたブラックホールが現実に存在したかのような眺めで目が行き、『力』としても強大なものだった。

 少女自身も本当はこの『力』を使いたくないと言ってたし、1度の使用でも肩を抱えていた程だから、まだ闇の球体を完全に扱えるものではないと判断した。


「気にしすぎもよくない」


 少女のことを深く考えているうちに、学校までもう少しまで近づいていた。だが俺は、奴らに対して攻撃をかわしたり、危害を受けられている為か、体力が限界まで迫っていた。


「奴らとやりあってた影響もあってか、俺はそこの路地裏で休みたい。もう奴らに追われそうにない安全な場所まで来ているし、君1人だけでも十分学校へ行けると思う」

「いいえ……私もいさせてください、私もあの人達と争っていて疲れてます」

「それは構わない」

 

 入学式の受付までまだあるし、学校付近の路地裏で1人だけ休んで、少女は先に学校に行かせるよう指示したが、もしかして少女は少しでも俺と一緒にいたいのか? 

 ま、少女に聞きたいことは沢山あるしここは了承する。


「今誰もいなくて助かったぜ。そういえば名前を言ってなかったな、俺は影地令だ。見ての通り君と同じ、海神中央高校の1年生だ。別に呼び方はなんでもいい」

「かげち……つかさ……呼び捨てでもいいですか?」

「ああ、大歓迎だ」


 少女相手に、こんな狭い所で自己紹介するとはな。それにしても少女の方から呼び捨てを強要してくるとは意外であった。


「あの……つかさ……宜しいですか」

「早速、なんだ?」

「私を助けてくれたお礼も兼ねて……あなたに私の持つ『力』を受け取って欲しいです」


 どういう意味だ? 確かに俺は『力』が欲しいようなことを言ったが、そこまでして他人の持つ『力』まで欲しい訳ではないし、容易に少女の持っている『力』を譲渡できる訳がない。


「え? 『力』って君がさっき使って……ん?」


 一体どんな方法でそんなことを……と思ったその瞬間、少女が俺の頬を手に添えて瞳を閉じた。


「ちゅっ」

「んん!?」


 少女が俺に対して丁寧に口を咬まし、キスをしてきた。まだ少女を見て30分すら経ってないのにいきなりやるなんて、性格とは裏腹に少女は肉食系なのか?

 俺は男を15年と344日生きてきたが、こんな経験は初めてだ。さらには、令和目前に人生で初めて異性の相手に口を奪われるなんて、家から出る前の俺に言っても耳を疑う話だ。


「んん……んんん!?」

「んむ、むぅぅ……くちゅっ……ちゅっちゅっ……んむ……ちゅっ」

 

 少女自身も紅潮した顔をしており、さらには確実にリップ音立てて俺の口に入れている……滑らかな唇をしている上に甘い香りもするが、たまったものじゃない。


「じゅるっ……んむ……くちゅくちゅ……れろれろ……ちゅぅぅっ」


 少女は極めつけに舌まで責められてる上に絡み合う、こんなの我慢できるわけがない。『力』を譲渡される前に、俺自体が昇天してしまう。


「ちゅっ……んむ……はぁはぁ」

「はぁはぁ……っていきなりディープキスなんて何事だ?」


 少女は唾液をたらしながらそっと俺の頬から手を離した。ここまで濃紺に攻めるなんて、考えもしなかった。俺の方もいきなりされたのだから、少女に文句しか言えなかった。

 

「あなたの唇の香り……とてもいい感じでした」

「そ、そうか」

「そういえば、まだ名前を言うの忘れてたわ。私は天須あます菜瑠美なるみ。宜しくお願いします……つかさ、続きは学校で会いましょう」

「っておいもう離れるのか、君にはまだ話したいことが……」


 まさか、『力』が譲渡される方法が何かが流れ込むような感じのキスだとは思わなかった。少女こと菜瑠美も自らの名前を言いつつ、路地裏から去り学校へと向かっていた。

 学校の校門に辿り着く前に、俺は超がつくほどの美少女から濃紺なファーストキスをされるという、夢のような出来事を味わった。


「なんなんだ、あの少女は」


 俺は気付いたら、路地裏で放心状態となっていた。誰かに見られていれば俺は不審者扱いで補導されそうだ。

 このままずっと寝過ごす訳にはいかず、俺も立ち上がって学校へ向かおうとしたその時、俺の手から何かが輝きはじめた。


「こ、これは俺の手に光……? 本当に俺は菜瑠美が最初に使っていた光輝く物体の『力』が手に渡っていたのか?」


 こうして俺は、・天須菜瑠美から、光のような『力』を手に渡された。能力者へと目覚めた瞬間だった。

 もうすぐ令和になるというのに、平成の最後に俺はとんでもないことに巻き込まれた上に、強力な『力』を菜瑠美から俺に託されたんだ。別の意味で捉えるとすれば、俺は令和の黎明期にでっかいことをやるんじゃないかと。

 俺の高校生活及び令和にやるべき事が最低2つできた。1つは菜瑠美は俺が護ること、もう1つは迫ってくる犯罪組織を菜瑠美から貰ったこの『力』で叩き潰すことだ。

 それさえできれば俺は命を掛けてもかまわない──

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