5.女騎士とコインランドリー


「なんで正座させられてるかわかるかリファ?」

「……はい」


 床に正座して縮こまっている女騎士は、弱々しく返事をした。

 そんな彼女の前に仁王立ちしていた俺は、ため息を吐いて続ける。


「まぁ俺もね、洗濯機の使い方を教えたとはいえ、そんなすぐ使いこなせるとは思ってねぇよ?」

「……」

「そりゃ異世界人だもん、間違いは誰にでもあるさ。水栓緩めんの忘れたとか、コースを間違えたとか」

「……」

「でもさ、事故にも二つあってだな。うっかりしていて『起きてしまう』ものと、勝手なことをやって『起こるべくして起こる』もの。わかる?」

「……はい」

「前者だったら俺も笑って許すとこだけどさ、後者はさすがにどーなのよって話なわけ。教えたこと以外は基本やるなっていつも言ってるよね?」

「……はい」

「とは言ってもね。異世界に来て、色々興味津々なこともあるだろうよ。だからちょっと試してみたいって気持ちもわからなくはない」

「……」

「そりゃお前、洗剤を使えばあっという間に汚れが落ちるって説明した時、ほんとに目を輝かせてすごーい! ってはしゃいでたもんな。別にこれも自然なことだと思うよ?」

「……」

「で……100歩譲ったとしてだ。『それを多く使えば使うほど、もっとキレイになるんじゃないか』って考えに行き着くのも、納得できることにはできる」

「……」

「実際俺も経験あったよ。一人暮らし始めたての頃、油汚れとかシミとかついた服を洗う時とかな。カップ一杯でいいところをもう一杯入れたりとかしてたよ。そうすれば普通じゃ落ちない汚れも落とせるって思ってたから」

「……」

「でも。でもさぁ。いくらなんでも……」

「……」


「なにも丸々一箱ぶち込むこたぁねーだろぉがよ」


 俺はその洗剤の箱を持ち上げた。

 その中には、何も入っていない。空っぽである。


「……申し訳ない」


 申し訳なさそうにリファはうなだれた。

 俺はもう一度わざとらしく肩を落として息を吐く。


「でもまぁ。異世界人だから、そういうことやったらどうなるか想像するのは難しいだろうな。悪意があってやったわけじゃないし、次回以降気をつけてくれればいいから。これについてネチネチ小言言うつもりはねーよ」

「……」

「問題はここからだ。ここからは異世界人とかそういうの関係ないからよく聞け。俺らが洗濯するのは何のためだ? そう、汚れをキレイにするためだ。これはワイヤードでもこの世界でも同じ。わかるな?」

「……はい」

「じゃあ、お前がしでかしたことは一体何だ? 言ってみろ」

「……それは」


 ボソボソと答えようとするリファだったが、よく聞き取れない。

 まぁ聞き取れなくても、この部屋の凄惨さを見れば一目瞭然なのだが。


 泡。

 もう見渡す限りの泡である。


 そう。

 リファが常軌を逸した量の洗剤を投入したせいで、我が家の洗濯機は文字通り泡を吹いた。

 そのせいで、今俺の部屋の中はバブル状態(物理)なのである。

 バイトを終えて家に帰ってきて、変わり果てた自分の部屋を見たときには割りと自分の正気を疑った。

 「衣類を洗濯しろ」と言いつけたつもりが、まさか部屋ごと洗われているとは……まいったなこりゃ。


「見ての通り、お前がやったことは『部屋を汚した』ってことだ。これは認めるな?」


 女騎士は無言で首肯する。


「じゃあ、当然お前が次にすべきことは『掃除』なわけだ。わかるね?」

「……はい」

「さて、一つ聞くぞリファ……オメー今まで何やってた?」


 少々すごみを聞かせて問うと、リファは冷や汗を流しながら、ボソリと白状した。


「ど、奴隷とずっと泡で遊んでました……」


 こ れ だ よ。

 事故が起きた時点で普通に掃除しとけば、被害は最小限ですんだ。

 だが、こいつはあろうことか泡を洗面所外にまで持ち出して好き放題ぶちまけた。

 洗濯機は洗面所においてあるのに、今ではリビングまで溢れている。

 今日は雨ということもあって、部屋内に干していた別の洗濯物はその被害をモロに食らっていた。 

 で、この有様である。


「わぁぁ! 部屋中が泡々でいっぱいですぅ~!」

「はしゃぐなぁ!!」


 腹ばいになって床を滑走するクローラに向けて俺は怒鳴った。

 おかげで、洗濯はすべてやり直し。部屋も大掃除が必要となった。

 洗濯機の方は当然ながら故障。修理屋を呼ぶにも、一朝一夕には無理だろう。

 案の定、電話してみりゃ3日はかかるとのこと。

 俺は更に肩を落とした。だが落ち込んでいる暇などない。

 一刻も早くこの惨状を修復しなくては。


「とにかく、クローラはこの泡をなんとかしてくれ。全部風呂場に持ってってシャワーで流せばいいから。水の元素封入器エレメントで消し飛ばしてもいい」

「かしこまりました。ご主人様達は?」

「俺らは余計に増えた洗濯物の洗い直しだ」

「洗い直し? でも洗濯のキカイはこわれているのではなかったのか?」


 怪訝そうに尋ねてくるリファに俺は端的に答える。


「そういう人の救済措置ってのがあんの。それを使う」

「きゅーさいそちって……どういうことだ?」

「いいから洗濯物まとめるの手伝え。これから出かけんだから」

「出かけるって……外は雨だぞ? まさか雨水で洗いにいくとかいうのではないだろうな?」

「ンなわけねーだろ。つべこべ言わずさっさとやる」


 そんなこんなで、俺とリファはは泡まみれの衣類を片っ端からかごに放り込んでいった。


 ○


 そして15分後。


 吹き荒れる嵐の中、俺達二人は雨合羽と長靴を装備して歩いていた。

 洗濯物の量は3人分とだけあって、かなり多い。2人いるとはいえ、運搬するのは非常に骨が折れる。

 ……と、思われたが。


「らっくちん、らっくちん♪」


 リファはごきげんな足取りで歌いながら歩いていた。

 その両手にはかごは握られていない。完全に手ぶらである。

 ではモノはどこにいったのかというと……。

 彼女のすぐ横に、

 つむじ風。

 超小型の竜巻が、洗濯かごをすっぽりと包み込み、彼女についていくように移動していたのだ。

 その風は振ってくる雨をはじき飛ばし、中の衣類が飛ばされないようきっちりガードしていた。


浮遊荷台ホヴァーコンテナだ」


 俺が訊くより先に、リファが自慢げに言った。


「風のエレメントを用いて荷物を運ぶ……。前にも説明したことがあっただろう?」

「名前だけな。実際に見るのは初めてだけど。ワイヤードではこーゆーのが一般的だったんだな」

「ああ。運べる質量や移動距離に制限はあるが、そこそこ便利だぞ」

「便利なのはいいけど、あんま無闇に使うなよ。今日は雨で人通りも少ないからいいとして」

「わかってる。それで、我々はどこに向かってるのだ?」

「もうすぐ着くよ。……そこの交差点左な」  


 で。歩くこと数分。

 俺達は、そこに到着した。

 引き戸を開け、中に入る。


「なんだ、誰もいないではないか」


 リファは合羽のフードを脱ぎ、浮遊荷台ホヴァーコンテナの風からかごを取り出しながら言った。


「それに、なんだこのキカイの数々……」


 キョロキョロと周囲を見渡すが、目にうつるのはどれも似たようなものばかり。

 それはドラム缶型の洗濯機であった。


「前に訪れた、自販機がたくさんあった場所みたいだが……」

「コインランドリー」


 この場の名称を言うと、リファは小首をかしげた。


「こいん……らんどりー?」

「ここにあるものは全部洗濯機だ」

「全部?」

「ああ。金を払えば、その洗濯機を動かせる。そういう施設。まぁ自販機の洗濯バージョンってとこかな」

「しかし……洗濯機ばかりこんなに置いてあるなんて、需要はあるのか?」


 片眉を吊り上げて、リファは腕を組む。


「洗濯機なら、マスターの家にもあるだろう? 今回は私が壊してしまったから、仕方なくここを利用することになるが……そう頻繁にどこの家庭も同じような境遇にあるわけではあるまい。飲み物や食べ物が買える自販機ならまだしも……こんなもののためにわざわざ一つの施設を作る意義はあるのか?」

「そりゃ前提からして違うな」

「え?」

「キカイってのはただじゃない。冷蔵庫や洗濯機みたいなのはかなり値が張る。つまり誰でも持てるもんじゃないってことだ」

「……? とは言っても、その二つのどちらも生活には欠かせないものではないのか? でないと、食べ物も保存できないし、洗濯も手洗いですることになってしまうではないか」


 なるほどね。

 俺はベンチに座ってレインコートを脱いだ。


「確かに必需品っちゃ必需品だ。でも、それイコール洗濯機を買わなければならないというわけでもない」


 俺はそのドラム缶型の洗濯機に近寄って、コイン投入口を指差した。


「例えばここは、一回の洗い物で200円だ。お前はこの料金をどう見る?」

「どうもなにも、家の洗濯機で洗えばただではないか」


 いかにも自宅警備隊らしい台詞。

 まぁかくいう俺も一人暮らし始める前はそんな感じだったから、あまり責められたものではない。


「まぁ確かに、家のやつに金を投入する必要はない。だが、それは金がかからないわけじゃあないぞ」

「?」

「お前が今日アレにぶちこんだ洗剤……あれはタダか?」

「……あ」


 な。と俺は肩をすくめて言った。


「他にも電気代、水道代……色々見えないところで金がかかってんだよ。それは人によっちゃ損にもなるし得にもなる」

「損にも得にも?」


 今ひとつ理解していない彼女に向けて、俺は指を三本立てた手を突き出す。


「俺達は今3人で暮らしてるよな。当然洗濯物も3人分でる。うちにあるあの洗濯機なら、全部処理すんのに2回くらいは回さないといけない。それをここにあるちっこいやつで洗っていくとなると……3,4回はかかるだろうな。つまり最大で800円。わかるか?」


 リファは顎に手を当ててしばらく唸っていたが、やがて思いついたように顔を上げた。


「……そうか、洗う量が多ければ多いほどここでかかる費用はかさむが、家のもので洗えば少ない回数で捌ける。つまり安く済ませられる……」

「そう。逆に一人暮らしで、洗い物もそんなに出ない。数日に1回やるくらいの生活をしてる奴だっている。そういう連中にとっちゃ、無用の長物ってだけでなく、無駄に維持費がかかるだけ。そういう奴にとっては、200円払って1回洗う方が、統計的に見れば安いってわけだ」

「そんなところまで計算を……」


 ついでに言っておくと、俺んちの洗濯機は備え付けである。

 それ故にかかる費用も全て家賃に含まれているのだ。でなきゃ俺もずっとこの施設に洗濯を依頼していただろう。


「……」 

「? どうしたリファ」


 ぽやー、と俺の顔を呆けた目で見つめていた彼女ははっと我に返った。


「あ、いや……洗濯一つにここまで経済的なことを考えたことがなかったから、ちょっと新鮮で」

「お前は洗濯ってどうしてたんだ?」

「新兵の頃は洗濯だけでなく、ほぼすべての雑用を一手に引き受けていた。と言っても、与えられた元素封入器エレメントやキカイをただ動かしているだけだったがな」


 ワイヤードにも洗濯機のようなものは存在していたようだ。

 だがそこには、およそ費用対効果と呼べるものは、ほぼ存在していなかったらしい。

 少なくとも、異世界にいたころの彼女にとっては。


「兵長に上がってからは、それも新兵に任せきりになってな。思えば私は、ワイヤードでもこの世界でも、ただ消費して恩恵を受けるだけの人間になってたみたいだ」


 リファはベンチに腰掛けると、感慨深そうに言った。


「蛇口をひねれば水が出る。スイッチを押せば火が起こせる。ここに来てから便利なものばかり目にするが、それはそれ相応の対価を支払っているからこそ。もちろんわかりきっていたことではあるが……慣れというのは恐ろしい」

「……」

「それに比べ、マスターは……家主として日々の生活にかかるコストのことをきちんと考えているのだな。私も日々マスターの家事を手伝ってはいるが、そこまで意識してはいなかったよ」


 体をそらして天井の蛍光灯を見つめながら、女騎士はぽつりと言った。


「生活するっていうのは……そういうことなんだな」


 帝国軍ってのは、物資に関しては何一つ不自由しないものなのだろう。まぁ払ってる対価といえば、国のために戦ってる、ってとこか。

 だから「もったいない」なんて考えられないのは仕方のないことではある。

 それはこの世界に来ても同じ。

 見たこともないキカイや道具を見たところで、それを使うことがどういうことなのかを考慮しない限り、生活スタイルは変わらない。

 そう、ただ「浪費するだけ」というスタイルに。

 だからといって働けとか、そういう話ではない。

 ただ、知っておいてほしいだけなんだ。

 そしてそれを多少は意識して暮らしてほしい。

 でないと……どこでだってまともな暮らしなんか出来やしない。

 できていたらそれは……そいつの知らないどこかで、その負担を背負っている奴がいるってことだから。

 そういう生き方は、絶対にしてほしくない。


「マスター」

「ん?」

「その……すまなかった……今日のこと」


 ぺこり、とリファは頭を下げた。


「洗濯機に洗剤を一箱放り込んだのも、その後で片付けもせずに遊び呆けていたことも、全て私の責任だ。そのせいで、マスターに無駄な出費をさせてしまうことになった」

「あ、いや……」


 今回だけに限って言えば、損害は軽微と言っていい。

 毎月送られてくる木村からの仕送りに比べりゃちゃちいもんだ。

 ただ、このままずっと続くというのはよくないので、反省はしてもらう必要がある。

 でも……。


「いいよ。次からは気をつけてくれれば」

「マスター……」

「さっきも言っただろ? 間違えちまうのは異世界人だから仕方ないって」


 俺は頭を掻きながら言った。


「今日お前は、洗濯とかにかぎらず、何を使うにもコストがかかるってことを知った。なら今後はそれを忘れないようにすること。俺から言うことはそれだけだ」

「……ありがとう」


 顔をほころばせてリファは微笑んだ。

 とたんに俺は気恥ずかしくなって、照れ隠しに立ち上がった。


「ほら、とっとと洗濯するぞ。遊びに来たんじゃないんだから」

「あ、ああ! 早速取り掛かるとしよう」


 ○


「よし、これで完了っと」


 金を入れ、洗濯機のスイッチを入れた俺は軽く手を払った。


「驚いたな。洗濯だけでなく、洗剤の投入、乾燥までやってくれるのか……」


 中でぐるぐる回る洗濯物を覗き込みながら、リファは呟く。

 お得に思えるかもしれないけど、意外と料金相応だと俺は思う。

 逆に200円払って、洗剤と乾燥は別料金だって言われりゃ割に合わない。


「と、とにかくこれで後は洗濯が終わるのを待てばよいのだな」

「おう。俺はちょっと家戻ってクローラ見てくるよ。洗濯が終わったら音が鳴るから、そん時は中を入れ替えてから、今言った手順で洗濯機をもう一回動かしてくれ。終わったやつはかごに入れておいて」

「うむ、わかった」


 俺は雨合羽を再度着て、コインランドリーを出ようとしたが。ふと気にかかることがあったので、振り返ってリファに訊いた。


「……一人で待てる?」


 すると彼女はちょっとむくれた。


「バカにするな。子どもじゃあるまいし」

「でも家で留守番はすごい嫌がるじゃん」

「あ、あれは……家に一人でいるのがいやなだけで……」


 家がダメで、コインランドリーはいい理由はなんだよ。

 さっぱりわからないが、それ以上追求することもないので、俺は小走りで家へと駆けていった。


 ○


 帰宅後。

 クローラは大体掃除を終えていたようで、こちらの方に特に問題はなかった。

 軽く俺も掃除を手伝い、洗濯が終わる頃合いを見計らってもう一度外に出た。

 そして土砂降りの中を再び走り抜け、先程のコインランドリーに到着。


「おーい、リファ。洗濯終わったかぁ?」


 と、静かにその引き戸を開けて中に入ってみると……。



「くんくん……これマスターが着てたやつかな? ん……いい匂い……」



 白シャツを愛おしそうに抱きしめて、顔をうずめている女騎士の姿が。


「すんすん……甘い香りがする……もっと汗臭い感じかと思ったけど……でも、すきかも……」


 目と鼻の先にいる俺に気づかずに、彼女はなおもシャツの匂いを嗅ぐのをやめない。


「ん……マスター……こうしてると……ますたーにだきしめられてるみたい」


 とろんとした、とろけるような甘い声で彼女は独り言をこぼし続ける。


「なんだか、洗うの勿体無いな……そしたらきっと、匂いも消えてしまう……でも、マスターももうすぐ戻ってくる頃だし……」

「……」

「もう少し、もう少しだけ……くんくん」


 やべぇよやべぇよ……。

 俺どうすりゃいいんだこれ。体の震えが止まらない。

 いや、こんな場面に遭遇するのを夢見てなかったわけではないが!

 そんな俺の葛藤など露知らず、リファはうりうりとシャツに更に顔を押し付けた。


「えへへ……ますたぁー♥」


 と。そこまでやったところで、音が鳴った。

 洗濯が終了した合図。

 彼女にとっては至福の、俺にとっては凍りついた時間が終わった。


「あ、終わっちゃった……仕方がない……って」


 くんかくんかを中断したリファは、そこでやっと俺の姿を目の端に捉えた。


「……」


 今度は彼女が凍りつく番だった。 

 一瞬ぽかんとしていた顔が一気に紅潮する。


「ぴゃぁぁぁぁぁぁ………」


 蚊の鳴くような小さい悲鳴。

 俺も恥ずかしくなって顔を背ける。

 からかったり冗談を言って場を和ませるべきかと思ったが、あいにく俺はそこまで機転の効くような人間じゃない。


「あ、あの……これは……その……」


 わたわたして取り繕おうとする女騎士。

 だが全てが空回りして、何一つまともな言葉が出てこない。


「洗濯する前に、匂いを嗅いでおいて……あ、洗うべきかどうか判別してただけで……ほら、汚くないもの洗っても水とか電気の無駄だし……」

「……」

「さ、さっきマスターにも、モノにかかるコストのこと考えろって言われたし……だから、あれだ。ちょっとでも『せつやく』というのをした方がいいかと思って……あぅ」

「……」


 言い訳が苦しすぎると自分でも思ったのか、言葉を切ってうなだれた。


「ぅ……マスター……」


 やれやれ、俺がなんかアクションしないとダメなパターンか。

 俺は小さく息を吐くと、彼女を正面からまっすぐ見据えた。


「リファ」

「は、はい!」


 びしっ、と彼女は背筋を伸ばして直立する(シャツは抱えたまま)

 俺達は数秒間見つめ合っていたが、やがて俺は端的に言葉を発した。

 この場を打開し、気まずい以上この上ない雰囲気をぶち壊す言葉を。




「それ、昨日クローラが外に着てったやつなんだけど」

「畜生めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」




 シャツは バラバラになった 

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