5.女騎士とTwitter
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
今日からTwitterを始めることにした。
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「……」
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
今日から私のTwitterが始まるのだ。
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「……」
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
今日ここに、私のTwitter開始を宣言する。
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「……ん~」
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
今日が記念すべき私のTwitter開始日である。
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「……ダメだ。しっくりこない」
「何回始めますツイート繰り返しゃ気が済むんだよ」
リファが両手でiPhoneを操作するのを横目で見ながら俺は呆れたように言う。
リファがスマホを手にしてから一週間。
初日で早くも渚という名の悪魔の囁きによって、LINE、インスタ、Facebook、そしてTwitterを雑に教えこまれた彼女は今日も猛勉強中である。
インターネットブラウザはとりあえず後回しにして、今はこういったある程度信頼性のあるSNSに限り、俺が見ている時だけ利用を許可している。
ちなみに同時にインストールされていたパズドラとツムツムとポケGOは削除させた、当たり前だが。
で、LINEの使い方(というかスマホでの文字の打ち方)はある程度覚えたところで、本日からTwitterに挑戦中のリファ女史なのである。
アカウントの取得は俺の方でやり、チュートリアルを通過したところで、さぁやってみようという矢先にこれである。
「そんなに開始宣言が重要なことか?」
「当たり前だろう。『ねっと』という不可視世界に身を投じるのであれば、最初の口上はきちんとせねばならん」
とか言って、同じ内容のツイートを連投しているだけなんですけど。
もはや初ツイートもクソもないのだが、わざわざツッコんで言うほどのことでもないので黙っていた。
「騎士たるもの、礼儀はわきまえねばならん。戦を始める時。出陣する時。全てにおいて『最初』は肝心なのだ。だからこの言葉は、多くの者に届ける必要がある」
「そういうもんか?」
「そういうものだ」
ふんす、と鼻息を吹き出して意気込むと、リファはさらにツイートを打ち込み始める。
ま、フォロワー0人で誰も見てないから別にいいんだけどさ。
彼女がフォローしてる人間も、チュートリアルで半強制的にフォローさせられる有名人ばかりだから、逆にフォロバされることもない。
非公開にはしないでおいてやったけど、これくらいの内容なら許容範囲だ。
「むむ……こうか?」
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
今日からTwitterを始める準備はできているか?
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いや、あんたもう始めてるやん。
「私だけが準備ができてても意味はない。『ねっと』とは顔も名前もわからない者達との繋がりによって成り立っているものだと……マスターが言ったことではないか。なら他の者達の確認も取らねばならんだろう」
「多分そいつらはお前が準備を終えるよりずーっと前に始めてるから問題ねぇよ」
「む、確かにそうか。私はここでは新参者だからな……よし、では」
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
今日からTwitterを始めてもよいのだろうか?
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いやだからあんたもう始めてるやん。何今更訊いとんねん。
「新参者だからこそ、既にその世界で活動している者達には許しを得ておく必要はあるのではないか? ワイヤードでは入国管理は徹底していて、行商人や旅人、使者などなどあらゆる入国者に非常に厳しい審査を行っていたのだ」
「安心しろ。誰かに許可を得る必要はない。ついでにいうと、不特定多数の人間に乞う許しなんて無意味だと思うぞ」
「おお、言われてみればそうだな。ならば……」
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
何故私は今日からTwitterを始めるのだろう。
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知らねぇよ!
何他人にアンサー求めてんだよ! いきなり哲学タイムおっぱじめてんじゃねーっつの!
「よくよく考えると非常に曖昧だったので気になってな。どうして私がこのTwitterとやらを始めることになったのか……。確固たる理由もなしに安易に足を踏み入れていい世界ではないだろうからな。ワイヤードでも、入国理由がはっきりしなかったり、必要性が感じられなかったりした場合はその場で即座に追い返していた」
「この世界の文化を勉強するためだろ……。それじゃ不十分か?」
「そんなんでいいのか? もっと明白な理由とかは必要な気がするが……」
「安心しろ。この世界に必要なのはIDとパスワードだけだ。それ以外はいらん」
「はぁ……マスターがそう言うなら。よし……」
リファは大きく息を吐いて再びツイート。
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
Twitterを始めるとは一体どういうことなのだろう?
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だぁから哲学始めんなっちゅうに!
始める前に散々説明しただろう!
「どういうものかについては理解したが、人がそれを使う意義がわからんのだ。利用するのであれば、それくらい頭に入れておくべきだろう。ワイヤード国民は幼い頃から帝国についての1から10までを徹底的に叩き込まれていたのだぞ?」
「あーわかったわかった。だが、お前が知る必要はないし、実を言うと俺も知らん」
「マスターも知らんのか!?」
「むしろ知ったこっちゃねえよ、だ。ワイヤードでは『知っていること』を義務化していたようだが、この運営はそんなこと求めちゃいない」
「運営? あぁ、Twitterの支配者達か……。まぁ求められていないのであれば、無理に考える必要もないな」
目を閉じ、また次のツイート文を考え込んだあと、リファさんはまたポチポチとぎこちなくキーを叩いていると……。
ティロリン♪
という音が彼女のスマホから鳴り響いた。
「!? 何だ今のは」
「どれどれ……あ、リツイートされたんだな」
「りついーと……?」
「拡散、ていうか……簡単に言えば『この人がこういうこと言ってますよ―』って自分のフォロワーに広めること」
「……? ということは、誰かが私の発言を取り上げたということか……?」
「そーゆーこったな」
「そうか……私の口上が誰かに届いたということなのだな!」
心なしか嬉しそうなリファが言うと、またスマホから音が鳴った。
「お、また鳴ったぞ。これもりついーとか?」
「えっと……お、今度はフォローされてる。今リツイートした奴だな」
「ふぉろー、とは?」
「チュートリアルでやっただろ。その人の発言を常時見られるようにしました、ってこと」
「つまり私を監視対象にしたと!? どこのどいつだ! 影からコソコソと……卑怯者め!」
こらこらこら。
「お前も数人フォローしてるだろ? そういう関係がTwitterのシステムなんだよ。監視みたいではあるけど、見てるのはお前のツイートだけだぞ? 誰かに届けたくてつぶやいてんならこれで万々歳じゃんか」
「そ、そうだな……すまない、マスター」
ティロリン♪
またまたリファのスマホが鳴る。
お次は何でしょう、と見てみたら……。
「リプライが来てるね」
「りぷらい?」
「お前あてのメッセージみたいなもんだ。さっきのツイートに対してコメントしてきた奴がいるんだよ」
「私宛に!? それはどうやって見られるのだ?」
「この『通知』ってやつを押して――」
リファが俺の指示の通り通知を確認してみると――。
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ウッド・ヴィレッジ @Wood_Village
@Reference_lumana_viewer
何回始めますツイートしてんですか(笑)
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あーあー、俺以外の人間にもツッコまれてやんの。
「……誰だこのウッドなんちゃらとかいうのは……」
「同じTwitter利用者だよ。ご丁寧に、お前のつぶやきのおかしさを指摘してくれてんのさ。俺みたいに」
「そうだったのか。さすが『ねっと』……どこで誰が見ているかわからんものだな」
まぁ開始してすぐにここまで反応があるのも珍しいとは思うけどな。リファがツッコミどころ満載なつぶやきを連発してたっていうのもあるけど。
「とにかくリファ、ちゃんと返事は返せよ?」
「返事? あ、ああそうだな。やり方は……」
「その吹き出しのマークを押して……そうそう」
返信方法を覚えたリファは早速、そのツッコミを入れてきた親切なアカウントに対してお返事を出した。
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
@Wood_Village
黙れ初対面の相手に名も名乗れぬ無礼者が
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こらこらこらこらこらぁ!!
俺が急いで彼女からスマホを取り上げると、リファはキョトンとした表情で、
「ん? 何だマスター? 何か問題でも?」
「問題しかねぇよ! 何だよその喧嘩腰は!?」
「煽ってきたのは向こうの方だろう。この世界ではまったく知らない人間にこうも馴れ馴れしく話しかけるものなのか?」
「現実じゃそうだけどネットの中ならいいの!」
確かに『FF外から失礼します』を付けなかったり、(笑)とかつけるのはいただけないが、それでも自分のツイートに反応が返ってくるのは誰でも起きうることなんだから過剰に反応するのは良くない。
俺は素早くさっきの彼女のツイートを削除しようとしたのだが。
時既に遅し。
リプライがもう一通届いていた。
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ウッド・ヴィレッジ @Wood_Village
@Reference_lumana_viewer
すんません申し遅れました(笑)
ガティートっていいます! 面白そうな方なんでフォローさせていただきましたー!
よろしければよろしくです(`・ω・´)ゞ
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聖人かよ。
いや、若干舐めてるようには聞こえるけど、ああいうこと言われてこんな反応返せるもんか普通? 俺だったら即ブロック案件なのに。
「面白いだと……? やはりこいつ、私を侮辱しているな」
「まぁまぁ落ち着けよ。こういうところでむやみに相手と争っちゃダメなの」
「何故だ? 持ちかけられた勝負は受けて立つのが騎士道だぞ」
まず持ちかけられてもいないから! あんたの被害妄想だから!
ああくそ、やっぱりこいつにTwitterは早すぎたか。
いや、Twitterじゃなくてツイートを辞めさせればいいのか。
まずは閲覧専門で他の人のつぶやきを観察させれば、自ずとどういうものかがわかってくるはず。
そういう意味では、このガティートさんは見習うべきところがある。
手始めにこの人をフォローして……。
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リファレンス @Reference_lumana_viewer
@Wood_Village
申し訳ありませんでした。
こちらもフォロバしたのでよろしくお願いします。
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「おいマスター! 何勝手に返事を返してるのだ」
「謝ってんだよ。お前も利用開始早々喧嘩なんかしたくねぇだろ」
「喧嘩ではない。神聖な決闘だ」
なんでこういう手合いって、同じ意味の言葉を聞こえのいいように言い直したがるんだろうね。腹立つ。
「なんでもいい、とにかくこっちもフォロー返したから、これでこのガティートさんとは相互フォローの関係になった」
「それはどういう関係なのだ?」
「一種のお友達みたいなもの」
「ふん、こんな単純な操作一つでできる友情などなんの価値もない」
一理あるな。
相互って言ったって結局なんの絡みもないままの関係が続くことだって多々あるわけだし。
フォロー数が多くたって顔が知れてない限り、実際にまともに自分のツイートを見てくれる人はそのうちの1%にも満たないだろう。
だからこのガティートさんみたいに、始めて間もないのにこうやって親密に接してきてくれる人は貴重だ。
「別に友情を育む必要もないし、どういう使い方をするかは勝手だ。ただ喧嘩だけはするな。ふっかけられたらブロックっていう……まぁ相手を拒絶できるシステムがあるからそれを使え」
「なんだ、そういう便利なものがあるのか。なら早速それを使ってこのガティートという奴を……」
「待て待て待て! 今ブロックしたらまた喧嘩売るのと同義だって!」
「はぁ!? 意味がわからんぞ。嫌な者を拒絶するシステムなのか、喧嘩を売るシステムなのか、どっちなのだ!?」
「俺もわかんねぇよォォォォ!!!」
俺は頭を抱えて叫ぶ。
そうなのだ。Twitterってこういうところが厄介なのだ。
理屈で考えだしたらキリがない。頭空っぽにしてできる奴でないと使いこなせないんだろうな、きっと。
異世界人にネットは難しい。そう痛感した。
頭を悩ませていると、早速フォローしたガティートさんのツイートがタイムラインに流れてきた。
俺とリファは同時にスマホの画面を覗き込む。
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ウッド・ヴィレッジ @Wood_Village
俺のTwitterは、ここからはじまる。
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ウッド・ヴィレッジ @Wood_Village
俺達のTwitterはまだ始まったばかりだ!
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ウッド・ヴィレッジ @Wood_Village
俺はTwitterを始めるぞ! ジョジョーッ!!
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……。
やっぱおちょくられてんのかなぁ。
若干不穏なスタートを切りはしたが、無事リファのTwitterライフ初日は終了した。
○
翌日。
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(ウッド・ヴィレッジさんがリツイート)
オウィスイースト @spicy_tuna_roll
今日からTwitterを始めてやるとしよう、クックック
#Twitterはじめます宣言
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(ウッド・ヴィレッジさんがリツイート)
南レオ @sine_cosine_tangent!
べ、別に今日からTwitter始めてあげてもいいんだからねっ!
#Twitterはじめます宣言
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(ウッド・ヴィレッジさんがリツイート)
西川ティグリス @Mitsuki_Teacher
今日から私がTwitterを始めるとでも思ったか馬鹿め!
#Twitterはじめます宣言
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(ウッド・ヴィレッジさんがリツイート)
めぐみちゃん @North_rainbow
諦めんなよお前……お米食べろ!
大丈夫頑張れ頑張れ頑張れ頑張れできるできるできる!
俺だってこのマイナス10℃の中しじみがトゥルルって頑張ってんだよ!
今日からお前は……Twitterだ!
#Twitterはじめます宣言
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「なんだ、最近は随分と私みたいなTwitter新参者が増えているんだな」
「そーね」
声は確かに多くの人に届いた。
悪い意味で。
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