2 戦乱一ヶ月

 赤坂綺の復活からわずか数日で、水学生徒会は再び勢力を盛り返していた。


 たった一人で三十人の討伐部隊を全滅させた菜井台の戦いはあっという間にL.N.T.中に広まった。

 綺は生徒会メンバーと合流し、戦いがあった日の夜のうちに水瀬学園へと進撃を開始する。


 そのころ荏原恋歌のいるエンプレス本隊は弦架地区の北部自警団とにらみ合っており、彼女の下に報告が届いたのは、すでに生徒会は水学の奪還に成功した後だった。


 生徒会がいつか再決起を図るだろう事は荏原恋歌も予想していた。

 だが、十名足らずの部隊で水瀬学園校舎を奪還されるとは考えていなかった。


 水学の即時奪還を可能としたのは、やはり赤坂綺の常人ならざる活躍のおかげである。

 赤坂綺の戦いぶりはまさに修羅か鬼神と呼ぶべきものであった。


 絶対防御と圧倒的高機動力を持つ≪魔天使の翼デビルウイング

 そしてDリングの守りすら紙のように切り裂く麻布美紗子の残した≪断罪の双剣カンビクター≫。


 どちらも最強クラスのJOYである。

 赤坂綺はまさに最強の矛と盾を手に入れた。

 並の能力者が太刀打ちできるわけがないのである。


 その活躍ぶりはまさに一騎当千。

 獅子奮迅の活躍を持って、水瀬学園内部の敵対勢力を駆逐した。


 彼女が変わったのは戦闘スタイルや、赤く染まった髪の色だけではなかった。

 麻布美紗子は常に≪断罪の双剣カンビクター≫の使用を躊躇っていた。

 自身の持つ強すぎる力、その威力を恐れていたからだ。

 他者を傷つけることを強く嫌う彼女に似つかわしくない能力だったと言えるだろう。


 だが、赤坂綺には断罪の剣を振うことに全く迷いが見られなかった。

 立ち塞がる者、仲間を傷つける者には容赦なくその凶刃を向ける。


 命を奪うことも躊躇しない。

 投げ技主体で極力相手を傷つけないよう戦っていた頃の彼女とは全く違う。

 強さも、周囲に与える恐怖も。


 恋歌に唆されてクーデターに加担した生徒会の裏切り者は赤坂綺によって処刑された。

 第一校舎を占拠していた学生たちはただちに降参し、本来の生徒会にその部屋を明け渡した。


 圧倒的な力を持って帰ってきた生徒会役員たちを水学の生徒たちは掌を返すように歓迎し、生徒会もそれを受け入れた。


 新しく再編された生徒会は以前のような調和のための機関ではない。

 もちろん彼女たちの最終的な目的が街の平和を取り戻すことに違いはない。

 だが、そのために武力を用いて敵対組織を攻撃することに躊躇をしなくなった。


 この狂ったL.N.T.という街は優しさと誠実さだけでは救えない。

 彼女たちは麻布美紗子の死からそう学んだのだ。


 荏原恋歌はただちに生徒会を討つため水学へと出陣するつもりだった。

 しかし、背後から思わぬ反抗を受けて断念せざるを得なくなる。


 これまで西部の自警グループとして大人しくしていた美隷女学院の神田和代。

 彼女が十数名の仲間を率いてエンプレスの本拠地である中学校を強襲したのである。

 その動きに合わせるように本郷蜜率いる弦架地区を拠点とした北部自警団も反撃に転じた。


 なんとか北部自警団を追い払うことに成功したが、和代のゲリラ戦法によって本拠地は半壊状態。

 怒りに燃える恋歌はただちに攻撃の矛先を西に向け兵を率いて出撃した。


 美女学前で行われた戦いは荏原恋歌率いるエンプレスの圧倒的勝利に終わったが、神田和代は戦闘を回避して逃げ延び、どこへともなく姿を消した。


 和代に与した美女学生徒は見せしめに処刑された。

 そして恋歌は美隷女学院を新たな本拠地と決めた。


 恋歌が和代と争っている間、水学生徒会の目は東に向いていた。

 東部の宇ヶ坂・流瀬地区及び南東部の都留地区の勢力の併合が目的である。


 その辺りの住人たちは今でこそエンプレスに恭順を誓っているものの、これまで行われた数々の戦いでもどちらかといえば日和見的に立場を変えてきた人間が多い。


 特に都留地区はかつてフェアリーキャッツの支配下だった地域である。

 内心では荏原恋歌に恨みを持っている者も多かった。

 流瀬地区は水学や爆高の生徒も多い。


 赤坂綺はそういった地域に自ら兵を率いて進軍。

 かつて夜の住人たちのように武力をもって勢力を広げていった。


 最初のうちこそ小規模な抵抗を受けたものの、赤坂綺の圧倒的な戦闘力と復活した生徒会の威光に希望を見た者たちは次々とエンプレスから離反、新生水学生徒会の傘下に入っていった。


 もはや大規模な勢力を率いるグループとなった水学生徒会はもはや調停機関とは呼べない。

 赤坂綺の復活からわずか一週間で美紗子が生きていた頃以上の権威を取り戻した。


 赤坂綺の復帰から、約一か月が過ぎた。


 その後半、大きな戦いはなかった。

 生徒会は東南部の支配を盤石にするため力を注いでいる。

 エンプレスは繰り返し勃発する反乱を一つずつ潰すことに忙殺されていた。


 弦架地区の北部自警団や、古大路偉樹のフリーダムゲイナーズなどの例外はあるが、今のL.N.T.は水学生徒会とエンプレスの二大勢力が危うい均衡を保っている状態と言える。


 近い将来、両者が激突するのは誰の目にも明らかであった。

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