第31話






 精霊というものは、その姿を取った生物の特徴を色濃く受け継ぐ。例えば、私の精霊―――サフィアの場合は、神話上の生物である竜。幻獣種であるため精霊として持つ力は精霊の中でも最上位に位置している反面、竜を退治する神話が多く残っている聖人や東方の国において竜の天敵とされているムカデが苦手、というものがある。精霊戦において、相手の精霊の習性や弱点を理解しておくことが、勝利への近道と言ってもいい。


「っ、砂の中に身を隠せ! スクリュー!」


 南方の国の出身であるコロナにとって、鮫は良くも悪くも身近な存在だった。スクリューは鮫の姿をした精霊(サフィアが言うには泳ぐ速度が最も速く、フカヒレにすると美味しいアオザメ)であり、その習性が見事に合致する。コロナはそんな鮫の習性をよく知っており、知っているからこそこうして反撃に転じることができた。

 精霊導師は精霊戦だけできればいい、というものではなく、できるだけ多くの精霊について学んでおく必要もある。だからこそ私たち若い精霊導師はこうして学校に通い、精霊について学ぶ必要があった。


「へっ、さっきまでの余裕はどうしたよ」

「まだ精霊戦は終わったわけじゃねえ……一撃加えたくらいで勝った気になるのは早いんじゃねえのか?」

「確かに俺はまだ一発しか攻撃できてない。だけど、攻撃回数が問題じゃねえんだよ。量より質、って言葉もあるだろ?」


 コロナの言葉の意味を始めは理解できていなかった様子のドレイク。そして、それは形となって現れた。砂の中に潜っていたスクリューが苦悶の表情を浮かべて顔を出したのである。


「なっ、どうしたスクリュー!?」

「俺たちはそいつに一度しかダメージを与えられてない。だけど、大事なのはそこじゃない。大事なのは、“どこに攻撃をしたか”だ」


 コロナの言葉を受けて、ドレイクはスクリューが先ほど攻撃を受けた場所を確認する。嘴の一撃を受けた場所は首のように思えたが、厳密にいえば首ではなかった。


「……えら


 鰓は水中で生活する生物が、水中の酸素を取り込み、体内の二酸化炭素を排出して呼吸を行うための器官だ。魚類にとっては呼吸のみではなく、浸透圧やアンモニア量の調整を行うという役割を果たしているとても大切な器官。それを片方機能不全にされてしまったのだから、スクリューが今まで通りに戦えなくなるのも当然だ。


「まさか、お前そこまで考えて……」

「いや、ぶっちゃけて言うと鰓に攻撃が当たったのは偶然だ。でも、運も実力のうちって言うだろ? 運を味方につけた、俺の勝ちってことだ」


 確かにスクリューからフレアに対しての攻撃は尾翼だったり、仮に直撃してもかすめただけだったりとクリーンヒットとは言い難いものが多い。一方でフレアからスクリューへの攻撃は狙ったものではないとはいえ、魚類の弱点ともいえる鰓。どちらの方が効果的な攻撃ができていたか、と問われれば考えるまでもないだろう。


「さて、そんな状態で精霊戦を続けるのも酷だからな。一気に決めてやるぜ! フレア!」


 フレアは上空へと一気に飛びあがると、そのまま反転して急降下する。隼の狩りの手法である上空から超スピードでの攻撃。この方法で鳩などの鳥を上から襲って仕留めるのだ。ドレイクはスクリューに再度潜って攻撃を回避させようとするが、動揺からかその指示がほんの一瞬だけ遅れた。


「これで、終わりだ!!」


 鍛え上げられた脚と鋭い爪から繰り出される強烈な蹴りが、スクリューの鼻先に直撃する。鮫の鼻先には獲物を捉える感覚器官が存在しており、ここを触れられることを嫌う。いわばここも弱点の一つだ。そんな弱点に時速300kmを超えるスピードでキックを入れられたのだからひとたまりもない。スクリューは仰向けになった砂地の上で力無くプカプカと浮いていた。


「っ……俺の負けだ。まさか、お前なんかに負けちまうかよ」

「……勝ったのは俺だ。だけど、この勝ちは俺一人の力で勝ったわけじゃない」

「どういうことだよ」

「俺には、俺と共に戦ってくれる親友が三人もいる! 今回勝ったのはあいつらのおかげってもんだ!」


 そう言って私たちを指差すコロナ。鈴とマリンは手を寄せ合って嬉しそうに喜んでいたが、私はよくもそんな臭いセリフを堂々と言い放てるものだ、と小さくため息をついていた。それでも、コロナには私にないものがある。


「そして何より、精霊戦において一番必要なもの……ハートの強さが俺を勝たせてくれたんだよ!」


 そう言って自分の胸を思い切り叩くコロナ。彼女には私にはない前向きさがあった。最後まであきらめず、闇の中においても光を求めて前に進み続けるだけの力が。今の私が持っていないものを持っている。コロナもまた、私にとって尊敬の対象……


「うえっ、ゲホッゲホッ……強く叩き過ぎたわ、おえっ!」


……とまでは、まだ行かないかもしれなかった。







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