第27話






「……精霊戦? 精霊戦ができるんだな!?」


 禁止前に一戦だけではあるが、精霊戦を行える。鋼也さんのその温情に素直に喜びの表情を見せるコロナであったが、それからすぐに落ち込んだ様子を見せる。あれだけ精霊戦をしたがっていたのにどうして、と私は思った。


「どうしたんですか? 元気が無いような……」

「あのな。確かに精霊戦ができるのは嬉しいんだけどよ、こんなことが起きたばかりだから……俺楽しんで精霊戦できるのかな?」


 コロナにとって精霊戦は勝ち負けを競うものであると同時に、他人とのコミュニケーションツールでもあるようだった。精霊戦という競技において性別、国籍、人種、年齢、思想信条―――それらの個々人を形成する要素は何も問われることはない。あらゆる人間がただ己の精霊と戦略・戦術によって勝敗を競う。それが精霊戦というものであり、この世界で最もポピュラーな競技になった理由でもあった。


「つまりコロナ様は勝ち負け以前に楽しい精霊戦がしたい、ということですね」

「ああ、精霊戦は精霊導師が自分の持てる力をぶつけ合うものだ。子どもの頃から俺はずっと精霊戦を見続けてきた。それで思ったのさ、色々な精霊導師や精霊と出会い、精霊戦をする。そして自分がどこまで行けるのかを確かめたい。だから俺はここに来たんだ!」


 コロナにとって精霊戦は単純に力と力のぶつかり合いであり、そこにそれ以外の要因が存在することは無いのだろう。しかし、これから行われようとしている精霊戦は、コロナにとって友人(コロナがそう思っているかはわからないが)である私たちを侮辱した相手との精霊戦になる。果たしてそんな相手とする精霊戦に素直に臨めるだろうか、という気持ちが彼女の中にはあったのである。


「コロナさん……」

「コロナ。精霊戦をするのはあなたでしょう? だったら私たちのことなんて気にする必要はないわ。自分の素直な気持ちに従ってすればいんじゃないかしら?」

「そうよ。あたしたちにとってはあんたが楽しんでくれることが一番嬉しいんだし、気にせず自分の思いの丈をぶつけてきちゃいなさい!」


 ここまで色々と彼女と喋ってみてわかったことが二つある。一つは欲望に素直で、直情的であること。そしてもう一つはこう見えて他人のことを思いやれる人間であるということ。一人称こそ“俺”と女性が使う一般的なものではないが、人間に求められるものを少なくとも私よりは兼ね備えている。それならば私にできることは一つだけ。彼女の背中を押してあげることくらいだった。


「リディア、鈴、マリン……わかったぜ! だったらこの精霊戦を全力で楽しむことにする! まあ、俺の初めての相手がリディアじゃねーのが納得いかないけどな!」


 三人のその言葉にコロナはその名が示す通り太陽のような笑顔を取り戻した。精霊戦開始は30分後。会場となる懇談会の会場には学生たちが殺到し、否が応でも盛り上がりを見せていた。

 そして時計の短針が真西を指そうとしていた頃、コロナと私たちを誹謗した男子生徒の一人の精霊戦が始まろうとしていた。しかし、精霊戦の直前になって私たちはあることに気付く。


「……ねえ、ところであの相手は誰なの?」

「そう言えば見慣れない顔よね」

「まあ今日出会ったばかりなので、名前が分からなくても仕方ないですよね……」


 相手に聞こえないように小声で話す私たち。だが、コロナはそんな私の様子などまるで気にも留めなかった。


「相手の名前なんて覚えておく必要ねーよ」

「どうして?」

「だって俺があんなやつすぐに倒しちまうからさ。 名前を覚える必要なんて無いってもんだ!」


 そう言って腕を勢いよくグルグルと回すコロナ。相手がどんな精霊を使うかも判らないのにこれだけポジティブにいられるのは短所でもあるが、ある意味で長所でもある。

 私は相手がどんな精霊と契約したのか、どんな戦法を使うのか、ということに頭を取られ、楽しんで精霊戦をすることができているかというとそうでもない。現に精霊戦に至るまでの経緯が経緯である。自分だったら例え空元気でもそこまで明るく振る舞うことはできなかっただろう。


「コロナ」


 私が精霊戦の会場に向かうコロナを呼び止めた。


「何だ、精霊戦だったらこの後受けるぜ」

「これはあなたの精霊戦。私たちのことなんて気にせず、自分のために戦いなさい」

「……当然だ!」


 意気揚々と会場に向かうコロナ。一方で対戦相手の男子生徒は無言でじっとコロナを見つめていた。男子生徒は先程まで私たちの悪口を言っていたとは思えないほど真剣な面持ちだった。


「来たか」

「来てやったぜ。 なあ、今謝ったら許してあげてもいいんだぜ?」

「誰がそんなことするか。俺にだってメンツってもんがある。悪いがこの精霊戦、手加減しない!」

「いい心掛けだ。じゃあお前……えーと、名前なんだっけ」

「そういや、自己紹介がまだだったな。俺は西方の国出身の“ドレイク”。まあ、覚えなくていいぜ。だって負ける奴に名前を覚えてもらう必要なんてないんだからな」







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