第26話






 掴み掛ったコロナとそれにやり返そうとする男子生徒。


「ちょっと、落ち着きなさいよコロナ!」


 私たちより先に近くにいた鈴がコロナを羽交い絞めにする形で止めに入るも、コロナは腕をぶんぶんと振り回しては「離せ!」と叫びながらなお掴みかかろうとしていた。コロナは背格好こそ小柄であるが、その腕力は見た目以上に強かったのである。


「鈴!」

「リディア! マリン! コロナ止めるの手伝って! あたし一人じゃ無理!!」


 私とマリンが鈴の助勢に加わることでなんとかコロナを抑え込むことに成功した。しかし、ここでコロナを大人しくさせることはできても、コロナに掴み掛られた側男子生徒たちの腹の虫は当然収まらない。


「ん、お前らは噂の二人じゃないか」

「噂?」


 コロナが殴り掛かっていた男子生徒は私と鈴の姿を見てそう吐き捨てる。その言葉と態度には明白な悪意が感じられた。


「先に殴り掛かってきたのはこいつだぞ? お前らこいつの肩を持つのかよ」

「私たちはこの場に居なかったわ。コロナとあなたたちの間に何が起きたかは知らない。だから何が起きたのか聞く必要があるわね」

「聞くまでもねえな! 俺たちが楽しく駄弁ってたら、いきなりこのチビが突っかかってきたんだよ!」

「嘘だ! お前たちは俺の大事なものを侮辱した!」

「侮辱? 俺たちは事実を言ったまでじゃねーか!」

「そんなん事実じゃない! 訂正しろ!!」


 制止する鈴とマリンを振り切って、激昂したコロナが再度男子生徒に殴り掛かろうとする。そんな時、騒ぎを聞きつけたミハエル先生ら教師たちが現場に駆け付けたのは。


「お前たち、何をしている!」


 ミハエル先生の檄が飛び、コロナと男子生徒三人が一歩下がる。いつにも増して冷たい瞳で二人を見るミハエル先生に、男子生徒の仲間たちがその時の状況を説明し始めた。

 当然その証言は揃って「喋っていたら突然コロナが殴り掛かってきた」という旨のものだった。現場に居合わせただけあって信憑性は彼らの方がどうして高くなってしまう。ミハエル先生は彼らの証言を聞いた上でコロナに状況の説明を求めた。


「さて、彼らは君が殴り掛かってきたと言っているが……」

「殴りました。最初に殴ったのは俺です」

「ほう、認めるのか」

「でも殴ったのには理由がある。あいつらは俺の大事なものを侮辱しました」

「……侮辱とは、どういうことですか?」


 人混みをかき分けて来たのは鋼也さんだった。いつものように穏やかな面持ちをしているが、その瞳には普段私や鈴に見せる全てを包み込むような優しさはなかった。


「あいつらはあることないことを言いまくってました」

「あることないこと?」

「蒼竜の姫・リディアは精霊を使って親と妹を殺した。鈴は親の名前でこの学校に合格した裏口入学だ……そう言っていたんだ!」


 コロナのその言葉を聞いて鋼也さんやミハエル先生ら教師たちの顔が曇る。もちろん私についても鈴についても全て事実無根であり、私たちは厳しい試験を突破した上で首席と準主席という成績を修めて入学した。だが、彼らが話していることは既に多くの生徒の間に広がってしまっていた。


「酷い……酷すぎます」

「なんだよ、俺らだって噂話を話していただけだ。責めるならその噂を流した奴を責めるんだな」

(噂……そういうことか)


 黙って話を聞いていた鈴は拳をぎゅっと力強く握りしめ、男子生徒たちを睨み付けていた。鈴個人としてはコロナ同様に男子生徒たちに殴り掛かりたかったようだが、そんな彼女の腕を私はぎゅっと掴んで制止していた。

 当然私もはらわたが煮えくり返る思いであったが、自分が陰口を言われること自体には慣れがあった。しかし、今回の件で私が何よりもショックだったのはやはり自分といることで、自身の過去とは無関係である鈴、コロナ、マリンの三人に風評被害が及んでしまうことがこのような形で実証されてしまったことだった。


「っ……なんということを」

「校長、お気持ちはわかります。ですが、今の我々はあくまで教育者です。全ての生徒に公平に対処しなければいけません」

「ええ。わかっています」


 鋼也さんは今回の件についてコロナと主だった男子生徒たちに3日間の精霊戦の禁止を言い渡した。精霊導師としての第一歩を歩き始めたコロナたちにとって、精霊戦がすぐにでも行えないというのは厳しいことである。それでも暴力沙汰に発展したとはいえ、3日間という短い間の精霊戦禁止は新入生であるコロナたちには十分に温情をかけられた処分と言えた。


「お前たち、今回の事件の罰として今から3日間精霊戦は禁止する。その間に他人の精霊戦をしっかりと見学し、頭を冷やして自分の糧にするのだな」

「……ただ、若き精霊導師にとって3日間とはいえ、精霊戦ができなくなるのは厳しいでしょう。そして、今回の件で色々と禍根が残るのは避けておきたい……そうだ、もし良ければこれから手打ちとして精霊戦を1戦行いませんか?」


 鋼也さんの提案にミハエル先生はやや渋い顔をするが、校長の言う通りこれで生徒間の禍根が消えるのであれば、という理由でこれを承諾した。


 




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