第24話






 何処か気弱そうな印象を受ける少女・マリンはそう言って同級生である私と鈴に何とも恭しく頭を下げる。癖のついたふんわりとしたブロンドヘアーに私と似た色の肌を見ると彼女は西方の国の出身者と思われる。西方の国は四つある国の中で最も文化的に発展した国であり、世界で活躍する精霊導師を最も多く輩出している国である。

 しかし、当のマリンは精霊戦大好きなコロナとは異なり、それほど好戦的ではないようだった。この学校は精霊導師を育成するための学校ではあるが、ここの卒業生が皆精霊導師の道を選ぶかというとそうでもない。

 卒業生の中には契約した精霊の能力を活かして事業を行う者や軍や公的組織に就職する者もいるという。そのため、マリンのような闘争心に欠けていそうな生徒も決して少なくはない。


「えっとあたしは鈴。でこっちがリディア。さっきの精霊戦を見ててくれたならあたしたちのことはわかるわよね?」

「ああ、片や獅子心将の一人娘で片や伝説の蒼竜の姫! 精霊導師としての闘志が昂ぶるってもんだぜ!」

「……そんな、伝説なんて買いかぶりすぎよ」

「そしてお前たち二人を超えてもーっとビックになるのがこの俺だ!」


 精霊導師としての実力以前に身長で私を越える方がよほどためになるのではないだろうか。内心そう思っていると「身体的特徴を揶揄する言葉は決して言ってはいけませんよ」とサフィアに注意された。精霊の癖に妙に人間近い価値観を持っているところが何とも奇妙だ。


「いや、あんた先に身長伸ばした方がいいんじゃない? 牛乳飲みなさいよ」


 サフィアに注意され言いかけた言葉を飲み込んだ私の横で地雷を全力で踏み抜く鈴。「なにをーっ!」と声を上げて私と鈴に飛び掛かるコロナであるが、体格差がありかつ2対1とあってあっさりあしらわれてしまった。そんな光景を見て居た堪れなくなったのか、マリンは制服の胸ポケットからスケジュール帳を取り出した。


「……あ、あの! 今夜は新入生の懇談会があります」

「あまり人混みは得意じゃないんだけど……」

「でもごちそうが出るみたいよ。行こうよ、リディア~」


 渋る私の肩を掴んで急かす鈴。ごちそう、と聞いてコロナの眼がキラリと輝いた。


「ふっ、では行かない選択肢はないな! 今後のために顔を売っておくのは大事だぜ!」

「と言うと?」

「だってそこでダチをたくさん作っとけば色んな奴と精霊戦ができるじゃねえか! 精霊導師たるもの精霊戦をしてナンボだ!」

(ごちそう目当てのくせに)

「コロナ様の言うことも一理あります。お嬢様は苦手かもしれませんが、参加したらどうでしょうか? 互いを高め合う仲間は多いに越したことはありません」

(……仲間か)


 思えば私は5歳の時にサフィアと出会い、7歳から10歳までの間精霊導師として戦い抜いてきた。そしてあの出来事以降他人との関わりを極力断ち切ってきた。思い返せば私は鈴以外の同世代の少年少女とはほとんど、いや全くと言っていいほど関わりを持っていなかった。

 社会、取り分け共同意識の強いこの国において、その中に溶け込めるかどうかで今後自分の歩む道は変わってくるだろう。最もこの時出会ったコロナとマリン―――この二人の少女もまた、鈴と同様に私とサフィアに大きな影響を与えていく……ということをこの時の私は知らなかった。




 *





 新入生歓迎のセレモニーは私たちが寝泊まりする寮から少し離れた大広間で行われていた。その大広間は全校生徒が余裕で入るくらいの広さを持っており、それはこの精霊学校に東方の国の国家予算がつぎ込まれている証であり、それだけ鋼也さんら教員に課せられた使命も大きいということがわかる。


「わあーっ! ごっちそーうだぁー!!」


 大広間に足を踏み入れた途端、コロナは食器を手に食べ物が置かれているコーナーに向かって一目散に駆けて行ってしまった。食事はビュッフェスタイル、いわゆる立食形式で行われているため、食べたいものを早めに確保しておきたいという気持ちはわからなくもないのだが。


「……やっぱりごちそう目当てだったのね」

「子供だもの、仕方ないわ」

「あ、あの……わかっているとは思いますが、コロナさんは同い年ですからね?」


 そう言ってケラケラと笑う私と鈴に真面目に訂正を入れるマリン。ルームメイトのコロナが活発で好戦的なのに対して、マリンは大人しく、そして優等生と言った様相だ。私と鈴は所々似ているところはあったが、隣室の二人は何から何までが正反対のようである。それでも同族嫌悪、というものも存在するため、案外真逆の性格や価値観の方が仲良くなれたりするのであるが。


「わかってるって。さて、リディアはまだ体調が万全じゃないでしょ? ご飯取ってきてあげるわ、何がいい?」

「じゃあ……魚介類をお願いするわ」

「オッケー。マリンは?」

「私は後で自分で取りに行きますので……先にリディアさんと鈴さんの分でいいですよ」


 自分の分と私の分。二人分の皿を器用に持って鈴は食べ物を取りに行った。まだ体調が万全でない私にマリンが付き添う形になり、私たちは大広間の端のベンチに座って鈴の帰りを待つことにした。








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