第21話






「えっ……それって……」


 リディアの口から明かされた過去の出来事。聞いていた話とはまるで違う。少なくとも、リディアはもちろんリディアの家族には何の落ち度もない。それなのに彼女の家族の命は悪意に満ちた人々によって奪われてしまった。


「これは後になって警察の人に聞いたことなんだけど、私はとりわけ強力な精霊を契約しているってことで、いわゆる裏社会の人間に狙われていたらしいのよ。それで私の力をモノにしたかった奴らが家に押しかけて家族に手をかけた」


 リディアが聞いた話によると、サフィアの両親を殺害したのはとある国のマフィアだったという。リディアが精霊導師として世界で結果を残し続けることで、そのマフィアが根城にする国の精霊導師が結果を残せなくなり、それがその国の精霊戦における評価を下げることに繋がりつつあった。

 それを危惧したのがその国の政治家や官僚たちだった。彼らは自国内のマフィアを利用してリディアを誘拐、脅迫することで私を半ば強制的に精霊導師の世界から文字通り消し去ることを企てていた。でも、リディアはパパや国際警察によって守られていたために、マフィアと言っても迂闊に手を出すことはできない。そのため、そいつらの凶刃はリディアの家族に向けられてしまった。


「もういい……」

「私は混乱を避けるために報道統制を敷いてもらうことにしたわ。でも一部のメディアが、そのことを読者目当てに記事にしたの。もちろんほとんどの人がその記事を飛ばしと鼻で笑ったけど、その記事を信じている人もまた少なくなかった。そういう人たちの中では、私が15歳を迎える前に精霊と契約したからこの悲劇が起こった……そう認識していた人も」

「もういいってば!!」


 あたしは無理矢理リディアの話を遮った。あたしもプレッシャーから精神的に追い詰められていたけれど、それでもあたしにはまだ家族という拠り所があった。

 しかし、リディアにはそれすらない。あたしはリディアに比べてかなり恵まれていたということを改めて知った。あたしは上手く行かない時はパパやあたし自身のせいにすることで自分を守っていたけど、リディアにはその弱音をぶつける相手すらいない。彼女はこの5年間の間、苦しみや悲しみを全て自分一人で噛み潰していたのに。


「……辛いこと思い出させてごめん。あたし本当に無神経だった」

「別に構わないわ。いつまでも自分の中で抱えているのも疲れるし」

「……強いんだね、リディアって。精霊導師としても人としても」

「そんなことはないわよ。私だって鈴みたいに弱音を吐くことだっていっぱいあるし」


 その時、あたしたちの会話を聞いていたサフィアがくすりと笑った。その笑い声が癪に障ったのか、リディアはムッとした表情を見せる。


「サフィア……何がおかしいの?」

「いや、お二人が似ていると思いましたので」

「似ている? 私と鈴が?」

「はい。話を聞いている限りではどちらもその愛らしい外見とは似ても似つかぬほど不器用でいらっしゃいますね。ご自分の気持ちを素直に表せず、溜め込んでは涙を流す。これを不器用と言わずに何と言うのでしょうか?」


 思いの外ズケズケと踏み込んでくるサフィアに対してあたしは乾いた笑いしか出てこなかった。それでもリディアはサフィアと日常的にそんなやり取りをしているからか動揺することなく平然としていた。


「……遠慮ないね」

「ええ……酷い言われよう。でも合ってるかもしれないわ」

「えっ、合ってる?」

「合ってるわよ」


 まるで鏡を見るように互いの顔を見合ったあたしとリディア。耐えきれなくなったあたしがぷっ、吹き出したのと同時に二人は声を上げて笑い出した。この時は裏には何もない、心からの笑いであった。


「ねえ、鈴。あの時のことだけど……」

「あの時?」

「ええ。昔、約束したことよ。もう破ってしまったけれど……今からでもやり直すことはできるかしら」


 リディアがこの学校を受験したのはあくまで精霊導師の時に世話になったパパが校長を務めるからであり、パパへの義理立てでここの門を叩いて生徒になった。リディアからしてみれば、パパの顔に泥を塗らない程度に過ごそう、それがリディアの入学した時の思惑だったのかもしれない。でも、そんな彼女の気持ちを変えたのが、あたしとの精霊戦だった。


「正直ブランクがかなりあるし、未だに精霊の力を完全に物にできたとは思っていない。昔のような精霊戦はできなくなっているでしょう。でも……鈴との精霊戦で久々に思えたの。精霊戦が楽しいって。だから……またあなたと一緒により高みを目指したい」

「リディア……りでぃあぁぁ……」


 ポロポロと玉のような涙を流しながらあたしはリディアの名を呼ぶ。かつて破れてしまった約束が、5年ぶりに結び直された瞬間だった。






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