第11話






(……我ながら臭いセリフよね、全く)

 

 同い年の精霊導師相手に随分と上から目線で物を語ってしまったな、と私は密かに自戒する。これでは自分があまり好いていないミハエルさんと一緒ではないか、と。なんだかんだ言って彼のことが苦手なのも一種の同族嫌悪というものなのだろうか。


「お嬢様、今の時点で周囲に人はおりません」


 メイドが私にそう告げる。やがて私はその場に立っていることができず、後ろを歩いていたメイドに倒れるようにしてもたれかかった。

 

「……久々の精霊戦は応えるわね」

「まだ負担は大きいでしょうか?」

「当たり前じゃない。やっぱりブランクの大きさは無視できないわね」

 

 5歳で精霊と契約を結んだできる私は確かに希有な存在だろう。しかし、その代償は決して小さいものではない。サフィアと共に戦うと私の身体には昔から何かしら得体の知れない疲労感が残る。

 勿論成長と共に私の身体にもある程度の抵抗力はついてきている。しかし、私が成長するのに比例して精霊の力も増していくため、結果的に自分にかかる負担はどんどん増していくのだ。私が精霊導師としての活動に数年で区切りをつけたのもこの増していく負担が原因の一つだった。

 

「お嬢様……」

「……何心配そうな声出してるのよ。大丈夫よ、私は倒れない。こんなところで……倒れてなどなるもん……ですか」

 

 私は息苦しそうにその場に蹲る。このような姿を見せられるのは少なくとも普段の私を知るこのメイドことサフィアのみであると言えよう。しかし、ここは公衆の面前であり、他の人間が普通に通りかかる場所であることを、この時の私は失念していた。

 

「おい、どうした! 大丈夫か!?」


 何処かから私を呼ぶ声がした。私のことを見つけたのは、まるで炎のように鮮やかな赤髪に褐色の肌をした小柄な少年とも少女とも似つかぬ人物だった。肌の色からして南方の国出身の人物だろうか、その人物は倒れている私の姿を見つけると、そのまますごい勢いで駆け寄ってくる。


「お前こいつの連れ添いだよな? だったらモタモタすんな! 医務室に連れてくんだよ!」

「は、はい」


 私は目で「気にするな」とばかりにアイコンタクトを送ったが、身長差のせいかそもそもの私の目を見ていなかったのか。その人物はメイドから私を引き剥がすと、その小さな身体のどこにそんな力があるのだろうか、と思えるような力を発揮しては、私をほぼ無理やりと医務室へと運んでいくのであった。小さな身体に背負われている形になるが、どこか幼い時に母に抱えてもらっているような。そんな錯覚を覚えながら私は目を閉じた。




 *




「……おとうさん? おかあさん?」


 息を切らし、駆けてきた少女がドアを開ける。薄暗く、簡素な祭壇のようなものが設けられた味気ない部屋の中心部に白いシートに覆われた二つの物体が置かれていた。少女は「おとうさん」「おかあさん」と呼んだそれに近づく。少女の眼に映ったのは彼女の両親―――だったものであった。


「ああ……あああっ……どうして……なんでっ……おとうさぁぁん……おかあさぁぁぁん!!」


 まるで天を裂きかねないほどの慟哭を上げ、少女は涙を流す。終わりを迎えた二つの命を前にした瞬間、私の心はまるで氷が砕けるかのように壊れた。








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