3-9 敗北

関節部に甚大な損傷を受けたブラッディローズは単独でカーゴに戻ることが出来ず、イオとアンヌはローズをコウシャ・ウラに残したまま、緊急用のゲートから地表へ戻ることになった。

 本来非常用に使われるエレベーターは揺れが激しく、必要以上にガタガタと音を立てた。


 アンヌは後ろの壁にもたれ掛り、もう一度イオを見た。

 側面に左半身を預けたまま、俯いた背中を見せるイオ。2人はコックピットから一言も言葉を交わしていない。退場時に肩を貸そうとして、イオがそれを断った時からずっと気まずい沈黙が流れていた。


 白色の冷たい電灯が重苦しい空気をより一層際立たせているのを感じ、アンヌは咳払いをすると口を開く。

「上手い手だったわね」

 イオの反応はない。

「長時間照射された超音波はその振動で、時には鋼鉄も破壊するって聞くわ。通り一遍の攻撃ではなかったわけ。物理攻撃では滅多に傷付かないメイデンの装甲もあれなら……脆くなっていても不思議じゃあないわ。特に、関節とアクチュエーターなんて一番――」


「うるさいッ!」

 イオが怒号がアンヌを遮る。


 アンヌは表所を変えず、唇を噛んだ。


「………ごめん」―謝るイオの声は本心ではなかった。


「気持ちは分かるわ」


「あんなの………あんなの卑怯だ。勝てるわけがないッ!」


「でもあなたはよく戦った」


 和ますつもりも、励ましでもなかった。同じ目標を目指す者として次の対策を練っておきたかったのだ。アンヌにしてみれば、所詮は学内での派閥争い。イオの憔悴は疲れと敗北の悔しさからだろうと思っていた。


 だから、イオの

「負けは負けだろッ」

と言う言葉にも

「そうよ。私達は負けたのよ。それがどうしたの?」

そう悪意無く返してしまった。


 ダンッと側壁を叩く、イオの拳。安っぽい銀色の壁が微かに凹んでいた。


「あたしには才能なんかないんだ…………」


 チンというベルの音が鳴り、地上を知らせるランプが点灯するとドアがざらついた金属音を立てながら開く。

 暗い真っ直ぐの廊下が広がっている。

 イオは逃げるようにエレベーターから出ると数歩歩き、立ち止まった。


「ッ………もう戦わないッ。あたしはもう二度とあんなもんに乘ってやるもんかッ!」

 それだけを叫ぶと闇の中へ消えて行く。



 分かった。なぜ彼女があそこまで必死だったのか。


 彼女は自分の才能を証明しようとしていたのだ。それが分かった途端、アンヌは

「そんなくだらないこと………で………」

と呟く。


 舌の奥に溜まった唾液が苦い。

 アンヌはしばらくエレベーターの壁にもたれ掛り、次第に遠のいていくイオの足音に、少しめまいがしそうになった。









   つづく


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