第1話 『薔薇の十字』

1-1 やって来た少女

  柔らかい光が落ちる石造りの道。

 落ち着いた晩夏の風が青々と茂った照葉樹の葉を撫でる。

 穏やかな朝。


 しかし、そこに立つ一人の少女の心中は決して穏やかな物ではなかった。

 背の低い、ショートカットの少女の顔はその落ち着いた茶色の髪と対照的にひどく歪んでいる。


  大きくクリッとした黒目の多い目、大きい口、丸い鼻。こんな表情をしていなければ決して美形といって差し支えない顔だ。

  そのどれも愛嬌がある。

 そう、ここまで眉間しわを寄せ、眉をつり上げていてもその愛嬌は隠せない。 


 胸はキラウェア火山ばりに平坦であるが、れっきとした女。

 いや、失礼。少女である。

 彼女は今まさにとんでもないことをその大きな口から吐き出そうとしているところであった。


 誰に向かってか?


 吐き出そうとするのだから、吐きかけられる相手がいなければならない。

 彼女の眼前には吐きかけられようとしている少女がいた。

 先ほどの少女と比べるのであれば百万倍は整った顔立ち、姿勢も正しく華麗という言葉がふさわしい。


 髪は陽光を照り返さんばかりの金髪である。まるで集光しそれ自体が発光しているのではないかと言わんばかりである。

 加えて恐ろしいほどの長身だ。態度もさることながら文字通り、目の前の少女をその長身で見下ろしている。スラッとしたその身なりはまさに八頭身。


 再び先ほどの少女に戻る。

 彼女の口は静かに痙攣をおこし始めていた。

 自分が今から言おうとしていることの重大さを自分でも推し量り切れていないのだ。

言った後の責任や今後を考える気持ちがグッと彼女の唇を動かさないでいる。


 しかし。


 少女は意を決したように大きく息を吸い込むと心を決めた。


「決闘だ! 決闘をあんたに申し込む‼」


 まさかそんな言葉を吐きかけられるとは思っていなかったのか、長身の少女は口を半開きにしたまま呆気に取られて目の前の少女を見つめていた。


 “とんでもないこと“を言った少女は肩の荷が降りたようにしたり顔で睨み返す。酷く歪んだ顔もどこへやら。

 だが、次の瞬間には先ほどにもまして眉間に皺が寄ることになる。


 長身の少女が肩を震わせるようにして笑い出したのだ。

 それも、如何にも相手をコケにしたような笑い方だ。

 下品な笑い方ではなく、どこか気品も混じったその笑い方が少女の眉間を更に歪ませる。



 このただなる気配と騒ぎ、2人の少女の間に一体に何が起こったというのだろうか?

 それは数十分前に遡らねばなるまい。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



アポロン女学院はこの人工浮島プラトニックガーデン『アポロン』の中でも最も高い位置に存在している。木々が生い茂った山の頂上にそびえるのがそれだ。


幾多の貴族のお嬢様が嫁入り修行と礼儀作法、あらゆる勉学に勤しむ場であるこの学院の様相は学校と言うよりも、巨大な城塞である。


地上からでは分かりにくいが、その建物は大きく三棟に分かれており、校舎の西側を囲むようにして銀色の巨大な箱が無数に並んでいる。


天気の悪い日や薄く霞みがかった日などには、その身をひっそりと雲海に隠してしまう。

それほど高い場所にある為、学院へ至るまでも一苦労である。


長くうねる通学路を言ったり来たりしながら、長くきつい傾斜を昇り終えるとそのメインゲートがやっと顔を見せる。


その勾配を見ればまさか、徒歩で登ろうなどとは思うまい。

それがお嬢様であれば尚の事。だが心配はいらない。全寮制のこの学校では長く厳しい通学路を往復するのは年に3回ほど。

そして、勿論徒歩など考えて見たこともないであろう。


しかし、たった今一人の少女がそんな坂道を上り終えた所であった。


 薔薇十字ばらじゅうじ イオは右肩に背負っていた頭陀袋をどさっと地面に降ろすと大きく伸びをした。小柄ながらしっかりとしたその体を支える二つの腓腹筋がやっと安息を与えられ、ヒクヒクと動いている。

一方、筋肉の疲労に反して彼女の息は全く乱れていない。

 

伸びをしたまま前を見ると立ちはだかる様にして正門が口を開けていた。


 貴重な金属で作り上げられた門は、今は開け放たれているものの、一度閉じてしまえば外部の進入を一切寄せ付けないであろうことは明白。高さもイオの三倍はある。


 やっと着いたかと大きく息を吐き出すとイオは額滲んだ汗を拭う。

 肩に背負っていた布袋を地面に降ろし、軽く肩を回すと道を振り返る。


 急激な傾斜と道を挟むようにして並ぶ無数の木々の間から麓の町が一望できる。空は気持ちよく晴れ渡り、町の向こうに広がる広大な大地までも曇り一つなく、鮮明に確認できた。


 風が吹き抜け、動きやすいように短くカットされた茶髪が風になびく。


 イオは再び視線を戻し、今まさに足を踏み入れようとした学院を見上げた。ふもとの山からでもその巨大さは伝わって来るが、いざ目の前に来てみると改めてその大きさに圧倒されそうになる。


 衣類や教科書類など諸々の物がパンパンに詰まった袋を持ち上げ、学内を進み始めたイオは何かがぶちまけられる音と少女の悲鳴で再び歩みを止めた。


 振り返ると地面に散乱した無数の書籍としゃがみ込んで自身の眼鏡を探す少女の姿があった。余程視力が弱いらしく、すぐ傍に転げた眼鏡すらまともにつかめていない。


 イオは無言で駆け寄ると眼鏡を拾い上げ、少女に手に掴ませる。


「大丈夫か?」


「あ、ありがとうございます。ごめんなさい……私ってドジで……」


 眼鏡を顔に戻し、幾度も瞬きながら少女はイオをじっと見つめた。

 ボブカットに揃えた髪と頬を染めるそばかす。何か抜けているような少女だった。


「えっと……」


 少女はイオの全身を上から下まで何度も視線を送って言葉に詰まった。


 イオは彼女の戸惑いの訳を直ぐに察した。イオは少女が着ているような所謂制服を着ていないからだ。女学院の校内で制服を着ていない人間がうろつくのは確かに違和感があったのであろう。


 しかし、その答えはイオが弁明するよりも早く少女の口から出た。


「もしかして、転校生?」


 イオは頷く。


「薔薇十字 イオ。よろしく、な」


 イオが差し出したその手に目の前の少女は何処か躊躇っている様にジッとその手を見つめるだけで、握り返そうとはしてこなかった。


「あ、えっと……もしかして、握手ってマナー違反? あたし、あんまりそーゆーの詳しくなくてさ」


 貴族の世界をよく知らないイオは何かマズかったのか、自分の手を見返す。

 少女はその言葉にハッとして手繰り寄せるようにイオの手を両手で握り返してきた。


「ご、ごめんなさい! 全然、全然マナー違反じゃないです!」


 イオの右手を掴み、ぶんぶんと振るうその姿にイオは


「よかった」と笑った。


「私は勿忘草わすれなぐさ モネって言います。アポロン女学院貴族科の二年生です。えっと、薔薇十字さんは……」


「イオでいいよ。あたしも2年なんだ。よかったら、教官室まで案内してくれない? ここに来たの初めてでまだよく分かんなくって……」


「勿論! 全然案内します! ここがまず、正門で――」


「その前に、本を片付けたほうがいいんじゃないの?」


 イオは散乱した分厚い本の数々を指さしながら、間髪入れず案内を始めようとするモネを止めるようにして言う。


「あ、そうだった……私っていっつも周りが見えなくなっちゃうから……」


「あたしも手伝うよ」


 モネの撒き散らした本を拾っていく内にイオは次第に憂鬱になるのを感じた。生まれてこの方、16年間まともな勉強という勉強はしてこなかった。

 

勿論、貴族の娘であるという立場上、あらゆる学問を仕込まれなければならないはずだったが、とある理由がそれからイオを遠ざけていた。。

 

もっとも、自分はじっと座って何かを深く考えるよりも行動する方が断然好きで楽だと物心ついた時には自覚していた。

 

だから、持ち上げるのもやっとな大きさの書籍の表紙に並ぶ、『植物生体工学』や『怪獣精神哲学論』『怪獣物理学入門』などの文字を見るとこれからのことを考えると不安が頭をよぎり、むはぁと情けないため息を吐いた。

 

一冊一冊が重箱のような厚みと重さを持ったそれは、一人の少女が抱えるにしては中々に厳しい物があり、モネが落としてしまったの納得できる。

 

最後の一冊を見止めた時には既に両手は大量の書籍で塞がり、数m先に転がった分厚い本を取るためには抱えた本の束を降ろさなければならなかった。


しかし、イオは本を地面へ置こうとして止めた。

 

視界の隅に黒く磨き上げられたローファーが鈍くテカっているのを見つけたのだ。

 

視線を上げるとそこにはモネと同じ制服を来た少女が立っていた。だが、その顔を確認する為にはもう少し首を傾けなければならなかった。

 

細く、それでいて華奢ではなくしなやかな体は見事に八等分出来るほど整っていた。

加えて金髪である。

 肩まで届く長髪を結ばず、だらんと重力に任せて垂らしている。

 神が六分儀を使い計算して揃えたかのような顔のパーツの配置。

 

その――


       


 モネと同じ生徒だと気づいたが、イオが感じたのはモネとは全く違う雰囲気であった。必然的ではあるものの、見下ろすような眼球。そして無感情な表情筋。

 

好意を向けていないのは明らかだった。

 

だが、イオはそれをあえて考慮しなかった。好意が無いからこそ、こちらからフレンドリーに接する。それが、彼女がこの16年で身に着けた対人術だった。


「よかったら、そこの本、拾ってくれない?」

 

自然に、あくまで自然に表情を和らげ、口角を上げた。

 作り笑いと悟られない程には慣れている。


 沈黙。目の前の少女は表情一つ変えず、ジッとイオを見下ろしている。

 彼女が瞬きをしたのか、視線を一切外していないイオも不安になる程ピクリとも動かない。

 もう一度、同じ言葉をリピートしようとしたイオだったが、それを遮ったのはモネだった。


「い、イオちゃん! 拾ってもらわなくて大丈夫だから!」


 先ほどのおっとりした口調とは打って変わり、驚いたような彼女の声にイオは振り返る。

 モネは両手いっぱいに本を抱えたまま、こちらへ向かって走って来る。


「どういうことだ? せっかく、人がいるんだから拾ってもらった方がいいじゃねぇか」


「だ、ダメだって!」


「そんなことないよな? そこの本、この上に乗っけてくれるだけでいいからさ?」


 イオは再び少女を振り返り、ギョッとした。先ほどと全く同じ表情のままピクリとも動かず、自分を見下ろしている。

 堪らず、モネが前に出て少女に頭を下げた。


「ご、ごめんなさい! この子、今日転校してきたばっかりで何にも知らなくて……」


 目の前に出て来たモネの姿を見てやっと少女は口を開いた。


「勿忘草さん。あなたこんなに学院の貴重な蔵書を地面にばらまいて、傷でもついたらどうするおつもりなのかしら? あなたのドジもここまでくるともうどうしようもないわね」


 張り詰めた様なキツイ声であった。弱者を一切寄せ付けぬすごみがある。

 まくしたてる少女にモネは再び頭を垂れた。


「ご、ごめんなさい……」


 謝るモネを押しのけてイオは前へ出た。


「あなたみたいな愚図はいくら知識を詰め込んだ所で何の役にも立たないわよ。知識って言うのは私みたいに強く気高い人間が身に着けてこそ、意味があってよ。勿忘草さんは勉学よりも先に平常心ってものを身に着けたらいかがしらねぇ?」


「は、はい……ごめ――」


 再び頭を下げようとしたモネの肩をイオはグッと掴む。


「謝ることはねぇ。下がってなよ」


 モネは驚いたようにイオへ首を向ける。イオはモネの身体を自分の背後へ押しやると少女の前へ出た。


「あんた、黙って聞いてりゃあ何て言い草だよ。そりゃ確かにこんな大量の本を一人で持っていくなんて普通じゃあない。それに地面に本を撒いた事だって確かにいいことじゃあない。だが、だからって人をバカにしていいわきゃあないだろ?」


 少女に視線は再びイオを捉えていた。黙って彼女の口上を聞き終えた少女はフッと息を一吹きすると口を開く。


「あなた、見た所うちの生徒じゃないみたいだけど。一体だぁれ?悪いけど、ここは庶民の入っていい場所じゃないのよ」


 変に抑揚が付いた言葉はイオを更に逆なでする。


「悪いが、あたしもあんたと同じこの学院の生徒さんだよ。それに貴族だ」


 くくっと少女が歯の隙間から笑いを漏らす。


「メメントモリ《まあなんてこと》! そんな汚い言葉遣いをするからまさか貴族だなんて思わなかったわ」


 イオは固く口を噛み、見上げるようにして少女を睨みつけた。


「もしかして、今日から来る転校生の人かしら?」


「ああ、そうだ」


「そう。じゃあ覚えておくことね。私の名前はセイラ・百合園ゆりぞの。この学院のトップジェミナスよッ!」


 自信満々に語る少女―セイラの背後にイオは一瞬幽鬼にも似た気迫を見た。その言葉の圧と彼女が今現在背負っているであろう責任がイオの心を殴りつける。


「ぬぅッ! トップ、ジェミナス……!」


 ジェミナス。


 それは太古の昔においては双子を意味する言葉であったらしい。しかし、現在その意味は変容しペアを指す。それも、ただのペアではない。

 高貴で気高く清らかな少女の憧れ、巨大人型決戦兵器『鋼鉄アイアン処女メイデン』を操縦するペアのことをジェミナスと呼ぶのだ。


 そしてたった今、少女はこの学院においてジェミナスのトップであることを宣言したのである。高圧的な態度やその仕草も納得と言うものだ。


「そう、そこの勿忘草さんみたいに『青き月の会』へ入ってすらいない人とは格が違うのよッ!」


 セイラがトップと言うのは決して、自称ではない。


 ジェミナスの強さを決めるランキングこそ、『青き月の会』である。お互いのアイアンメイデンを全力でぶつけ合い、のし上がっていくランキンで1位を取るのは生半可なことではない。

 だからこそ、その言葉の前にイオは一瞬怯んだのである。モネが気を使ったのも納得出来た。


 だが。


 一歩退きかけた足をグッと彼女は踏みしめ、その場へとどまった。


 彼女は圧倒されると同時に幼い頃から心の奥底に眠っていた感情を思い出したのだ。この学院へ転入してきたのもその気持ちを忘れない為ではないか。


「ふふっ」


 イオは笑った。

 自分を奮い立たせるためだ。


「なにがおかしいのかしら?」


 イオはセイラが言い終わる前にビシッと拳を突き出す。

ゆっくりと開かれた指が2本。


「……2?」


「2つだ。あんたに2つ。教えておくことがある」


「……なにかしら?」


「あたしの名前は薔薇十字イオ。そしてあたしはお前みたいなお高くとまってる奴が大嫌いだ!」

 

イオの声が響き渡る。イオとはそーゆー人間なのである。

 セイラは口を少し開けたまま、イオを見ていたが直ぐにその顔は嘲笑と卑下を込めた笑いに変わった。


「あはははははッ! あんた、相当馬鹿ね。そう言うのなんていうか知ってる? 負け犬の大ボケって言うの」


「………それ、とーぼえかな?」

 間違いを訂正するモネをセイラの鋭い眼光が押しとどめた。


「そうとも言うわ……ま、あんたみたいな子が入学してくるなんてこの学院も地に落ちたものね。薔薇十字さん、覚えておくわ。せいぜいこの学校であたしの邪魔はしない事ね」

 身をひるがえし、去ろうとするセイラをイオは呼び止めた。


「待てッ! まだ終わってない」

面倒くさいことをそのまま態度に出しながらセイラは振り返る。


「なぁに? まだ何かあって?」


「ああ。まだ、モネに謝ってない」

 不意に名前を呼ばれたモネは驚いてイオを見る。出会ってまだ数分にしか経っていないイオが名前を呼んだことに彼女は動揺した。


「……あら。聞こえなかったかしら? あたしはこの学院のトップジェミナスなの」


 長いため息を吐いてセイラが言う。


「だからどうした。だからって彼女に謝罪しない理由にはならない」


「………あなた……少し聞き分けがよくなくってよ……」

 再びイオに向き直ったセイラの声は先ほどとは明らかに声のトーンが変わっていた。無言の圧がまた、イオの腹を抉る。いつの間にか3人の周りには騒ぎを聞きつけたギャラリーが出来ていた。


 身を引き、拳を握りしめ対峙する2人。






 そして、物語は冒頭へ戻る―――






「決闘だ! アイアンメイデンでの決闘をあんたに申し込む‼」


 一瞬の間を置いて、セイラの高笑いが響く。


「な、なにがおかしい!」

「あ、あなたほんっっっっとうに馬鹿ね」

 モネが補足する。


「あのね、イオちゃん。決闘を申し込むことが出来るのは自分より一つ上か自分より下のジェミナスだけなの……」


「えぇッ!?そうなの?」

 イオは驚きを隠せず、その場で叫ぶ。一般常識としてジェミナスの意味やランキングのことは知っていても詳しい内情に関して素人と言うのが正直なところであった。


「あなた。そんなことも知らないでここへやって来るなんて正気なのかしら? いいこと? あなたみたいな自信過剰な雑魚の相手を一々していたら切りがないのよ」

 圧倒的実力の差と無知。そして立場の差が更にイオを押し潰そうと迫る。


 だが、イオはまだ折れることはない。モネをグッと引き寄せ小声で耳打ちする。


「も、モネ。つまり、あいつがあたしに決闘を申し込めばそれは成立するんだろ?」

「ま、まあそうだけど……」

 不安そうな顔で圧によろめくイオを支えるモネ。


「悪いけど。あなたに決闘なんか申し込まないわよ。たまに居るのよね、あなたみたいな自信過剰な馬鹿。自分の実力を過信して段階を踏まずにいきなり天下を取ろうとする大馬鹿が。そんなの一々相手にしていたら切りないわ」

 自分の考えすらすでに読み取られ、セイラはさらりと流す。


「いや……あんたはあたしに決闘を申し込むね」

 イオはモネの肩を掴みながら言った。


「はぁ?」


「見て見ろよ。このギャラリー。あんたは確かにこの学院でトップかもしれない。だが、トップのあんたがこんな生意気な転校生を野放しにしたとなれば……どうなるだろうな」

 表情は一切変わらなかったが、イオはセイラの目の色が変わったのを見逃さなかった。


「こんな馬鹿な転校生をいなすなんてトップジェミナスにはこたないんじゃないのか?それとも………あたしと戦うのが怖いのか?」

 言葉の応酬にセイラの表情が変わるのを見て、イオは畳みかける。


「ジェミナスならジェミナスらしく、アイアンメイデンで決着を付けたらどうなんだ!」



「セイラ様を挑発するんじゃないわよ!」

 ギャラリーの1人が声を上げる。


「そうよ! あんたみたいな新入りが生意気言うんじゃないわよ!」


 最初の一人が堰を切ると流れ出す様にして学園の王者を援護する言葉を浴びせかけて来る。援護射撃にも関わらず、イオの表情は柔らかい。むしろ、勝ち誇った様な笑みすら浮かべている。


 イオは理解していた。ギャラリーが騒げば騒ぐほどセイラが後に引けなくなることに。彼女のプライドがこのまま逃げることを許すはずがないのだ。

 

野次馬の言葉の中に紛れるようにしてセイラは舌打ちすると右手をスッと上げて彼女達を制した。


「いいわ。あなたに決闘を申し込んであげる」


 イオは何も言わず頷く。


「時間は明日の放課後。場所はコウシャ・ウラッ!」


 去って行こうとするセイラは足を止めると顔を向けずに付け加えた。


「私に決闘を申し込んだこと、後悔しないことね」


 そう言い残すと可憐で長身の少女は颯爽と立ち去っていた。彼女のあと付いてゆく野次馬達がイオに向かって舌を出したり、罵声を投げかけたが彼女の耳と目には何も映らなかった。


 完全に姿が見えなくなるとイオは肩の力を抜いてむはぁぁっと大きい息を吐いた。


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