第24話 躁転②

病院を出て車を帰り道にあるパチンコ店の駐車場に停める。


…何なんだ…

次の通院日まで5日もあるじゃないか…

どうすりゃいいんだ…


休職して8ヶ月、突然崖から落とされた気分だった。


この事を誰かに相談したい!


まずは肉親だろう。

両親や妻の反応はだいたい分かる。

「聞く」に徹してくれるだろう。

正直、物足りない感じだろうなぁ。


どうしよう…


は…そういえば…


何故か急に思い出した。


完全に忘れていた、A社以前に働いていた時にとても仲が良かった先輩だ。


その人とは12年程連絡をとっていなかった。

何故ならうつ病を患い、休職して最後は静かに会社を辞めていたからだ。

そのせいか他の元会社の人達とも音信不通になっていた。


今どうしてるんだろう?

電話番号変えたかもしれないな…


番号に電話してみた。Mさんとしよう。

これが躁の怖い部分だ、何をするのも敷居が下がる。


Mさん

「もしもし、○○君?久しぶりねえ、元気かい」


!!出てくれた、驚いた、しかも元気そうだ


「お久しぶりです。実は…」

転職したが今は休職している事を伝えた。

そして今日あった事を少し…


Mさん

「何だって?家に帰るなだって!?じゃあ明日俺の所に来いよ、俺土曜日で仕事休みだから」


私「是非、お願いします」


少しホッとした、嬉しかった。

しかも先輩が元気そうなのも嬉しかった。


次の日の午前早くには出発した。

その先輩の所には車で2時間位かかる、途中お土産を買っていった。


Mさんとは本当に久しぶりに会った。

硬い握手をした。


焼肉店でランチを食べながら話した。


私のこの24話の中身をあらかた話した。

とても親身になって聞いてくれた。

ガンガン話しただろう…

先輩は相槌をうちながら、俺も経験したから分かる、その通りだと。


先輩はどう過ごして来たか聞いてみた。

そしたら、10年は仕事出来ず、完全に闘病生活を送っていたらしい。

最初はうつ病だったが、治らず、転院を繰り返し、大量の薬を処方されるうちに重度の統合失調症になってしまったらしい。

統合失調症が何なのかもあまり知らなかった…


今も通院しているが、最近はだいぶ回復してきたらしいが、一年前だったら電話に出て無いだろうと言っていた。


色々アドバイスしてくれた。


4時間位喋って、ラインを交換して別れた。

かなり楽になった、色々勉強になった。

そして何より、先輩の病気が大変な事になっていたのが、逆に勇気づけられた。


「私なんてまだ休職してるだけじゃないか」

「何一つ、失ってないじゃないか」


会ってくれた事にとても感謝した。

…この先輩とは今もなお、深い友情が続く…


結局、電話したのはこの人だけだった。

あとはラインだが、数人にメッセージを送った。

これは躁転時特有の病状だろう、誰かれ構わず連絡してしまう様な感じなのは。


この時点で断っておくが、私は躁転などしてないつもりだ。この時点では。


まだ躁転の状態がたいした事無かったせいか、その数人の反応を見て止めた。

既読無視か、俺もなりそう、みたいな返事だったからだ。


結局、毎日夜は家に帰って寝た。


通院日までの5日間、家で過ごした。

少しお喋りになっていた程度らしい。


そしていざ通院日が来た。


先生

「どうだったか?一人で過ごしてみて?」


「先生、いったい何のつもりですか、家に帰るなとか、図書館だとか」

「意味が分からず、混乱してました」


先生

「そうが、たいした説明もせず、大変申し訳無い事をした、すまなかった」

「君は今、薬のせいで躁転してしまっている状態なんだ、すまん!」

「抗うつ薬を止める時期が遅くなって、副作用で元気になりすぎてるんだよ」

「私の判断ミスだ!申し訳ない」


先生が頭を下げて謝罪してきた…









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る