File 3-2

「お疲れ様です、ヒョリンさん!

そしてクエスト成功おめでとうございます!」


ザックさんとの出会いで私はすっかり自分がクエストを成功した喜びなんて忘れていた。シェルさんの言葉でそうだったと思いだした私は、袋に入った光の石シャイニーストーンをシェルさんに手渡した。


「わぁ~!大きな光の石シャイニーストーンですね。

今回のクエストは石が大きければ大きいほど報酬を多くする

ということだったので、早速更新してみましょうか!」


やりましたね!と興奮しながら、シェルさんはステータス更新をしてくれた。


【ヒョリン(28)】

レベル Ⅴ

能力  ――――

体力  1500

攻撃力 2000

アピ力 3500


マリル 10500


「すごい!!

ついにレベルが5になりました!」


今までとは比にならないくらい色々とレベルアップしていることに驚いた。一人でクエストに行くというのはそういうことなのか。私は不覚にもレベルアップしていることに喜んでいる自分に気づいた。


「それだけではなく今回相棒動物サポートアニマルもできたみたいですね!」

相棒サポート動物アニマル?」

「はい!今回クエストについてきたタリオンキャットのことです。

相棒動物サポートアニマルとは、その名の通りクエストで戦いを手助けしてくれる存在で

ゲットできるかどうかは動物がなつくかどうかなので

なかなか簡単に捕まえられるものじゃないんですよ。」


あ、そんなこともできるんだ。

聞いていないだけでもっと便利なことがたくさん出てきそうだけど、でもそれ以上追及するとどっぷりあっちの世界にはまってしまいそうで聞くのをやめた。とにかく心強い味方ができたことを、ここは素直に喜ぶことにした。


「さてさて、レベルが5になりましたので、

ヒョリンさんの能力を確認しましょうか。」

「はい…。」


そういってシェルさんはいつものモニターとは違うところにあるキーボードを叩いた。するとしばらくしてプリンターから一枚の紙が出てきた。

ファンタジーな世界なのに、こういう現実的なところが逆に不思議だ。私がそんな風にちょっとバカにしているのなんて知る由もなく、シェルさんは印刷された紙をもっていつもの椅子に座った。


「さぁ、ヒョリンさんの能力ですが…

こちらです!」


おみくじを引いたあと、自分は見ずにみんなで見せ合いっこをするときみたいに、シェルさんは勢いよく私の前にその紙を置いた。

その紙にはとても大きく”治癒ヒール”と書かれていた。


「わぁ、すごい!!

ヒョリンさんの能力は治癒ヒールです!」

治癒ヒール…?」


え、よわ。

手から火をだすとか、めちゃくちゃ大きな剣を手に入れるとか、能力をそんな感じでイメージしていた私は”治癒ヒール”と聞いて思わずがっかりした。これからクエストをバリバリに挑戦して出会いの場を広げようと思っていたのに、なんだか思っていたのと違う。


「何がっかりしてるんですか!ヒョリンさん!」


この人は察しがいいのか悪いのかよくわからない。

がっかりする私の両肩をもってブンブン揺らしたシェルさんは、しばらくして「すみません、興奮しました」と冷静な自分を取り戻して椅子に座りなおした。


治癒ヒールはですね、とても珍しい能力です。

クエスト中にケガをしたメンバーを直すこともできますし、

弱っているところを治療できるから

女性にとってはとても婚活に有利な能力なんですよ!」


なるほど。

理由はちょっといけ好かないし最低だなと思ったけど、でも確かに弱っているときに人にやさしくされるとそれだけで好きになってしまうなんて結構ある話だ。シェルさんは続けて「パーティーにも呼ばれやすいですし、出会いの場もすごく増えますよ」と付け足した。


「もちろん能力が治癒ヒールでも戦いには参加できますし、

一刻も早くパーティーに参加してどんどん出会っていくためにも

クエスト挑戦頑張りましょうね!」

「はい…。」


何が何だかよくわからなったけど、でもとてもいい進歩だったらしい。シェルさんは「楽しみだな」「よかったな」と独り言を繰り返しながら打ち込みを始めた。


「そういえば今回はとてもいい出会いもあったみたいですね。」


そのニヤケ顔のまま、もっとにやけたシェルさんはそう言った。シェルさんには全部お見通しなのかと恥ずかしく思いながらも、こんなところで恥ずかしがっていては婚活にならないと、ザックさんのことを相談することにした。


「どうしますか?

こちらからカップルクエストをリクエストすることもできますけど。」


あまりぐいぐい押しても引かれるだけかなと思ったけど、でもレベルが弱い私を誘ってくれたんだからこちらが費用負担位しなきゃなと、とても律儀なことを考えながら、シェルさんに「お願いします」とお願いした。


色々と進歩があったように思えるけど、婚活としてはまだまだスタートラインにもたってないな~と冷静に自分で自分を分析しながら反省をして、その日の活動を終えた。


(ザックさんからリクエストの承認がきました!)


無事、私の人生初めてのリクエストは承認された。あれだけいい雰囲気だったのに断られたらどうしようと少し不安に思っていたけど、いい雰囲気だと思っていたのは私だけではないようだったことにひとまずホッとした。


「さあさあ、いよいよですね!」


前回2回ももちろん緊張はしていたものの、自分から誘うリクエストの緊張感は比べ物にならなかった。現実世界でも自分から男性をデートに誘ったことなんてない私は、自分から誘った以上リードしなくてはいけないのかとか、どんな話をしたらいいのかとか、色々考えていたら本当に昨日はあまり眠れなかった。


「クエストですが、先方から提案が来ています。」


私がそんなに考え込んでいる間にも、シェルさんはいつも通りスムーズに処理をすすめて、ザックさんが提案してくれたというクエストシートを机の上に置いた。


“ワイリ村に出現するモンスターの討伐”


「モンスター、、、討伐…。」


今までの”いちご狩り”とか”肝試し”とかとはなんだかレベルが違うクエストに私は驚いた。今までだってモンスターを倒してきたけど、でも討伐目的に行くのはゴブリン狩りをして以来だった。


「どうしましょう?

レベルが高いように感じられたならこちらが指定することもできますよ。」


珍しく私の動揺を察してくれたシェルさんが言った。


「いや、挑戦します。」

「その意気です!

お相手のレベルは高いですし、ヒョリンさんもずいぶん戦いに慣れてきたから

きっと大丈夫です!」


シェルさんはいつも軽いノリで言うけど、私に大丈夫な自信なんて全くなかった。

でもそれより今はザックさんとの出会いを大切にしたいという気持ちがとても強くて、相手の提案を断るなんて生意気で出来ない気がした。


「さ、じゃあそろそろお相手もお待ちかねだと思うのでいきましょうか!」


いつもと同じ扉の前にたっているけど、今までとはなんだか気持ちが全然違った。婚活を始める前から今まで、自分から「いいな」と思った人なんて一人もいなくて、そうやって「いい」と思える気持ちがどこかに残っていたということを確認出来ただけでも、なんだかうれしい気持ちがわいてきた。



―――大丈夫、私まだ女だった。絶対恋だってできる。



「よし。」

「それでは今回も張り切って~!いってらっしゃ~い!」

きっと今回はいい出会いになるはず。

私はたくさんの期待と不安を胸に、異世界へとつながる扉を開いた。


「誘っていただいて、ありがとうございます。」


すでに私を待っていてくれたザックさんは、少し顔を赤らめてそういった。そんな姿をかわいいとすら思って、私も自分の顔が赤くなるのを感じた。


「それではいきましょうか。」

「はい。」


私たちはなんとなくお互い恥ずかしい気持ちを抱えたまま歩き出した。この世界で婚活をするようになってからは特に何度か男の人の隣を歩いたはずなのに、その時とは全然気持ちが違った。


「誘っていただいたのに、勝手に提案しちゃって大丈夫でした?」

「あ、はい!始めたばかりで全然わからないので、逆にありがたかったです。」

「よかった。」


そう言ってほほ笑むザックさんの横顔は相変わらずちょっと恥ずかしそうで、私よりも年上の男性が余裕がなさそうにしているのがかわいくて、失礼ながら少し笑ってしまった。そんな私の様子をみて、ザックさんはもっと恥ずかしそうに笑った。


「ワイリ村までは馬車で移動するんです。」

「…馬車、ね。」


セーブポイントからしばらく歩いたところには、この世界で"馬車"と呼ばれる乗り物の乗り場があった。でも車を引っ張る動物はもちろん普通の馬ではなくて、どちらかというとユニコーンみたいな見た目だった。


「さ、乗りましょう。」


ザックさんはとても慣れた様子で馬車に乗り込んだ。車を引っ張る馬は奇想天外だったけど、人間が乗る部分はよくアニメとか映画で見る想像通りの造りになっていて、私は少し安心して椅子に座った。でも思ったより馬車はとても狭くて、ザックさんに自然と接近することになったので、婚活向けの乗り物だなと思った。


「あ、ヒョリンさん。シートベルトしてくださいね。」

「シートベルト、、、。」

ザックさんに言われて自分の腰の部分を見ると、そこにはしっかりとしたシートベルトがあった。こちらでもそういう規制が厳しくなっているんだろうか。そこらへんはすごく現実的だなと思いつつ、自分の身の安全を守るためならと抵抗なくシートベルトを締めた。


「それじゃあお願いします。」


ザックさんが車掌さんにそういうと、馬がなくても車を引けるんじゃないかと思うほどがっちりとした車掌さんは、ユニコーンたちにパチンといい音をたてて鞭を打った。


「え?!飛ぶの?!」


次の瞬間、トナカイがサンタさんのそりを引くようにして、ユニコーンは空中を駆け始めた。ユニコーンのようなというよりその子たちは本当にユニコーンだったようで警戒に空中をどんどん駆けていった。


「あれ、ヒョリンさんはじめてですか?」

「は、はい…。」


だからシートベルトが必要なのか。

そんなこと想像もしなかった私は、こんなに無防備な状態で空中に存在したことがなかったから、怖くてギュッと手すりのようなところを握って下を見た。

私はあまり高いところが得意ではない。さっきまで感じていた楽しい気持ちはいつの間にかどこかに行ってしまって、私はとにかく目を強くつむって外を見ないことにした。


「ヒョリンさん、高いところダメでした?」

「は、はい…。」


さっきから同じことしかゆっていなかったけど、私はかろうじて返事をすることしか出来ないほどの精神状態に追い込まれていた。目をつむっていても感じる揺れが"今高いところにいる"という現実をいやというほど突き付けてきて、それにもう耐えられそうになかった。


「ごめんなさい、手、握りますね。」


そんな余裕がない私の汗ばんだ手を、同じくらい汗ばんだ手のぬくもりが包み込んだ。

それは当然ザックさんの手で、私はそのぬくもりに驚いてゆっくり目を開けてザックさんの方を見た。


「すみません、嫌でしたよね。」


そんな私を見て、ザックさんは急いで手を離したけど、寒くもないのにガタガタ震えていた私の手はそのぬくもりで少し平静を取り戻していて、でもまたそのぬくもりがなくなったことでひんやりとしはじめていた。



「嫌じゃ、ないです。」



できるならずっと握っていてほしい。

本当はそう言いたかったけど、そんなことを言えるほど私が高等テクニックを持っているはずもなく、 絞り出すように出た言葉はなんだかとってもえらそうだと思った。


でもそんな私の一言にニッコリと笑ったザックさんは、また同じように手を握りなおしてくれて、やっぱりそのぬくもりが私を心から安心させてくれた。


「すこし、落ち着きましたか?」

「はい、すみません。」


ザックさんが手を握ってくれているおかげもあって、私は目を開けていられるほどには落ち着いた。それと同時にいい大人なのに高いところが苦手で手を握ってもらわなければ落ち着かないという状況がとても恥ずかしくなり始めた。


「ごめんなさい、高いところ苦手なのに…。」


落ち着いたとはいえ、まだ冷や汗がにじんでいる私の表情をみて、ザックさんは本当に申し訳なさそうにそう言った。謝る必要もないのにずっと申し訳なさそうにするザックさんをみてもっと申し訳なくなった私は、大げさに顔を横に振った。


「ザックさんは悪くないです、本当に。」

「いえ、どっちにしろ怖い想いをさせてしまったのは確かなので…。」


私がいくら何と言おうと、ザックさんの罪悪感はなくなりそうになかった。せめて少しは気持ちを軽くしてもらおうと、私はできるだけ平気そうな顔をして椅子に座りなおした。


「ヒョリンさん、もうすぐで着きますからね。」


そんな私の気持ちを察してか、ザックさんはそう言った。

しばらくするとユニコーンは高度を下げ始めて、ザックさんの言った通りどんどん地面が近づいてきた。私はそれを見て本当に気持ちが落ち着いてきて、「ふぅ」と一つ息を吐き出して自分を安心させた。


「大丈夫ですか?歩けますか?」

「はい、大丈夫です!」


自分の体の丈夫さにだけは昔から自信があった。

あまりに私が怖がっていたからザックさんは馬車を降りた後も心配していたけど、でも私は自分でも驚くほどの回復を見せて、いつもより速足で歩き始めた。


「そういえば、リオンに乗った時は平気だったのに…」

「リオン?」

「ああ、リオンって私の相棒動物サポートアニマルなんですけど…」

相棒動物サポートアニマルがいるんですね!うらやましいです!」


前リオンに乗って戦った時も空中にいたはずなのに、あの時平気だったのは高度が低かったからなのか戦いの最中でアドレナリンが出ていたからなのかわからなかったけど、リオンのおかげでザックさんとの会話もとても弾んだ。やっぱり相棒動物サポートアニマルはそんなに簡単についてくれるものではないらしく、私の話を聞いてザックさんはとてもうらやましがった。


「今日はいないんですね?」

「あ、ほんとですね…。」


そういえばシェルさんは相棒動物サポートアニマルは神出鬼没だってゆってたっけ…。

リオンがいてくれればもっとザックさんと楽しい話ができたかもしれないのにと、自分だけでは楽しい話が出来ない自分の能力の低さを恨んだ。


「さ、あそこがワイリ村です。」


しばらく歩くと、砂漠の中のオアシスみたいに何件か家のようなものがあるのが見えた。まだあまり現実的に考えられてないけど、こちらの世界にもこちらの住人の暮らしがしっかりあるようで、オアシスの中には何人かの人影も見えた。


「ワイリ村はもともとモンスターの出現しない穏やかな村だったみたいなんですけど、最近たまにモンスターが食べ物を奪いに来て人を襲うらしいんです。」

「はぁ、、、。」


アニメやゲームによくありそうな話だなと思った。

まだまだ異世界に入り込めていない私は、ザックさんの話を半分聞き流すようにして聞いていたけど、モンスターを討伐しなければいけないんだと思い出して、自分の意識を何とか立て直した。


「こんにちは。」

「ああ!あんたたちもしかして勇者の方々かい。」

「はい。少しお話し聞かせてもらってもいいですか?」

「待ってたよ、本当に困ってるんだ。

さ、こっちこっち。」


入口あたりにいた老人にザックさんが早速話しかけると、老人は本当に私たちを待っていたという風に大げさに歓迎の姿勢を見せて家にあげてくれた。話を聞いてみるとその老人は村長さんで、モンスター討伐を依頼した張本人。


「わしがこの村に生まれてもう数百年たつが、今までこんなことなくてのぉ。」

「す、すうひゃくねん?!」


驚くべき所じゃないことくらいなんとなくわかっていたけど、ツッコまずにはいられないわたしが大きな声をだしたことに村長さんはどう見てもドン引きしていた。ザックさんはそんな様子の私の様子をみて笑っていたけど、でも本当はこんな芸人さんばりのツッコミみられたくなかった。

一気に恥ずかしくなった私は、小さな声で「すみません」といって姿勢を正して座りなおした。


「もうこれ以上犠牲者を増やしたくないんじゃ。」

「僕たちが来たからには大丈夫です!」


不安そうな村長さんにザックさんは自信満々にそう言ったけど、でも私は多分村長より不安だった。

今まで挑戦したクエストは人助けというより何かを取ってくるみたいなものばかりで、失敗したところでマリルがもらえないとか、経験値があがらないとか、自分にかえってくることばかりだったけど、今回はそういうわけにはいかなかった。失敗すればもしかしたらけがをしてしまう人がいるかもしれない。

そのプレッシャーに押しつぶされそうになったけど、でもザックさんがあまりにも自信満々そうだったから私もザックさんに合わせて精一杯の笑顔を作っておいた。



モンスターを討伐するといっても、出てきてくれないことには何も出来ない。私たちは村長に一通りの話を聞き終わった後、気休めに村を1周することにした。


「不安ですか?」


村は少しずつ暗くなってきて、もういかにもモンスターが出てきそうな雰囲気に私の不安は最高潮に達していた。そんな私の様子を見てザックさんが優しくそう聞いてくれたので、私は素直にうなずいた。


「人助けみたいなのをするのは初めてで…。なんだか緊張します。」

「そうですよね、僕も最初はそうでした。」


それからしばらくザックさんは初めてのクエストの話をしてくれた。当時はザックさんもあまり実感がなかったから、ゲーム感覚でクエストをすすめていて私ほど不安を抱えてないよ運も思えたけど、誰にでも初めてってあったんだなと少しその話にホッとしている自分がいた。


「大丈夫です、僕がフォローするんで。」


ザックさんは最後に照れながらそう言って話を締めた。かわいいな、と思った。


村を1周しても都合よくモンスターが出てきてくれるわけもなく、また村長の家の前に戻って来た。私たちが帰って来たのを見て村長はまた家にあがれというので、私たちはお言葉に甘えて何のお茶かわからない甘酸っぱいお茶をいただいた。


「お嬢さん、お若いのに勇者とはえらいねぇ。」

「勇者だなんて…。そんな大げさなものじゃありませんよ。」


私たちのようにクエストに挑戦している人たちを、ここにいる住人は"勇者"と呼ぶ。でも実は私たちが婚活をしているなんて村長は知っているのだろうか。人助けに来ているとはいえ、"婚活している"という本質があることがとても不純に思えて、私は大げさにそれを否定した。


「わしも昔はねぇ…」


そこからは村長がたくさん昔話をしてくれた。そりゃ数百年ここに住んでいるのだから昔話もたくさんあってあたりまえだ。私は素直にこちらの世界の話が新鮮でたのしくて興味津々に話を聞いていたけど、ザックさんは途中で外に出ていってしまった。私もキリのいいところで村長にお茶のお礼を言って、ザックさんに続いて外に出てみた。


「あ、ヒョリンさん。途中ですみません。」

「いえいえ。それは?」


ザックさんは外でたくさんの武器や部品を広げて準備をしているようだった。みたことのないものや種類の多さに驚きながらザックさんに質問をすると、うれしそうな顔をして話を始めた。


「戦闘の準備です。僕のルーティーンみたいなもので…。」

「ルーティーン。」


予想もしていなかったアスリートみたいな返答がおかしくて、私は少し笑ってしまったけど、そんなこと気にもしない様子でザックさんはつづけた。


「はい。これはティンプルという武具で、一番に身に着けるんです。

そうするとなんだか身が引き締まる感じがして。それからこれは…」


ザックさんは広げているものを一通り何なのか説明して、どんな順番でどんな風に身に着けていくのかを教えてくれた。そのこだわりは本当に並々ならぬもので、ザックさんがいかにこの異世界を楽しんでいるのかが伝わって来た。

趣味が多い人はお互いの時間が楽しめそうでいいな。と、婚活らしい評価をした。



「またでたぞぉ~~~~!!!!!!!!」



しばらく私がザックさんの説明に耳を傾けていると、どこからか誰かが叫ぶ声と地鳴りのようなモンスターの声が聞こえた。私たちはその声でスイッチが入ったように目を見合わせてうなずいて、私も戦闘準備をするべく買ったばかりの盾や剣の装備を始めた。


「あ!ヒョリンさんちょっと!」


早く装備をして走っていかなければと思っているところを、ザックさんに止められた。切羽詰まった表情でザックさんを見返ると、もっと切羽詰まったような表情でザックさんは私を見た。


「剣を取り出す前にジュラスの盾をまず装備してください!」

「え、なんで?」


どっちから装備しなきゃいけないとか、そんなルールがあったのか。それはそうと先に教えてもらわないと、防具を装備するのもはじめてなのにわからないと思って、もっと切羽詰まってザックさんに訴えかけた。するとニッコリ笑ったザックさんは自信満々に、

!!!!!!!!!」

と言った。



ルーティーン、、、、?今、いる????



全力でツッコミかけたが、なんせ今は時間がない。私はザックさんに言われるがまま装備をして、すぐに走りだそうとした。


「ヒョリンさん!待って!」


今度はなんだよ。そう思ってザックさんをみると、ザックさんは片手をあげて私の方に向けていた。


「え?」

「ハイタッチして気合をいれましょう!」

「えっと、、、。」

「これも、です。」


もうツッコむのもやめた私は急いでその手にハイタッチをして、今度は勢いよく走り始めたザックさんの後ろを必死について行った。近づいてみると簡単に言えば走るのがはやそうな恐竜みたいな、大きくなったトカゲみたいなモンスターが家を次々と破壊していた。


「勇者さんが来たぞーーーー!」

「みなさん、出来るだけ遠くに逃げてください!」


ルーティーン事件で少し気持ちが萎えそうになったけど、勇敢に人々を避難させるザックさんはとてもかっこよかった。私はそんなザックさんに続いて子どもや女性を安全な場所に避難させたあと、モンスターの方を振り返ってみた。


おもったよりずっと大きくて怖そうなモンスターが目の前にいた。

勇者と言えど、勇者の卵でしかない私の足はすっかりすくんでしまって、そこから前にすすめなくなってしまいそうだった。


「ヒョリンさん!行きますよ!」

「はい…。」


行きたいんだけど行けない。脳みそは全力で足を前に出そうと指令を出していたのに、足が全然脳の言うことを聞かなかった。


「動いて…。」

「ヒョリンさん。」


そんな私の様子を察して、ザックさんが近くに来てくれた。そして次の瞬間には私の両手をとってニッコリと笑って「大丈夫です。」と言った。


その一言で私の足はメデューサの石の魔法が溶けたみたいにゆっくりと動き始めた。もちろんザックさんのは魔法なんかじゃなくてただの言葉だったけど、その言葉が全身にふんわり染み込んで、私はやっとモンスターを討伐する勇気がもてそうだった。


「ありがとうございます。」

「さあ、行きましょう!」


戦闘モノのヒーローが走りだしそうなポーズを一瞬とったのが少し気になったけど、ザックさんの魔法にかかっている私は、その背中に引き込まれるようにして走り始めた。



キューーー



その時、走りだした私の足元にリオンがやって来た。


「なんだよ、来るならもっと早く来てよ!」

キューーー


そんな私の皮肉を知ってか知らずか、嬉しそうにリオンは私の周りをぐるぐる回って見せた。そんな愛らしい姿をみて緩みそうになった気持ちをぐっと引き締めて、「リオン!乗せて!」と叫んだ。


リオンに乗った私は無敵だった。自分で走るのより何倍も早くモンスターの元にたどり着けたし、飛べないそいつに大して上から攻撃できるのは本当に無敵だった。私より少し後にたどり着いたザックさんも、とても大きな剣で急所と思われるところを探して立ち向かっているのが見えた。私も負けじとモンスターに剣を突き付けたけど、モンスターもそんなに甘くはない。

攻撃してくる私たちに大して大きな声を出して吠えて、次の瞬間、二本足でその体を持ち上げた。


「きゃあっ。」


まさか立つと思っていなかったから思わずかわいい声がでた。反射的に目をつぶってしまうところはまだ勇者には程遠いと思った。でもそんなポンコツな私の相棒動物サポートアニマルはとても有能で、立ち上がったモンスターのパンチを華麗によけてくれた。


「ありがとう、リオン。」

キュ―――!

「ヒョリンさん!大丈夫ですか?!」


モンスターが立ち上がったのに動揺すらしていないようなすがすがしい顔で、ザックさんは大きく手を振りながら私の生存確認をした。私もそれにこたえるように大きく手を振りながら「大丈夫でーす!」と答えてみせた。


「ヒョリンさん!こいつの急所を発見しました!」


ザックさんがそう言って指を刺したのは、トカゲモンスターのお腹の部分だった。確かにそこにはギラギラとした赤い石みたいなのがあって、いかにも”ここを狙ってください!”と言っているみたいだった。


「僕がとどめをさしますんで、ヒョリンさん空から威嚇してください!」


私がおとりかよ。

そう思ったけど、確かに空からの方が気がそらしやすいのは確かだったし、またトカゲモンスターが地面に寝そべってしまったら急所が狙えなくなるから、そうするしかないと思った。


「わかりましたーー!」


その私の合図を理解したように、リオンはモンスタ―の周りをぐるぐると回って飛び始めた。威嚇なんて正直したことがないからやり方がわからなかったけど、このまま飛び続けているだけでもトカゲモンスターの気が私の方に向いていたから、それで結果オーライだと思った。


「おりゃあああ!」


私がモンスターを威嚇しているうちにザックさんが振り下ろした剣が、赤い石の中心にヒットした。砕けた石の破片が太陽の光にキラキラと反射してとてもキレイに見えた。それと一緒に私の目に飛び込んで来たのは、着地したあと良くテレビでみるヒーローたちのような決めポーズをばっちり決めたザックさんの姿だった。


「うっわ…。」

今まで私をつなぎとめていたのは、ザックさんと接するうえで見つけたたくさんのいいところだったけど、それが一気に吹き飛んでしまったことを実感せざるを得なかった。


いいと思っても何か気になることを見つけると一気に気持ちが冷めてしまう。これが私の婚活のにならないことを願わずにはいられなかった。


【こだわり強男の襲撃の成果】

レベル Ⅴ→Ⅵ

能力  治癒

体力  1500→3000

攻撃力 2000→4000

アピ力 3500→6500


マリル 10500→20000

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます