File 3-1

「気分転換にレベルアップでもしてみませんか?」


早くも2人に撃沈してすでに落ち込みそうな私にシェルさんは言った。


「でもレベルアップは…。」

「ヒョリン様はレベルアップすることで

長い間婚活を続けていると思われるのが嫌なんだと思いますが、

レベルアップすることでパーティーへの参加もできるようになりますし、

出会いの幅もすごく広がるんですよ!」


前は体験ということで便乗させてもらったパーティーでのクエストは、本当はレベルが10を超えないと参加できない。私としてはレベルが5を超えて、”能力”とやらが付く前にこのギルドを潔く卒業したいと思っていたから、できる限りレベルアップはしないでおきたいと思ったけど、現状はそうではないらしい。


「ほとんどの方がそのために一人でクエストに挑戦して

レベルアップを図っているので、安心してください。」


そう言われても納得しきれない自分がいたけど、でもこういう時は頑固にならずに人のアドバイスをきいたほうが絶対いいということくらい28年の経験を通して学んでいる。


「じゃあ、挑戦しようかな…。」

「その意気です!

一人で街に行くことで話しかけてくださる方も出てくると思いますし、

一人でクエストに挑戦するのはいいことだらけなんですよ。」


そう言いながらシェルさんはキーボードを操作して今の私に合いそうなクエストを探してくれた。


「これなんてどうでしょう。」


シェルさんがわたしのために選んだのは"トリス夫妻の旧館で光の石シャイニーストーンを回収する"だった。


「トリス夫妻というのは実業家の夫婦でしたが、ずいぶん昔に亡くなっています。

お子様もおらず、誰も管理しなくなった館に

数匹のモンスターが住み着いてしまっていて…

実はそういう人気のなくなった場所に発生するといわれるのが光の石シャイニーストーンなんですが、

薬の原料になったりするとても貴重なものなんです。

要はその館で、その石を拾ってくるだけの簡単クエストです。」

「肝試し、ね。」


案の定モンスターはいるようだったけど、でもクエストにモンスターはつきものらしい。難易度とかそういうもののよくわからなかったから、もうシェルさんが選んでくれたということを信頼して、私はそのクエストを受けることにした。


「ちなみに絶対ないと思いますが、

光の石シャイニーストーンを持ったまま逃亡等されますと、

向こうの世界で処罰される対象となりますのでご注意くださいね。」

「処罰…。」


とても楽しそうなテンションでシェルさんは”処罰”といったけど、その言葉を口に出すとよりゾッとして、私は久しぶりにこのギルドに来たことを後悔した。


「処罰されると、もう一生こちらの世界には帰れないかと…」


いつも察しのいいシェルさんが私の気持ちを察してくれることなくそういった。さっきまではやる気をだしてクエストに挑戦していこうと思っていた私だったけど、やっぱりやめておこうかなと本気で考えた。


「それでは、レベルアップ目指してがんばりましょう!」


私が不安におもっているのをやっぱり察して私の気持ちを盛り上げようとしてくれたのか、シェルさんはいつもより明るくそういった。ションボリした気持ちのままセーブポイントへと続くいつもの扉の前に立った。


「張り切って!いってらっしゃ~い!」


「一人、か。」


つくやいなや独り言を言っている自分に驚いた。

今まではセーブポイントに行けば誰かが待ってくれているという安心感があったので、一人になると一気に不安な気持ちが増した。

それでもここでうじうじしているわけにもいかず、私はクエストペーパーの裏にある地図をじっと凝視した。


「えっと…。」


現実世界では方向音痴な私もスマホを使えば何とか目的地にたどり着くことができる。どの方向に行けばいいのかまでしっかり教えてくれるから、迷いようがないという言い方もできる。

でも今回は違った。人生で初めて紙で書かれた地図に従って目的地に行かなくてはならないのだ。クエストが成功できるかよりも目的地にたどり着けるかが不安だったわたしは、シェルさんと何度もシミュレーションをした。このメモさえあれば大丈夫だとシェルさんは言ったけど、本当に大丈夫かどうかは自分自身にゆだねられていることだった。


「まずはこっちだ…。」


まずは大きな塔があるところに向かったらいい。

そう言われていた私は360度あたりを見渡して、唯一大きな塔のある方向に歩みをすすめた。今までは誰かと話しながら歩いていたからすぐについてしまったけど、歩いて20分くらいだというその館は果てしなく遠く感じられた。


きっと私の不安がそうさせているのだと思った。


「ハート型の石だ!」


シェルさんはハート型の石を見つけたら左に曲がれと言っていた。

思っているよりもキレイなハート型をしていて色も何となくピンクがかっている石は、婚活のパワースポットのように見えた。

私は一人でその石に向かって手を合わせ、”いい人が早く見つかりますように”と心から祈った。



キュー



手を合わせている間に、前聞いたような鳴き声が足元から聞こえた。


「お前か。」


アーサーさんに”タリオンキャット”と教えてもらった生き物が、また私の足にまとわりついていた。


「もしかしてこないだ来たのと同じ子かな?」


確証はなかったけど、何となくそんな気がした。なんでかわからないけど私になついている姿をみて何となくほっとけなくなってしまった私は、しゃがみこんでタリオンキャットを撫でてみた。その感触は見た目通り硬くてごつごつしていて、お世辞にも”キャット”とは呼べなさそうだ。


キュ~


しばらく撫でていると、タリオンキャットは甘えたような声をだした。もうすでに愛着がわいてしまった私は不安な気持ちを和らげるためにも、しばらくそいつとじゃれていた。


「よし、行かなきゃ。」


しばらくして我に戻ったわたしは、「元気でね」と一言伝わるわけもない別れの言葉をそいつにかけて、また館に向かって歩き始めた。たぶん半分くらいまでは順調に来れているはずだ。私はそのまま地図の方向へ向かって歩き始めた。


キ~キ~


するとさみしいのか、タリオンキャットが後ろで鳴いている声がした。捨てようとした愛着を捨てきれない私は振り返ってタリオンキャットの方を見ると、まるでそっちじゃないと言っているように反対方向に対してアピールをしてきた。


「こっちじゃ、ないの?」


キューキュー


さっきとは違う鳴き声でそいつは言った。

にわかに信じがたかったけど、でも自分の方向感覚の方が信じられない私は、悩んだ末にそいつの判断に従うことにした。


それから私はただただこの不思議な生き物を信じて自分の歩みを進めた。とても危険なように思えたけど、でもなんとなく私の意思がそうしたがっている感じがした。最初は不気味な見た目だと思っていたけど、よく見ると目はクリクリしているしかわいいとすら感じ始めていた。


わたしって単純だな~と思いながらしばらく歩いて行くと、私の目にはしっかりと古い館が見え始めた。


「やるじゃん。」

キューキュー


すでに相棒のように感じ始めたこいつに、わたしは”リオン”と名前を付けた。”タリオン”から”リオン”なんて安易なネーミングセンスだったけど、でも呼び方なんて何でもよかった。


「お前の名前、リオンね。」

キューキュー


私の考えに同調するように、リオンは嬉しそうな鳴き声を上げた。最初は癒してくれるペットのような存在だとおもっていたリオンだけど、でも今は私の道しるべになってくれる”相棒”みたいなものになっていた。

警戒心が強いと思っていた私の自己評価は、どうやら間違っていたことがここでいよいよ証明された。


「よし、行ってくるから。」


初出勤の新卒の社員みたいに、私は身なりを整えてリオンにそう言った。

ここからが勝負だ。初めての一人でのクエストを成功させるべく、私は剣をぐっと握って屋敷の扉に恐る恐る手をかけてみた。


「す、すみませ~ん。」


誰もいるはずもないけど、なんとなく人の建物に無断で入るのが後ろめたくて小さい声で呼びかけてみた。でも当然返事なんてあるわけなかった。返事があるどころか、モンスターがいると聞いていたのにそれにしては静かすぎる屋敷の中はとても不気味に感じられた。


「なんかさむ…っ。」



無防備な私には少し寒く感じられるほどひんやりとした屋敷の中に入ると、玄関らしきところには大きな鏡があって、その鏡にはあたりまえだけど自分の姿がばっちり写っていた。

手のところにモコモコの毛皮みたいなものがついていて、服はタンクトップで年柄にもなく短めのスカートの下にニーハイブーツみたいなものをはいている。

まさに”猫”をイメージしたとシェルさんは言っていたけど、冷静に猫のコスプレをしながら婚活をしている自分を想像しただけでゾッとするので、あまり自分のことを見ないようにしていたはずだったのに、思いもがけず私は自分の全身を初めて見せられることになった。


なんとなく気づいてはいたけど、頭の上には猫耳がついていた。そしてお尻の方には律儀にしっぽがあって、自分自身で「痛すぎるんですけど」とツッコまずにはいられなかった。


それに驚くことに、外に置いてきたと思っていたリオンはしっかりと私の背後についてきていたようで、鏡にその姿がしっかりと映っていた。


「きちゃったのか。」

キュー


モンスターに襲われたとき私はこいつを守れる自信がない。いかにも勇者らしいことを考えて外に置いてきたはずだったけど、戻るのももう怖かったからしょうがなくリオンもつれていくことにした。


「2階の一番奥…。」


よりにもよって光の石というのは2階の一番奥のところにあるらしい。そのまま恐る恐る階段を上っていくと広い廊下があって、歩くたびにギシギシという音だけが館の中に響いていた。


「怖すぎ。」


幽霊とかそういうものが見えるタイプではないけど、そもそも異世界に幽霊っているのだろうか。でももし現実世界にあって肝試しに使われるとしたら相当ピッタリな館の廊下を恐る恐る歩きながら、私は無事一番奥にある大きな扉の前にたどり着いた。


「よしっ。」


もう定番になってしまった独り言で自分の身を引き締めてリオンを見た。すると「頑張りましょう!」と言わんばかりのやる気に満ちた顔をしていて、少し笑ってしまった。


リオンを連れてこなかったら心細さで死んでしまったかもしれない。そう思ってリオンを抱き上げて、ご褒美に数回撫でてあげた。


重そうな大きな扉をとても慎重に開けてみた。

モンスターが住み着いているとシェルさんは言っていたけど、静かすぎてそんな気配もない。扉の隙間から見た部屋の一番奥のところには”光の石シャイニーストーン”と呼ぶのにふさわしい神々しい石が見えて、「なんだこのまま石もって帰れれば本当に肝試しと変わらないじゃん」と余裕をかまして部屋の中一歩踏み込んだ。



バサバサバサバサ



その時部屋の中にけたたましいほど響いたのは、何かが羽ばたく音だった。

一度は驚いて目をつぶったわたしだったけど、そーっと目を開けてみると2mくらいあるであろうコウモリのようなモンスターが部屋を飛び回っていた。


「もういや…。」


飛ぶなんて聞いてない。

そう思ってみたものの、何かの存在を感知したその生き物たちは明らかに私に向かって口から何かを発射しようとしていた。


「いやいやいや、うそでしょ!」


ビーム出せるなんて卑怯だ!

盾も持っていない私は、きっとそのビームを浴びたらいちころだと感覚で理解できた。


そういえばこっちの世界で死んだらどうなるんだろう。そういうところ聞いておけばよかった。



―――もしこのまま死んでしまったら聞くこともできないけど。



そんな馬鹿なことを考えている間にコウモリモンスターの口から想像通りのビームが放たれた。



人間の反射神経というのは素晴らしい。

ビームが発射されると思った次の瞬間、絶対に目をつぶってはいけないシーンだとわかっていながら私は目をつぶって無意識に顔を手で守っていた。でももう当たるとおもったビームはなぜかなかなか私のところまで届いてこなかった。

こうやって目をつぶるのはもうこの数分で2回目だなと冷静な分析をしながら目を開けてみると、そこには羽を大きく広げたリオンの姿があった。


「え?!飛べるの?!」


ただ背中の硬いところにあった翼を広げただけだと思ったけど、リオンは体ごと大きくなっていて、イタチほどしかなかったサイズは熊くらいまで成長していた。そして私が目をつぶっている間に、リオンはどうやらその翼で私を守ってくれたようだった。ただのかわいいモンスターだと思っていたのに、リオンはすでに足の爪をむき出しにして、私なんかよりずっとかっこいい戦闘態勢をとっていた。


キューーーー


低い声で鳴いたリオンが一匹のコウモリモンスターに寄っていってその爪で体を引き裂いた。するといとも簡単にモンスターはキラキラと空気に溶けていった。


「まじかよ。」


ここに来るとなぜか反応がギャルになる。

そのまま私が圧倒されたままでいると、一匹のモンスターがこちらに寄って来た。私は反射的に剣を急所だと思われるからだに突き刺してモンスターを一匹討伐した。


キュー―


わたしとリオンの連係プレーで、モンスターはあと3匹になった。

でも厄介なのはあいつらは飛べるけど私は飛べないということだ。あまり強くないモンスターだということは理解できたけど、なんせ私の武器は短い剣だから、下の方に降りてくるのをまって攻撃するしかなく、討伐には思ったよりも時間がかかってしまっていた。


「どうしたもんか…。」


その時、上空の方で戦っていたリオンが私の方に向かって全速力で飛んできた。


いやいや、ついに私にまで攻撃する気か。

そう思った次の瞬間には私はリオンの背中に乗っていた。


「乗せて飛べるんだ!」

キュー―!


私の言葉に返事をするように言ったリオンはそのままモンスター3匹の中に突っ込んでいった。私は胴体のところを狙うように剣を横に構えて、どんどんコウモリモンスターを討伐していった。そして私たちの協力によって、あっという間にすべてのコウモリモンスターが空気に溶けていった。


「やるじゃん、リオン。」

キュ~


私を下したあとすぐに小さいイタチに戻ったリオンは、また猫みたいに私の足に甘えてきた。そんなリオンを抱き上げて頬にスリスリしてあげようとおもったけど、そんなことをしたら頬が血だらけになりそうだったから、ただ「ありがとう」と一言言った。


回収した光の石シャイニーストーンは、近くで見るともっとキレイだった。まるで宇宙の一部を切り取ったみたいにキレイに透き通っていて、中には星があるみたいにキラキラとした光が見えた。


「キレイね。」

キュー


しばらく眺めているだけでなんだかとても幸せな気分になって、高価な値段が付くものうなずけた。このまま眺めていたら一日がすぐ終わってしまいそうだと思って、シェルさんにもらった光を閉じ込めるという袋の中にその石を入れて、私はすばやくその不気味な館をでた。


「ね、街はどっち?」


モンスターの襲撃をうけてさすがにちょっと怖くなっていた私は、その足で武器屋さんとやらに行ってみることにした。これからずっとリオンに守ってもらうわけにもいかないし、盾くらい買っておかなきゃなという考えが自然と浮かんできていた。

そしてこのゲームみたいなクエストへの挑戦をちょっと楽しんでしまっている自分に気づいて怖くなった。


キュー


リオンは私の言いつけ通りしっかり街へ連れて行ってくれた。街は相変わらずとてもにぎわっていて、私はさっきまで一人で心細かったのが癒されていくのを感じた。

一人で行動するのは嫌いではないけど、”一人”であることと”孤独”であることは全然違う。私は今回のクエストで”やっぱり老後を孤独に過ごすなんて嫌だ!”と結婚の意思を固めることができたことにも気が付いた。


「ここだ。」

街の賑わいで少しさみしかった心を回復させた私は、そのままアーサーさんに教えてもらった武器屋さんに向かった。さっきの館とは違って中の様子が見える扉からはたくさんの人が武器を選んでいるのが見えて、私は安心してその扉を開けた。


「いらっしゃいませ!」


扉を開けると案内人と思われる人が入り口の横に立っていた。私は小さくペコリと礼をして、「防具がほしいんですけど、、、」と自信なさげに言ってみた。


「かしこまりました、防具ですね。

では左のカウンターにお進みください。」


じっくり店内を見てみると、正面のカウンターが剣や槍などの攻撃する武器、車やバイクなどの乗り物、左のカウンターが防具の売り場になっていた。私は素直に案内人の人に従って防具のカウンターに向かった。


「いらっしゃいませ!

どのようなものをお探しでしょうか。」

「はじめて購入するのでよくわからなくて…。

とりあえずなんでもいいので一つ欲しいんです。」


私のイメージする武器は大きい剣と大きい盾という絵にかいたようなノーマルな装備で、それがこの世界にとってノーマルなものなのかノーマルじゃないものなのかよくわからなかったけど、でもどんなものがあるのかも理解できない私はそうオーダーするしかなかった。


「予算とかってあるんですか?」


かといって何か的確なものを進めてくれるわけでもないお店の人に色々な武器の説明を聞いているうちによくわからなくなっている私に、後ろから声をかけてきたのは一言で言うなら”マッチョ”な男性だった。


「えっと、1000マリル以下で…。」


そういえば武器がいくらくらいするのかすらわからず来た私は、もしかして1000マリルなんかじゃ武器が買えなかったらどうしようと思いつつ、今の所持金を伝えた。すると「なるほど」と言った男性は、私がぽかんとしている間に店員さんにいくつかオーダーをした。


「はじめての防具ですよね。

今いくつか持ってくるように頼んでおきました。」

「あの、1000マリルで足りますか…?」

「初めての防具なら1000で十分です。」


一番不安だったところをとりあえず解消してくれてとりあえずホッとした私は、マッチョさんに「ありがとうございます。」と深くお辞儀をしながらお礼を言った。


「あ、すみません。出しゃばっちゃって。」


例えればアーサーさんくらいしっかりとした装備を付けているマッチョの彼は、その体や装備に似合わず縮こまりながらそう言った。私はそんな腰の低い言葉にもっと低姿勢で「いえいえいえ」と否定してまた何度もお礼を言った。


「こちらがジュラスの皮の盾、こちらがシーバのうろこの甲冑です。」


店員さんが持ってきたのは、”ジュラス”という初めて聞く名前の生物の皮でできているという私が想像していた通りの"ノーマル"な盾と、こないだ捕獲したシーバのうろこで作ったという甲冑だった。


「ジュラスというのは山の方に住んでいる言うならば大きな亀のようなモンスターなんですが、

武器はとても丈夫で扱いやすいんです。

シーバは川魚の一種なんですが、

うろこが丈夫なのにめちゃくちゃ軽くて女性にはピッタリだと思います。」


その武器をみてマッチョさんは私に丁寧に特徴を説明してくれた。

シーバって食べたり武器になったり便利な動物だな。いっそ育てようか。

私はアホなことを考えながらも、悩むほどの知識もなかったからマッチョさんが選んでくれた防具を買うことにした。


「合わせて500マリルです。」

「安い…。」

「ジュラスもシーバも珍しいモンスターじゃないので

割かしお手頃に武器を手に入れられるんです。」


これが安いのか高いのかよくわからなかったけど、所持金で二つも防具が買えたことに感動した。

多分ゲーマーの人ってこういう気分なんだろうな。

アニメやドラマはオタク的に好きになる私も、どうしても今までゲームに親しみが持てなかった。でも実際に体験してみてやっと楽しさを理解できた気がする。そう思いながら武器を受け取って早速装備してみようとおもったけど、イマイチつけ方がわからなかった。


「あの…。やりましょうか?」

「いい、ですか?」


そんな私を見かねたマッチョさんがもう一度救いの手を差し伸べてくれて、店の外で甲冑をつけて盾の持ち方を教えてくれた。


「すみません、何から何まで。」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。」


とても真摯にそういうマッチョさんに、私は不覚にもキュンとしてしまった。そしてその時、とても大切なことを思い出した。


―――あ、私、今婚活してるんだった。



「あ、あの。この後お時間ありますか?」


こんな街の中で自然に男性と話す機会があるなんて今後ないかもしれない。今の状況と例えてみるなら、電化製品を何にしようか迷っていたら、店にたまたま来ていた男性が色々アドバイスをくれて、使い方まで教えてくれたようなものではないか。

実際そんな状況になったらもっと警戒したのかもしれないけど、何もわからないこの街で自然と救いの手を差し伸べてくれたことが純粋にうれしくて、私はマッチョさんをこのまま逃してはまずいととっさに判断した。


「もしお時間あればお礼がしたいんですけど…。」

「お礼なんて結構ですよ。」


人生で初めてと言っていいほど初めて自分から男性を誘った。でもそれはあっけなく断れれるみたいだった。

声をかけてくれて助けてくれて。それだけで自分に少しは興味を持ってくれていると、どうやら私はうぬぼれていたらしい。


「お礼とかではなく、一緒にお茶がしたいです。」


断られたショックを受け止められなくてそのままお礼を言って帰ろうとすると、次にマッチョさんから出てきた言葉は意外なものだった。私は思ってもいないその言葉に思わず勢いよく顔をあげて、自分でも思ったより大きくうなずいた。



「本当にさっきはありがとうございました。」

「いえいえ、僕も色々見られて楽しかったです。」


そのまま二人でギルドカフェに入ると、マッチョさんはザックさんという名前で28歳だと自己紹介してくれた。初めて出会う同い年に私の気持ちは一段と盛り上がった。


「最近始められたんですか?」

「はい、ほんとついこないだ…。

今日も初めて一人でクエストに行ったんです。」

「防具なしで戦ってきたんですか?

それで立派に帰ってこれるなんてすごいです。」


ザックさんは私を立てて色々と話してくれた。それが気持ちよくて、私は今日行ってきたクエストのことをペラペラとお話してしまった。


「あ、すみません。わたしばっかり。」

「いえいえ全然。聞いてて楽しかったですよ。」


ザックさんのレベルは私よりはるか上であることはあきらかなのに、こんなポンコツの話も楽しく聞いてくれたらしい。そんな誠実さに私は常にときめいて、どんどんザックさんのアピ力を上げてしまっていた。


「ザックさんは、どのくらいのレベルなんですか?」

「僕はレベル30です。

もちろんここには婚活に来てるんだけど、

もともとゲーマーだからなんだかレベル上げないと悔しくて

最近は一人でクエストばっかり楽しんじゃってます。」


シェルさんの言った通り一人でクエストをしに行くことは別に珍しいことではないらしい。その言葉を100%信頼していなかった私はザックさんの言葉を聞いてやっと、"レベルを上げること=長く婚活をしていること"ではないことを理解した。


「よかったら今度一緒にクエスト行きませんか?」


しばらく話しているとザックさんから思いもよらない提案をしてくれた。少し照れた様子で誘ってくれたザックさんに私は少なからず心が躍った。


「いいんですか?私めちゃくちゃ弱いけど…」

「いいんですいいんです。

色々とサポートしますから安心してください。」


力強い言葉に迷うことなく私は「それではぜひお願いします」と申し出た。名残惜しかったけどあまり長居するわけにもいかず、次に会えることを楽しみにその日はギルドカフェを後にした。

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