File 2

「どう?そっちは。」

「こないだ初めてカップルクエストお見合いしたんだけど、ダメ。

プライド高すぎてやばかった。」


結婚相談所に行き始めたからといってそう簡単に日常が変わるわけではないと痛感した私は、あいかわらず私たちの”ギルド”である居酒屋で、美紀とビールを飲んでいた。


「いるよね~そういうやつ。私んとこにもいたわ。」

「いい人だと思ったんだけどな~。」

「そういう人ってプライド高いから

理想も高くて長くいることが多いんだって。」


だからか。


アーサーさんのレベルが高かったのにも納得がいった。一人だってクエストはできるから、レベルが高いからってそれだけで長い間婚活をしていると決めつけてはいけないとシェルさんに言われたけど、アーサーさんの場合はそうではないと思った。


「美紀は?」

「こっちも。20代ってだけで選んでくれる人もいるし、

選んでもらえることはうれしいことだけど、

でもそれで選ばれて30代になったときどーすんのさ。」

「ほんとそれ。」


“20代”というのは結婚相談所の中ではきっと若い方で、若い女性がいいという人は20代を選ぶのだろう。確かに女には子供を産めるリミットみたいなのがあって、だからこそ若い女性を選びたいという男性の気持ちだってわからなくもないけど、でも美紀の言う通りだ。


若いのがいい。なんて選ばれて捨てられるくらいなら最初から拾われない方がましな気がする。

でもきっと、これは贅沢な考え方なんだと思う。


「期間ギリギリまでしっかりと婚活してなんもなかったら、

ひーの方移ろうかな?」

「いや、私んとこは…。」


絶対にやめた方がいいと思う。


友達にそう断言できる相談所に自分が通っていることが不思議だったけど、でも美紀にだって”異世界に転生して婚活してるの”なんて言えるわけなかった。私は言葉を全部呑み込むようにしてビールを一気に飲みこんだ。



(ギルドカフェへお誘いがあります。)


シェルさんから連絡が来たのは間もなくのことだった。

私は前に誘われたときも行っておかなかったのを後悔して、二つ返事で「行きます」と言った。彼氏がいるのに相手を同時進行するのはもちろんよくないことだけど、でも婚活において同時進行なんて普通だし、気に追うことなんてない。そんな暇あったら色々な人に会っておくべきだと、私は最初の婚活を通して学んでいた。私のアグレッシブさを一段上げてくれたアーサーさんには感謝している。


「こんにちは~。」

「ヒョリンさんおかえりなさい!」


いつも通り元気に出迎えてくれるシェルさんにはすでに安心感すら覚えた。私はもう少しのところで「ただいま」と言ってしまいそうになるのを何とか抑えてカウンターに座った。


「本日のお相手のステータスはご覧いただけたでしょうか。」

「実はあまり詳しくは…。」

「ふふふ、いいんですよ。

ステータスをある程度気にせずお会いするのも。」


できるだけ自分の条件に合う男性と結婚したいと思っているのはもちろんそうだけど、でも自然な出会い方をしたいという気持ちもどこかで捨てきれない私は、その人はバンさんという人で年齢は35歳ということだけはチェックしたけど、それ以外にも送られてきた趣味とかそういうものは一切確認しないでおいた。


「では、早速行きましょうか。」

「はい。」


カフェには最初シェルさんが一緒に来てくれることになっている。シェルさんはいつもクエストに行くとは違う扉を開けて私を誘導した。すると扉の向こうはもうカフェの店内になっていて、数名が食事をしたりお茶をしたりしていた。


「ヒョリンさん、こちらです。」


本当にこれは結婚相談所のシステムを大して変わらないな…。


“結婚相談所にはいかない”と意地を張っていたわたしだったけど、システムはしっかり調査済みだった。こうやってまずはお茶から初めて…というところは、なんとなく結婚相談所のシステムと似ていて、やっと”婚活”をしている感がでてきたなと思うと身が引き締まった。


「バンさん、お待たせ致しました。」


シェルさんに案内されると、そこには身長が高くてさわやかそうな男性が座っていた。何となく”バン”という名前からガタイのいい男性を想像していたけど、おもったよりずっとスマートな印象に私は好印象を抱いた。

早速私たちは現実世界と変わらず小さくペコリと礼をして席に着いた。


「ヒョリンさん、こちらバンさんです。

年齢は35歳で、ご趣味はボルダリングです。」


それからシェルさんがしばらくバンさんのことを紹介してくれた。初めて会う人といきなり二人きりにならなくていい安心感と、ある程度のことを聞けるスムーズさが、さすが結婚相談所だなという感じがした。


「こちらがヒョリンさん、

年齢は28歳で先日クエストを始められた新人さんです。」

「はじめまして。」


バンさんの紹介に続くようにしてシェルさんは私のことも軽く紹介した。そしてしばらくいつもの明るい雰囲気で会話を盛り上げてくれたあと、「では、私は行きますね」とあっさり帰ってしまった。


「緊張しますね。」

「はい…。」


もう手馴れているのかと思ったけど、本当に緊張した様子でバンさんは言った。さわやかな人がカチコチになっているところを見て、私はとっさに可愛いなと感じてしまった。


「僕、これ初めてで…」

「そうなんですか?」

「はい。2人きりって緊張してしまうのでなかなか勇気が出なくて。」


バンさんは少し臆病な感じに思えたけど、話をすすめるうちにどんどん心を開いてくれてきたようで、自分の話もたくさんし始めてくれた。


「ボルダリングがご趣味ってことは、

身体を鍛えるのがすきなんですか?」

「は、はぁ。」


自分の趣味を持って運動をしてくれる男性は私にとってポイントが高い。結婚したからと言って自分の時間が無くなるのが嫌だから、趣味のために外出してくれる時間はお互いにとって有意義になると思う。

そう思って趣味のことを振ってみたけどイマイチ反応がよくなくて、バンさんはすぐに私の趣味の話に話を切り替えてしまった。


「へぇ、お料理がご趣味なんですね。」

「趣味って程じゃないんですけど…。」

「でもすごいです。

僕は実家に住んでいるのでいつも母に甘えてしまって…」


私も実家で暮らしているけど、いつか結婚ってなったときにアラサー女が料理もできないなんてまずいかなとおもって、料理だけは必死に勉強してきた。趣味というより”習慣”だからプロフィールに書くのはちょっと嫌だったけど、でもシェルさんに「料理はポイントが高いから絶対書いておいた方がいいです!」と強めにすすめられたから、断られずそのまま記載することにしてしまった。


「いつか作っていただく機会があれば嬉しいです。」

「お好きな料理は何ですか?」

「う~ん、そうですね。

母がよくから揚げを作ってくれるのですが、

やっぱりおいしいですね、から揚げ。」



ん?



私は少し感じた違和感を見逃さなかったけど、でもちゃんと見るのはやめた。まだまだ男女の仲はわからない。

少しの違和感はあったものの私たちはとても楽しく会話を終えて、お互いの場所に帰った。


(バンさんから、再びギルドカフェのお誘いですが、どうしますか?)

(お願いします!)


次の日、バンさんから無事2回目のお誘いが来た。

また二つ返事でOKを出した私は早速日程の調整をして、今度はカフェで食事をとることにした。


「来ていただけてうれしいです。」

「誘っていただいてありがとうございました。」


私はあと何度これを繰り返すんだろう。考えると闇に落ちていきそうだったから思考回路を停止した。バンさんは先に私が座るように促して自分も椅子に座った。


「何、食べられますか?」

「どうしよっかな~…。」


カフェのメニューは聞いたことのない食材を使ったものばかりだった。でもそのよくわからないものをずっと眺めていてもしょうがないと、私はよくわからないまま”ショーバとクリームのフェットチーネパスタ”を注文した。


食事を待つ間にも当たり障りのない話をして、前より打ち解けたバンさんとの話は前よりずっと楽しかった。休日は何をしているのか、ここのクエストで出会った摩訶不思議な生物について…。比べてはいけないとわかっているけど、プライドが高いアーサーさんの後に出会ったから余計に腰の低いバンさんの話は純粋に”楽しい”というだけで聞くことができた。


「お待たせしました~。」


そうしているうちに”ショーバとクリームのフェットチーネパスタ”が来た。見た目は鮭のような鮮やかな色をした魚とクリームのパスタで、”ショーバ”とはこの近くを流れる川魚の名前だとバンさんが教えてくれた。

ちなみにバンさんが頼んだのは”ティランタのソテー”で、ティランタとは鶏の食感ににた肉のような魚のような生き物らしい。


「いただきます。」


私がそう言っている間に、バンさんはもう食事に手を付けていた。ナイフとフォーク、そして箸まで用意されていたけど、バンさんはフォークだけでティランタを切っていた。


「箸、苦手なんですよね…」


ティランタの身は思ったより柔らかくて、フォークを刺そうとするとホロホロと崩れてしまっていた。ナイフやフォークより断然端の方が食べやすそうだったから思わず私がチラっと見ると、それに気づいたバンさんはすこし照れた様子で言った。


「あ、すみません。そういう意味じゃ…」

「いえいえ、大丈夫です。食べましょう。」


嫌味な女に思われたかな…。

そう思って心配してみたものの、今更心配してもしょうがないと、バンさんに促されるまま自分のパスタに手を付けた。


「おいしい…。」


鮭のような味かなと思っていたショーバはとてもジューシーで、白身魚の淡白な感じは全くしなかった。肉と間違えてしまうのではないかと思うほどジューシーで、でもどこかあっさりとしている油がとても心地よくて、何皿でも食べれてしまうんではないかというアホな錯覚に陥った。


「ヒョリンさん、とってもおいしそうに食べますね。」


そういえば前、現実世界で男性とデートしたときにもそう言われたことがある。あまり気に留めてなかったけど、男性っておいしそうにご飯を食べる女性が好きなのかもしれない。私はそう自分で自己解釈して、フォークとスプーンを止めることなくキレイにパスタを食べ切った。


「ごちそうさまでした。」


それからも楽しくお話をしながら食事はとても楽しく終わった。気になることといえば、バンさんのお皿に付け合わせの緑の野菜みたいなものがすべて残されていたということだけだった。


「ヒョリンさん、よかったら次回一緒にカップルクエスト、行きませんか?」


食事後もコーヒーを飲みながらしばらく会話をしていると、バンさんは本当に恥ずかしそうに言った。

女性慣れしていない純粋な印象が私は嫌いじゃなくて、「いいですよ」と承認して次回の予定を調整した。




【ヒョリン(28)】

レベル Ⅲ→Ⅳ

能力  ――――

体力  250

攻撃力 150

アピ力 500


マリル 350


「ヒョリンさんすごい!

最近クエストしてなかったから攻撃力とかは別として

アピ力がめちゃくちゃあがってます!」


やっぱり”おいしく食べ物を食べる特技”のおかげか…。

私はそう勝手に解釈して、これからプロフィールの特技欄に「おいしくご飯を食べること」なんて追加しようとしたけど、食いしん坊にみられそうだったから書くのをやめた。


「では今日のカップルクエストはこちらです。」


(シリン川でショーバ捕獲)


「ショーバって…。」

まさか自分が食べたものを後日捕獲しに行くなんて思いもしなかった。私が驚いたのに不思議そうな顔をしたシェルさんは、次の瞬間にはすぐ笑顔になってまた私をクエストの扉の前に連れてきた。


「それでは今回も張り切って。

いってらっしゃ~い!」




「ヒョリンさん、こんにちは。」

「こんにちは。」


レベルⅪのバンさんの装備は、アーサーさんに比べたら軽装に見えたけど、私なんかと比べたらずっとかっこよかった。何より初めて見る”正装”に、私は少し心躍っていた。


「では、いきましょうか。」

「はい。」


魚の捕獲の仕方はこないだアーサーさんにしっかり教わった。結果は残念だったけど、戦いのことを色々と勉強できたことに私は改めて感謝した。


「シリン川って遠いんですか?」

「そんなことないですよ、ここからなら5分もかからないと思います。」


一度シリン川に行ったことはあるものの、まだ少し不安だと言いながら歩くバンさんは、十分道をわかっているように見えた。方向音痴にとって道を一回で覚えられる男性もポイントが高い。


「ほら、見えてきた。」


そうこうしているうちに、見たこともないような広くて大きな川がでてきた。まるでアマゾンみたいだと私が感心しているうちに川岸までたどり着くと、バンさんは一通り装備が整ったことを確認して長い棒のようなもので川面を叩き始めた。


「逃げていかないんですか?」

「ショーバはこうやって川面を叩くことで、

これを獲物だと思って水面にあがってくるんですよ。

彼らの主食は鳥ですからね。」


嘘だろ…。

ショーバをただの魚だと思っていた私はそんな狂暴な魚だったことに驚きを隠せなかった。私が驚いている間にも現実世界の釣りとは一風変わった形でバンさんはショーバをおびき寄せるために川面を叩き続けた。本当にこんなんで寄ってくるのかと心配していた私だったけど、次の瞬間小さな泡がポコポコと出始めたのを見て、もうすぐ来ると捕獲用に持ってきたモリを構えた。


「きますよ。」


その泡がどんどん大きくなってきて、その大きさに私が驚いていると川面から跳ねたのは私の体よりずっと大きな魚だった。


「え…。」


まさに”鮭”を想像していた私は、その大きさと黒々とした見た目に驚いて一歩も動けなくなった。


「ヒョリンさん!また来ます!」


そうこうしているうちにはねた後また水の中に戻ったショーバがまたやってくる気配がした。圧倒されているだけではだめだと私は多くの魚の急所である腹の部分を的確に狙えるように、低い体制を取った。



「来た!!!」



1度目より大きく、ショーバは目の前を跳ねた。大きさには相変わらず圧倒されるものの、もう驚くこともなく的確に狙ったところに武器を投げられる自分を、冷静な自分が「もう立派な勇者だ」と言っていた。



「やった~!」



狙い通り急所にモリが当たったショーバは、そのまま力なく川辺に落ちてきた。近くで見るともっと大きくてもっと黒々としていて、こんなものを狩れるのになぜいい男が狩れないんだとちょっと上手いことを考えた。


「すごいですね!ヒョリンさん!」

「ありがとうございます!」


おまえはモリをかまえる私をサポートしようとすることもなく何をしていたんだという疑念はぬぐえなかったけど、その大きなショーバを持ち上げて街の商店まで運んでくれるとバンさんが言ったので、一旦すべてを許してあげることにした。


「さすが、運動してるから力持ちですね!」

「ははは、実はヒョリンさん…」


だいぶ私に慣れてきたのか大きく笑ったバンさんは、そのままショーバを私の体にドンと置いた。


そんなに乱暴に置いたら持てるわけない!

私が反射的にそう思って目をつぶると、来ると思っていた重みは手の上に来なかった。でも恐る恐る目を開けてみると、自分の手の上にはしっかりとショーバが乗っていた。


「こいつめちゃくちゃ軽いんですよ。」

「は?」


婚活をしている最中で絶対に言ってはいけないであろう「は?」という言葉が、思わず私の口からでてしまった。たしかにショーバはこの大きさの割にとても軽くて、片手でも持てそうなくらいだった。さっき何をしてないのを許してあげた自分が馬鹿らしくなった。


「いや~実はね。趣味のボルダリングってのも、

モテそうだからそう書いときなさいって母が言うんですよね。」

「お母さんが…。」

「そうそう。

婚活もね~、本当は家にいてもいいけど母がやれやれってうるさくて…。」


そう語るバンさんの顔は、できたばかりの恋人のことを語る男性のようにうれしそうで、その横顔を見ているだけで私の中の熱が冷めている音がしそうだと思った。


「あ、そうだ。お腹すきません?

ショーバ売ったら一緒に外でピクニックでもしましょうよ。

今日母ちゃんがお弁当作ってくれたんで。」


そのセリフを聞いて私をつないでいた糸みたいなものが、ついに切れてしまった音がした。


ショーバを売ってピクニックの誘いを丁重にお断りした後、すぐにギルドに帰ったわたしは、シェルさんに次のクエストは無条件で断ってほしい旨を伝えた。


【マザコンオトコの襲撃の成果】

レベル Ⅲ→Ⅳ

能力  ――――

体力  150→500

攻撃力 150→600

アピ力 100→500


マリル 500→1000

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