第17話 自覚

 一限目に出された数学の小テストを回収している最中に、大地を横目で見ていた。昨日見たのと同じ横顔。 数学とか理科みたいな理系教科の時は比較的キリっとした目な気がする。


 でも、二限目の現代文のときはいかにもつまらなそうな顔になっちゃってる。 明らかにやる気ない。

 五本の指をそれぞれ指先だけ両手で合わせて、親指からグルグル回して指の体操をしている。 真似してやってみたけど、薬指が特に難しい。

 

 三限目は社会。 これもつまんないのかな。 今度は左手で四角、右手で三角を描いて遊んでいる。


「菊野、ヒマなら教科書読め。 155ページの最初から」

「はい、すんません」


 バレてる。 思わず笑いが漏れてしまったら、隣からジロリと睨まれた。

 ――あたしのせいじゃないもん。


 

 結局、午前中は大地の生態観察で終わってしまった。

 あの手とずっと繋いでたんだよね。 あまり高くない身長に似つかわしくない大きな手。

 そういえば、あの胸に顔を埋めて抱きついちゃったんだよね。 あの時の大地、男らしかったな。


「なあ春山、熱でもあるのか? 」

「うう? ううん、そんなことないよ」

「ん? ならいいけど、顔赤いぞ? 」

「ほら、今日ちょっと暑いから」

「そうか? 肌寒いくらいだけど」


 大地ったら、いきなり話しかけてこないでよ。 ドキっとするじゃない。 顔が赤くて悪かったわねっ。


「美咲〜おべんとターイム! 」


 大地の前に座った山田くんをチラッと見つつ、友紀がお弁当を持ってやってきた。 友紀ったらまた見てる。


 ――また、見てる?

 あたし、今日ずっと大地ばっかり見てる。

 目が勝手に追ってしまうんだよね。



 そっか、あたしも友紀と同じなんだ。

 これが恋、なんだね。 



 そう自覚した途端、胸がキュッと締め付けられるような感覚になった。 思わず手で胸を押さえる。


「美咲? 大丈夫? 」

「うん、もちろん。 なんだか燃えてきた」

「どしたの? ま、元気ならいいけど」






 今日の六限目は文化祭に向けての特別ホームルーム。 委員長の倉田さんが出てきて、文化祭におけるクラスの出展物について話し合うことになった。


「まず、部活でクラスの方に参加できない人は挙手してくださーい」


 ちらほらと、手が挙がる。 だいたい三割ぐらいかな。 大地も手を挙げていた。

 あたしも4Seasonzとしての参加だから、クラスでは参加できないんだけど……そうは言えないからなぁ。


「ありがとうございました。 では、クラスの出展物について意見のある人どうぞー」

「やっぱり食べ物でしょ」

「食べ物は衛生的なところが大変じゃない? 」

「火は教室じゃ使えないしね」


 いろいろと意見が飛び交う。 参加できないあたしは議論には参加していなかったんだけど、思わぬ方向から声が飛んできた。


「春山はなんかやりたいもんねーの? 」

「へ? なんの話?」

「いや、文化祭」


 油断してる時にばっかり話しかけてこないでよっ! 心臓に悪いよ。

 文化祭といえば食べ歩き。 クレープ、たこ焼き、あとはなんだろう。


「そういえば、こないだアキちゃんが買ってきてくれたドーナツおいしかったな」

「アキちゃん? んでも、ドーナツ屋さんっておもしろいよな」


 えっ? あっ、声に出してた? あっぶない。


「ドーナツ屋さんいいね! 菊野くんナイス! 」

「俺じゃねーよ。 春山」

「あ、そうなの? 春山さんありがと」


 そう言って、倉田さんは黒板にドーナツ屋さんと書き記した。

 それからお化け屋敷や占いの館など案が出てきたところで多数決を取ることになった。


「それじゃ、どれか一つに挙手してねー」


 結局、全ての案を読み上げるまでもなく、結果は決まった。 ドーナツ屋さんで挙がった手が半数を超えていたから。


「よかったな! 春山! 」


 とびっきりの笑顔で、サムズアップのポーズを見せられた。 別にあたしが挙げたつもりもなかったし、当日出られるわけでもないし。



 ――でも、大地の笑顔が見られたからいっか。


 なんて思ってしまったあたしの恋煩いは、結構重症かもしれない。

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