第12話 魔法少女⑤


「「マジピュアチャージ!」」 

 模擬戦開始の直後、双子ちゃんが同時に叫ぶ。

 すると双子ちゃんの全身が、虹色の光に包まれた。

「……小鳥くん、いいのですか?」

 桜子が横目で僕を見る。

「うん。いいよ」

 桜子には、開幕早々斬ったりしないよう言っておいた。一瞬で終わったらツマラナイ。 

 やがて虹色の輝きが消える。

 輝きの下には、フリフリ衣装を身に纏った双子ちゃんがいた。

 朱音ちゃんはピンク、蒼衣ちゃんはブルー。それぞれの髪の色と同じ衣装。

 二つとも、存分にフリルやリボンやレースがあしらわれていて、ゴスロリチック。それが人形のような顔立ちの二人によく似合う。

 胸元には大きな宝石がついていて、やはりそれぞれの髪と同じ色。

 うん。間違いなく、誰が見ても魔法少女だ。

 奇抜なフリフリ衣装を、二人は完璧に着こなしていた。

「別に攻撃しても良かったのにゃ」

「どうせこっちには効かないもん」

 そう言って、双子ちゃんはほくそ笑む。

「愛情あふれるハートの形、ピュアラブリ!」

「命がほほえむ母なる証し、ピュアマリン!」 

「「二人が創る、輝く未来! 二人で一つ、それがマジピュア!」」

 双子ちゃんが息をそろえて叫び、最後にポーズをバシッと決めた。 

 どうやら双子ちゃんは、日曜朝の人気テレビシリーズを模しているようだ。        

 いいねぇ、傾いてるねぇ。

 ぜひ僕のようなゴミを、虫けらのように踏み潰してほしい。

 僕はポケットの中のスマホを取り出し、僕と桜子の身体能力を強化する。

 そして、双子ちゃんの《装備》を奪おうと、スマホの画面を覗きこむ。

 ……うん?

 画面が真っ暗だ。双子ちゃんのステータスは画面に表示されなかった。       

 あれれ、フリフリ衣装も含め、双子ちゃんの身につけているものを、根こそぎ僕のもの奪おうとしたのに。

「にゃにゃ、今何かしようとしたにゃ?」 

「そのスマホが小鳥先輩の能力だもん?」 

「……いや、まあ、そうなんだけど」

 スマホの画面は真っ暗なままだ。どうして双子ちゃんのステータスを弄れない? 

「では、こちらはどうでしょう」

 と言いながら、桜子が袖から花喰を取り出した。

その瞬間、

「「うがあっ!」」 

 双子ちゃんが、両方同時に倒れる。 

 桜子十八番の、高速斬撃飛ばしだ。

「どうやら、わたくしの能力は使えるみたいですね」

 女子中学生二人を斬っても、桜子は顔色一つ変えていない。

 あらためて思うけど、桜子は強い。敵が何かする前に、速攻で斬っちゃえばいいんだもん。

「あ、ごめんなさい小鳥くん」

 とバツが悪そうにする桜子。

「わたくし終わらせちゃいました。手加減はしたのですが、噂の傘原姉妹がこんなに弱いとは思わなくて……」 

「いや、仕方ないよ。だけど勝利条件は、敗北を認めさせることなんだっけ?」

「いえ、仕方なくありません。小鳥くん、わたくしにお仕置きしてください」   

「はい?」

「わたくしに罰を与えてください。さあ、愚かなわたくしに罰を!」

真面目な顔で、すごいこと言うね……。

「その、ちょっと破廉恥な罰でも、いいですよ?」

 顔を赤らめながらも、どこか期待のこもった眼差しで僕を見る桜子。

 洗脳にハマる人は、真面目で自罰的な人が多いとは聞くけど。

 この子はきっと、幼いころからそうやって育てられてきたんだろう。罰を与えられた方が安心するような、そんな育てられかたを。

 気づけば僕は、桜子の顔に自分の手を添えていた。

「あっ」

 桜子が色っぽい息を漏らす。

 罰ね。いいだろう、欲しければあげるよ。僕だって四年に一度くらい、性欲が高まる日がある。

 僕は桜子の顔に自分の顔を近づける。桜子はゆっくりと目を閉じた。

 そのとき、

「あ~~~~立ち上がるピュア~~!」

 甲高い声が教室に響く。  

 声を出したのは、見たことのない生物だった。

「ラブリ、マリン、早く立ち上がるピュア~!」

 その生物は犬と猫と兎を足して、三で割ったような姿の小動物だった。どこかヌイグルミのようにも見える。

 どうやら小動物は、倒れた双子ちゃんを起こそうとしているようだ。

「喋る小動物。……なるほど、魔法少女にはマスコットが付き物か」

「え? 小鳥くん、知ってるんですか?」

「たぶん、魔法少女を導く、使い魔的なキャラでしょ」

「使い魔?」 

 桜子はポカンとしている。アニメとか視ないんだな。       

「アニメとかマンガによくいるんだ、ああいうマスコットの妖精が。魔法少女とセットになってる。あるあるネタだね」

「セットですか。VISAカードのCMで中井貴一と一緒にいた、カッパとタヌキみたいなものです?」  

 好きだな貴一!

「立つピュア! 目を覚ますピュア! 君たちがやらなきゃ、誰が悪を滅ぼすピュア!」

 妖精(たぶん)は、必死に双子ちゃんに呼びかけている。

「あの、無駄ですよ妖精さん」

 と、桜子も妖精に呼びかける。

「わたくしの花喰は生命力を吸いますから、しばらくはまともに動け……え?」

 桜子が目を丸くした。

 動けないはずの双子ちゃんが、ゆっくりと立ち上がったからだ。  

「衣装が汚れちゃったにゃあ」

「風紀委員長は容赦ないもん」

 双子ちゃんはピンピンしていた。よく見れば、服には斬られた痕も血痕もない。

 攻撃を食らったフリをした? いや、斬られた瞬間を確かに見た。僕はともかく、剣の達人である桜子が、そこを見誤るとは思えない。   

 そうだ、彼女たちには、僕の能力が発動しなかった。

何か、秘密があるのか?

「さすが選ばれし魔法少女ピュア! ぼくは信じてたピュア!」 

 と妖精がピョンピョン跳ね回っている。

「こ、小鳥くん、妖精には回復能力があるのですか?」 

「いや、そういうタイプもいるんだろうけど……」

 でも双子ちゃんがインスパイアを受けている魔法少女では、あくまでも妖精はマスコットであることが多かったはず。

「にゃにゃ。ピュアルンは私たちの大事なお友達だにゃ」

「ただ、お友達ではあるけど、回復能力なんてないもん」 

 じゃあ、なんで。

 僕の疑問を察したのか、双子ちゃんは当然のようにこう言った。

「大事なお友達が応援してくれたなら、魔法少女がそれに応えないわけないにゃん」

「魔法少女は応援してくれるお友達のパワーがあれば、なんだってできるんだもん」

 そんな、子ども向けのアニメじゃないんだから。

うん? …………いや、違う。

そうか、子ども向けのアニメなのか! 

「姉妹の能力魔法少女は、姉妹が憧れる魔法少女観を、そのまま反映しておる」

と伊吹ちゃんが突然語りだした。

 双子ちゃんが憧れる魔法少女観、それはテレビで放送されている人気アニメのもの。

「だから姉妹は、応援されれば必ず立ち上がるのじゃ。だってテレビの中の魔法少女たちが、そうじゃから」 

 これが双子ちゃんの強さの秘密。

 そういう設定だから、そうなる。

 双子ちゃんの服が無傷で、血痕がないのも納得だ。子ども向け番組で、魔法少女の服が破れ、出血するなるんてあり得ない。

だって、そういう世界観だから。 

「ちょっと学園長、バラしすぎにゃ。魔法少女はミステリアスな存在にゃのに!」

「まあわたしたちも、風紀委員長の能力を知っちゃってるから、トントンだもん」 

 トントンかな? 四人の中で、能力が割れてないのは僕だけだ。

 ……あれ?

「じゃあ、なんで僕の能力は使えないんだろう? 魔法少女だって、操られることくらいあるだろうに」

「にゃるほど、小鳥先輩は精神操作系の能力者なのかにゃ」

「その能力で、風紀委員長をたぶらかしたに違いないもん」

 勢いで能力をバラしてしまったがどうでもいい。僕は能力を使いたい。双子ちゃんが本物かどうか試したい。

「あの」

と桜子が手を上げる。

「もしかして小鳥くんの能力は、人間以外には使えないのでは?」    

「え? そうだよ。でも双子ちゃんは人間じゃないか」 

「わたくし魔法少女には詳しくないのですが、それって要するに、彼女たちは魔女ってことになるのでは?」

「っ!」

 そういうことか!

「そうピュア、今の彼女たちは人間じゃないピュア。光の魔法少女マジピュアは、もともと別の惑星から来た魔女なんだピュア」

 と妖精が語り始めた。

 別の惑星? 宇宙人? そういう設定なのか……。

「よしっ、今度はこちらからいくにゃ!」

「つまり、そっちがやられる番だもん!」

 双子ちゃんは胸元の宝石に手を添える。すると宝石から、ステッキが放出された。先端に星形の宝石がついた、いかにもなステッキだ。

 双子ちゃんはそのステッキを、僕と桜子に向ける。     

「「くらえ、マジピュアビーム!」」

 星形の宝石から、七色の光線が放たれた。

 僕と桜子は光線を避ける。光線は教室の壁に直撃し、すさまじい爆発音が響いた。

「教室はいくらでも修正するからの、存分に暴れるといいぞい」

 伊吹ちゃんの声が、背後から聞こえた。

「ガンガンいくにゃ!」

「ガンガンいくもん!」

 双子ちゃんは次々にビームを放った。

 身体能力を強化した僕と桜子は、容易にそれをかわせる。しかし反撃の糸口をつかめない。

 桜子がどんなに斬っても、双子ちゃんは復活してしまうし、妖精にいたっては斬ることすらできなかった。

 そして相変わらず、僕の能力は使えない。

 双子ちゃんはビームをあきらめると、接近戦へとシフトした。

「マジカルパンチ!」

「マジカルキック!」

 マジカルとは名ばかりの、普通のパンチやキックが僕らを襲う。 

 しかし一つ一つの攻撃が重い。

彼女たちもまた、変身することで身体能力が強化されていた。         

 しばらくの間、膠着状態が続く。視界の端で伊吹ちゃんがあくびしているのが見えた。

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