第10話 魔法少女③


気をとり直して、僕らは再び歩き出す。  

「それにしても僕らの対戦相手、傘原姉妹は興味深いね」

「興味深い、ですか」

「うん。まさかこんなに面白そうな子たちだとは」

 傘原朱音、傘原蒼衣。彼女たちはなんと、魔法少女だというのだ。

「……確かに、個性的な能力と言えるでしょうね。見た目も派手ですし」

「フリフリ衣装だっけ? 素晴らしいな」

しかも彼女たちは、正義の魔法少女を名乗っているのだという。 

 正義。魔法少女。双子。エビフライ唐揚げハンバーグ定食みたいな。       

「傘原姉妹の能力は謎が多いですね。学園に来てから日が浅く、模擬戦の数もそこまで多くありません。ただ、その模擬戦すべてで完勝し、急激に存在感を増しているペアです」

「うんうん、素晴らしいね。やっぱり魔法少女には謎がなきゃ。さすが、わかってるよなぁ。次の元号は『魔法少女』で決まりかな」

「姉妹は街に繰り出し、能力を活かして、自警団のような活動もしているようです」 

「最高だ。最高すぎる! 『魔法少女の自警団』って、背中に彫ろうかな!」 

「……小鳥くん、ずいぶんご機嫌ですね」 

「そういう姫路澤さんは、元気がないね」

 何か怒らせるようなことをしたかな。

 ……怒らせるようなことしかしてないな。

「別に。イライラなんかしてません」

 姫路澤さんは、ぷいっと顔を背けてしまう。

 イライラしてるとは言ってないんだけどね。

 やれやれ面倒だ。言いたいことがあるんなら、さっさと言えばいい。

 僕はスマホを取りだす。それを見た姫路澤さんは、眉を情けない八の字に曲げ、恍惚とした表情を浮かべた。そして僕は、ステータスを弄る。

「うおっ♡ 急にヤベエの来たああああっ♡」

 姫路澤さんの見た目が、一瞬で黒ギャル姿になった。

 金髪に日焼け、露出の高い服装に、バカな言葉づかい。羞恥心も知能も低下している。

 先日の姫路澤さんとのバトルで、僕はレベルが一気に7まで上がった。

 これにより、一度に複数のステータスを弄れるようになったのだ。 

「ほら、姫路澤さん。何が不満なのか話してごらん」   

「だってぇ、小鳥っちさっきから、傘原姉妹のことばっかなんだも~ん」

 そう言って、姫路澤さんは僕の腕に抱きついた。柔らかい胸の感触が伝わる。

「桜子のこともっとかまえ~。かまってかまってかまって~♡ もっとイチャイチャしようぜ~~♡」  

 姫路澤さんの胸が僕の腕で押し潰され、卑猥な形に歪んだ。 

 確か姫路澤さんは、もともと性欲のステータスが高かったんだよな。 

「模擬戦とかチョーどうでもいいし~! ウチは小鳥っちとベタベタイチャイチャにゃんにゃんしたい~♡」

「にゃんにゃんねぇ」

「小鳥っちがかまってくんないと、ウチはショックでPPAPになっちゃうぞお?」 

「PTSDね」 

 僕のせいで、ペンパイナッポーアッポーペンになったら面白すぎるだろ。

「PPAPでもPTSDでもなんでもいいっつーの。ウチのOPPAI(おっぱい)を見やがれよ~♡」

「見てるよ、見てる見てる」 

 僕は思うんだけれど、企業は女性の胸の谷間に広告を出すべきじゃないだろうか。男はどうしても見てしまうわけだし、谷間を見せる女性が増えれば嬉しいので、出資者はすぐに見つかりそう。    

「ちゅーしよ、ねえ小鳥っち、せめてちゅーしよ~♡」 

 ギャルメイクによって、プリプリに膨らんだ唇が迫ってくる。

「ちゅーはしない」

「は~? なんでだし! ウチら前世じゃ恋人同士だって前言ってたじゃん!」

「いーや、言ってないね」

「言ったし~!」

「いつ言ったの? 何時何分何秒? 地球が何回まわったとき?」

「はあ? 地球がまわるわけないじゃん!」

 まさかの天動説支持者⁉

 ちょっと、知能を下げすぎちゃったかな? 

「……やれやれ。わかったよ、後でかまってあげるよ。だから今はちゅーしない」      

「マジで~⁉ よっしゃ~テンアゲ~!」

 無邪気にガッツポーズする姫路澤さん。 

「だから姫路澤さん、そろそろ腕を離してよ」 

「桜子って呼んで♡」

「……桜子、離してくれ」

「ニシシっ♡」

 これまた無邪気に笑う姫路澤さん。可愛いね。だけど腕離して?

「模擬戦が終わったら、コンビ結成パーティーしようぜ小鳥っち。リッツパーティー!」

「レッツパーティーじゃなくて? リッツパーティーって、沢口靖子しかやってる人いなくない? あと、手を離して?」

「やだ♡」 

 結局、僕らは腕を組んだまま移動する。

 弄ったステータスを元に戻せばいいと気づいたのは、模擬戦の会場となる空き教室に着いてからだった。   

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