3年目・春!目指すは?
第207話
暮れのGⅠ戦線は続く。阪神ジュベナイルフィリーズの翌週は朝日杯フューチュリティステークスが行われ、その翌週はホープフルステークスと2歳GⅠが続く。評判になったのは朝日杯の覇者フルムーンだ。名門・紗来産のこの2歳牡馬はディープインパクト死後に生まれた産駒の最終世代でもある。
「わっはっはっは!紗来からクラシック2冠を取って凱旋門賞を制する大器が出たぞ!」
紗来代表の池田源治が吹いている。距離の壁など問題はあるが、阪神1600mを2歳馬の身でコースレコード、しかもさらに400m余計に走り続け、そのタイムは今年の皐月賞・ダービー2冠馬スーパーファントムの皐月賞走破タイムに迫るものだったともされる。
「えらいのが出たなあ・・・」
「ね。これだとフィエルテが埋もれちゃうなあ」
「なんで活躍する前提なのよ?」
栗東組の同期3人、素直に感嘆の声を上げる服部隼人をよそに、御蔵まきなは服部に任せた愛馬に、活躍の余地が残るのかを心配する。その気の早さに呆れる霧生かなめはまだGⅠ制覇の余韻が冷めやらぬようで、頬が緩んでいた。
「活躍するの!服部君がばっちりエスコートするんだから!」
「いや、御蔵・・・それはプレッシャー」
「するの!」
かわいい同期にそこまで言い切られては奮起するより他ないが、いかんせん、自分は1年以上、実戦で手綱を握っていないのだ。今週から騎乗を開始し、意外と乗れるものだと思いながらも。しばらく眠れぬ夜を過ごす羽目になった服部隼人であった。
「ハックション!」
「あ、莉里子さん」
「何よ、あなたたちも私の噂してたわけ?」
「いえ、フルムーンの」
「私の彼ピでしょ!?」
「彼ピって・・・」
何かツボに入ったらしいかなめが腹筋に力を込めている。何せ相手は栗東若手騎手どころか若年関係者一同の女王、武豊莉里子。下手な態度は取れない。
「で、キミがマキマキの同期クン?」
「は、ハイ!44期、三枝厩舎!服部隼人です!」
「元気があってよろしい。マキマキもねえ、これぐらい可愛げがあるとねぇ~?」
「はあ・・・?」
真面目な服部。既にGⅠを配るほど勝っている大騎手を相手にしてしまっては背筋も伸びる。まきなは莉里子がデビューした頃、本人は中学生からの付き合いのため、遠慮がない。
「はあ、ってねえ!来年のクラシック2冠及び凱旋門賞騎手様に向かってその態度!」
「凱旋門?」
まきながポカンとした顔で聞き返す。両サイドの2人も開いた口が塞がらないといった風だ。
「そうよ、ここだけの話。予備登録しちゃったって、代表がね」
「へえぇ・・・」
ひどく感心したようにまきなが返す。凱旋門賞の予備登録だってタダじゃない。しないと出られないが、日本馬が今からは気が早い部類だ。
「2冠取って凱旋門賞。夢が大きいなあ」
大きいのは声の大きさだけじゃなかったか、と池田を見直したまきなであった。
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