第201話
阪神競馬場のGⅠ、阪神ジュベナイルフィリーズが発走した。18頭のまだまだ幼さの残る乙女たちが鞍上と共に駆け出してゆく。
「よし!」
御蔵まきなが声を上げたのは、クラハドールがテンの速さをもって先頭争いに加わって行ったのを確認したからだ。緊張しっぱなしだった鞍上の祖父、霧生勝彦はその様子に安堵の表情を浮かべた。GⅠ初参戦の霧生かなめは後のことを恐れず、強気に先頭を主張している。しかし、1頭どうしても譲らないのが1枠1番、白い帽子。
「譲らんかい!」
武豊尊が馬上からかなめを恫喝していた。かなめも負けずに言い返している。
「知らないわよ!あたしは今日で騎手辞めても良いの!この先10年でもしがみついてるじーさんにやられてたまるか!」
今日、このレースでGⅠさえ取れれば今日が最後になっても構わない、と決心して臨んだ霧生かなめである。相手が如何に自分の将来における騎手人生を左右できる存在であろうが、関係なかった。
「な、な・・・!」
先団は2頭に絞られた。その彼らがレースを引っ張る形になり、ペースは否応も無く上がっている。
『これはもしかして、あなたへのアシストなのかしら?』
『そんなはずないわ』
最後方に陣取ったコンカッセ、鞍上ユングフラウ・ドーベンは隣にいたクラハドールとは同厩舎のトルバドール鞍上シヴァンシカ・セスに尋ねる。かなり意外というのが感想だった。トルバドールの前3走はいずれも好位差しだったが、シヴァンシカは何の不利も無くゲートを出たのに後方待機を選んだのだから。
『2人して何を企んでいるのかしら?』
『何も。何も相談していないわ』
そう、シヴァンシカはかなめと日常のコミュニケーションをとることはあっても、このGⅠのことに関しては何も話さなかった。馬の調子がどうとかすらも。
『かなめがここに懸けてることは知ってた。邪魔はできないと思ったから、私はここにいる』
『それで負けてちゃ世話ないわね?』
『負けてあげると思ってる?』
そうして海外勢2人が妙な火花を散らしているちょっと前に、武豊莉里子はファンクションで追走していた。トルバドールとは2頭でコンカッセの進路をカットしている状態だ。
「上手くユングフラウの邪魔できたけど・・・なんであの子が?」
不可解にも程がある。しかし、好機は好機なので、精々、動けないようにしっかりと包囲しておくことにした。
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