第196話
今年の全日本2歳優駿は地方馬が2頭で絡んで決着した。1着はクビ差残したグリンディーゼル。
「おっしゃああああ!」
鞍上・卯野冬夜はGⅠ級競走初制覇となる。来年への飛躍が期待される勝利だ。地方馬及び地方所属騎手による全日本2歳優駿勝利は、実は直近2年続いており、3年連続で地方所属馬・騎手の勝利となる。一流どころなら地方馬が中央馬に互して戦える時代になってきた。
「負けたぁ・・・」
霧生かなめは項垂れていた。勝てる脚色だったし、事実、ラスト100m付近では一瞬前に出ていたのだ。そこから僅かに差し返された。
「アンタ、すげえべっちゃなあ!」
「は?」
顔を上げたかなめの前に卯野がいた。尊敬のまなざしでかなめを見ている。
「さっきの、どっから来たの!園田の馬なのに、負けるとこだったべ!」
「何よ、園田が弱いっての!?」
かなめは卯野に抗議する。幼い日に憧れた馬たちを馬鹿にされた気になっている。慌てて卯野が訂正する。
「ああっ!いや違うんだよ、違う!やっぱり俺ら地方勢は逃げてナンボだろ!?」
「ああ、まあ、そうね?」
怒りのボルテージを下げたかなめに安心した卯野。降りて来た生産者の御蔵まきなを交えて盛り上がる。
「ああ、お嬢さん!この子どっから来たの!?」
「ホントすごかったよ、かなちゃん!残り300mで全部差し切るつもりだったの!?」
「まあね?」
バレンシアにはできたはずだし、とつぶやくかなめに、卯野は感嘆の眼差しを向ける。実際、あと50mもあれば2馬身以上突き抜けていたのはビビッドバレンシアだったかも知れない。それを身に染みて感じているからこそ、卯野は殊更に敗者を称えている。
「でも、負けたわ。門別で一番馬とか言うだけあるじゃん」
「へへっ・・・」
卯野は持っていたムチで壁を叩いた。照れ隠しのつもりだった。
「で、アンタのとこの馬だって?」
「いや、持ってるのは中田のおじ様で」
「生産したのはあんたでしょ!」
かなめはもうちょっとだったのに!とまきなの頭をヘッドロック。ちゃんとした格好をするために時間をかけてセットした髪をぐっしゃぐしゃにした。哀れにも御蔵まきなは乱れた頭のまま、口取り式や表彰台の写真に収まることになってしまった。
「元気があってよろしい!」
その姿を一目見た馬主の中田統。基本的に、御蔵まきなの行いにノーを言うことは無いのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます