阪神JF~ユングフラウを迎え撃て!~
第188話
新旧の騎手で中田統を囲んで2日後、栗東トレーニングセンターにはシヴァンシカ・セスの姿があった。
「オハヨーゴザイマス!」
「お、おう」
唐橋師が呆気にとられながら応じる。彼の厩舎からは2頭、来週末のGⅠ、阪神ジュベナイルフィリーズに向けて登録がある。有力馬のクラハドールは霧生かなめが健在だが、最近、1勝クラスを勝ち上がったトルバドール主戦の御蔵まきなの負傷が癒え切らない。御蔵家で急遽、見つけてきたのがこのインド人騎手らしい。
「おう、来たなインド人!この私がバシバシ扱いたる!」
「オネガイシマス!」
師の娘、調教助手の弥刀が発する関西弁にもひるまない。日本生活も2か月を迎え、リスニングならほとんどの日本語がわかるようになったシヴァンシカ。早速、栗東トレセンの独身寮に飛び込んできた。今日は唐橋厩舎初日として、元気に
「聞きしに勝る騒がしい奴や・・・」
「ええやん。陰気にされるより、やることやって明るい子は歓迎や」
「まきなが御蔵夫人に頼んで連れて来たってなあ・・・」
そのまきなは、
「寝藁替えの勝負ですよ!」
「マケナイ!」
こちらも負けじと元気にシヴァンシカに張り合っていた。今日はトルバドールの調教は遅い時間にしたので、まずは厩舎の仕事を覚えてもらおうと言うわけだ。
「クラの調教、終わりましたー」
「おかえり、かなちゃん!」
クラハドールが調教を終えてやって来た。今日は軽い運動だけだったので、唐橋師もシヴァンシカの見守りに徹していた。
「本当にインド人いるじゃない」
「アイムシヴァンシカ!」
「あー、はいはい。シヴァンシカね。知ってるわよ。まあ、いきなりインド人呼ばわりは失礼だったわね」
「ワカレバヨロシイ」
「なんか上から目線ね?」
本人にやる気があり、日本のことを理解しようと頑張っている。唐橋師としては試してみたい騎手も数人いたが、仕方ないと思うことにした。
『へえ、あの子も残ったの』
ユングフラウ・ドーベンは日本競馬独特の文化?のスポーツ紙や競馬新聞を読み漁っていた。日本語は読むだけならなんとかできるレベルになっている。情報は全てを制するのである。今回も、初の国際舞台で大胆な逃げを打ったあの騎手を見つけたのだから。
『あの、シュワルツの生産者の子が依頼したと』
この夏の終わり、3億円で購買したクロカゼはドイツに移され、シュワルツの名で呼ばれていた。ユングフラウは1人、燃える。
『面白いわ。あの子が選んだなら、期待外れには終わらないはず』
ユングフラウは関東馬に乗って、11月に京都でデイリー杯2歳ステークスを優勝していた。かなめに挑戦状を叩きつけ、約束通り見つけて来た大器の牝馬。
『コンカッセで勝負よ』
関東の2歳牝馬コンカッセ。ユングフラウが新馬から見出した、GⅠ制覇のための最後のピースであった。
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