第178話

 極東でNo.1決定戦と言えば12月の香港國際賽事だ。1200mから2400mまで4カテゴリーのGⅠが1日の内に行われ、そこに懸ける陣営は多い。

 だが、去年のジャミトンから流れが変わっている。今年ばかりは合計7か国からGⅠ馬など15頭が集結し、凱旋門賞を制した史上初の女性騎手を始め、世界5か国からの女性騎手が集まった。今年、行われるジャパンカップの華やかさは世界に冠たるきらめきだ。

「ワッハッハ!紗来!世界の紗来がこの舞台を制圧するのだ!」

 紗来グループの代表、池田源治。今年、春古馬路線のGⅠ2冠を果たした上、天皇賞秋も勝って秋古馬3冠の戴冠に挑戦する4歳馬、ヤマトメモリアルがスタンバイしている。鞍上は大和進だ。

「今年は出来過ぎました。でも、ここまで来たら有馬まで勝ち切らないといけませんよね」

 今年のGⅠは3勝と勝ちまくったが4番人気だ。国内外で活躍する3番手までがきらびやか過ぎて、国内だけの戦績しか持たないヤマトメモリアルは人気が出ない。

 かつてのジャパンカップにおける、外国馬優位の状況が現出していた。大和は憤慨する。

「ここは日本だろ・・・?なんで海外の成績でやってんだ!」

「これが、これこそが本来のジャパンカップだよ、大和君!」

 理不尽さに困惑している大和に比べて池田はむしろ、興奮を隠せない。何としてでも倒すべき、強い海外馬が戻ってきたのだ。30年前のあの日、どうしても届かなかった、世界の頂。それが、府中に戻ってきたのだ。

「勝つのだ!勝利こそが一番の証明なのだから!」


 天皇賞を春秋春、と連覇したエンペラーズカップ。今年の天皇賞(秋)はヤマトメモリアルに譲ったが、まだ衰える気はない。

「場違いなところに来ちまったなあ」

 鞍上はジョン・スイスに代わり、福留雄二。今や押しも押されぬ菊花賞ジョッキーだが、まだGⅠはその1勝のみ。GⅠは緊張する。

「頼むよぉ?福留君!」

 そう言って冠山オーナーは福留の背中をバンバン叩くし、

「スイスの奴に吠え面かかせないとイカンですからな!」

あの飄々とした人にどうやって?と言いたくなることを言う東郷調教師。気が滅入る福留だが、一服の清涼剤もいる。

「もう、父さん!福留さんが困ってるわよ!こういうの、パワハラじゃないの!?」

 冠山オーナーの娘、雲母きらら。曲がったことは大嫌い、いつでも正しく。競馬場では不公平に思われた裁決委員の騎手への裁定にすら食いかかった。

「雲母さん、お二人ともそんなつもりじゃ」

「ダメよ、おじさんはね、なあなあにしたら付け上がるの!」

 守ってくれるのは嬉しいが過剰な気もある。複雑な福留だった。

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