第155話

「そういやさ、特別ゲストって誰だよ?まだ来ないのか?」

 料理もメインが終わった頃、福留雄二が思い出したかのように言い出した。

「っていうか、同期会にゲスト呼ぶのか?部外者過ぎるだろう」

 服部隼人は当然の指摘を入れる。

「弥刀さんでも来るの?」

 霧生かなめは主役にされた自分に所縁のある人物なら彼女だろうと名前を挙げる。

「うーん、なんたってかなちゃんの初重賞記念で『特別』だからね!」

 御蔵まきなは首を振る。そして、頑なに機種変更を拒む携帯電話を取り出した。

「あ、先輩?そろそろ近くですか?はい、あっ、わかりました」

 パタン、と二つ折の電話をしまい、中座する。

「迎えに行ってくるね!」


 困惑しながら待たされた3人の目の前に、思いもよらぬ2人組が現れた。

「あ、あの、本日はお日柄も、良く・・・」

『ジャンヌ、それは違うのではなくて?』

 ジャパンカップのために来日したジャンヌ・ルシェリットとユングフラウ・ドーベン。仏独の代表だ。

「あのさ、俺もいるんだけど」

 仲介役兼案内役として佐藤慶太郎が付いてくる。

「は、えぇ!?」

 福留は明らかに動揺し、

「あ、先輩」

 服部は目敏く、馴染みの先輩を見つけ、

「・・・・・・」

 かなめは完全に思考を止めている。次に会う時はGⅠだと思っていた女性。それに、

「かなちゃん、おーい?」

 固まったかなめを突っつくまきなに、かなめが脳天にチョップを入れる。

「あ、あああああんたね!?」

「痛いよかなちゃん!」

「あなたが、かなめサン、ですか」

 ジャンヌが目をギラギラと光らせている。

「じゃっ、ジャンヌちゃん・・・!?」

 かなめはこの1年ほどの間に、騎手として独り立ちしたジャンヌの快進撃に喝采を送るファンの1人だった。自分より小さくとも世界の一流処を相手に回し、臆せず勝っていく。憧れの存在だ。

 そんなすごい人に、見つめられていた。というより、なんだか睨み付けられている。

「え、え?」

「あの、あの、先輩?」

「ああ、ごめん。ジャンヌな。最近、霧生の動向ばっか気にしてるユングフラウに構われてないんだ」

 他人から見ればそれでも溺愛されているように見えるが、あくまでそれは他人の目線。ジャンヌ本人はユングフラウからの視線に飢えていた。

「がるるー」

「(かっ、かわいい・・・なのに、めっちゃ敵視されてるの!?)」

『あなたが、ジャパニーズセントレジャーきっかしょうの覇者ね?ジャパンカップに向けて、あのスイスの馬を委ねられた・・・』

「はっ、はいぃ!」

 福留は福留でユングフラウのプレッシャーをもろに浴びる。とんだ特別ゲストだと、服部は呆れて、佐藤と視線が合い、同時にため息を吐いた。

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