第142話
十六夜頼三が第3コーナーを前に勢い良く脚を伸ばしてきた。彼の馬は3番人気。中央所属の2頭に続く、門別所属の大将格として出走している4歳馬モンドセクション。3歳時にはダートグレード重賞にも出た実力馬だ。
「ワシだけじゃあないべ?」
そう言われて振り返ると、中央馬の2騎も1、2馬身差まで詰め寄ってきた。
「くっ!」
大急ぎで追い出す準備をするが、コーナーに入ったからには無理はできない。勢いがついているまくりの3頭は霧生かなめと福留雄二を置き去り、先行勢に競りかけていく。
「高野のオッサン!まだ引退せんのか!?」
「中央の人にさせんでも、ワシが引導を渡したるべぇの!」
「なにおぅ!?」
第4コーナーを迎えて5頭に膨らみ、俄に騒がしくなる先行勢。まず最初に脱落したのは加賀登だった。
「高野さん、これで負けたら飯おごってくださいよ!?」
無理に突っついて行ったのは自分だが、最終的に控えて譲ったのでそれを返して欲しいと訴えていた。
「ぐぬぬ!」
高野の馬も、だいぶ脚が上がっており、勝負根性だけで前に残っている。かなめや福留が上がってきたタイミングで、お役御免だ。
「福留!菊花賞ジョッキー様がえらい重役出勤だねえ!?」
中央の大西騎手。関東所属で福留とは面識がある。
「霧生ちゃん、2勝は偉いけど3勝目はあげないよ?」
同じく奈良原騎手。かなめがたまに手伝いに行く厩舎に良く出入りする一流半で、ダートグレード重賞を中心に活躍している。
「中央モンばかり…ここは札幌か?」
独り先頭に躍り出た十六夜は同僚たちの不甲斐なさに苛立っていた。風車ムチを打ち、相棒を駆り立てる。直線は後、300mなのだ。
各自、懸命に追う中でゴール板を先頭で駆け抜けたのはモンドセクションだった。
門別ファンは沸いた。基本、JRA交流戦と言えば中央勢の草刈り場で、門別でなら重賞級に近い馬たちが、1勝2勝クラスの中央馬に蹴散らされるのを指を咥えて見ているしかない場だ。そこで当地のトップ騎手が勝つのは実に溜飲が下がる。今日はいきなり押しかけた若い女、霧生かなめに2勝を許していたので、尚更だった。JBC2歳優駿を前に最高の前哨戦だった。
「2歳優駿も勝つべ!」
力強く宣言する十六夜に声援を送らない者はいなかった。加賀登はまだ成長途上、やっぱりこういう時に頼れるのは十六夜頼三だと、門別ファンたちは喝采を送る。
かくして、舞台はメインレースのJBC2歳優駿へと向かって行くが―――
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