第141話
ナイター開催のために第8レースの発走時刻には既に日が暮れている。ここで5勝というノルマを達成したい霧生かなめだったが、強敵が多い。まず、各馬とも馬質がいい。中央の1勝クラスに相当するクラスの馬が遠征して地元馬と対戦する中央と地方との交流戦、重賞の2つ下のクラス、A2級の格を持つ『ベガ特別』というレースだ。騎手もJBC2歳優駿に合わせて中央から来た騎手が3人騎乗する。
「隣のゲートかよ」
「何よ?なんか文句あるっての?」
黒の帽子、福留雄二は桜牧場の6歳、門別所属の芦毛牝馬サンカチンに騎乗。その左隣には赤の帽子、霧生かなめが中央の5歳牡馬タイノマクラーレンに騎乗していた。
「いや、今日のダートの状態を教えてもらえるなって」
「はあ?そうね、しばらく雨が降ってなかったそうでパサパサだったわ」
「ああ、やっぱりか。冬場だし、時計がかかるだろうな」
「今日は全体的にタイムが遅いんだって」
芝コースは土壌も芝も乾燥していた方が速いタイムが出るが、ダートコースは逆。ぬかるんで滑るところまで行くならともかく、雨が降って水分を含むと踏み込んで走りやすくなる。雨が降り、湿り気を帯びた馬場を芝ダート問わず重馬場とは言うが、ダートにおいて雨は走破タイムが早くなる。
「俺の馬にはあまり良くないな」
「大体の馬がそうでしょ」
やり取りの内にゲート入りも完了し、出走となる。このレースでまず先頭に躍り出たのは・・・
「やっと俺の出番べや!」
大外から積極的に前を窺ったベテラン、高野耕造。好スタートから流れるような手綱捌きで前を取る。それに続き、タダで良いペースで逃げさせてなるものかと加賀登が続く。
「地方はすげえよな」
「そうね」
勢い良く先頭を争う2頭の少し後ろ、4番手5番手に控えるのがかなめと福留。1800mと少し長丁場なので無理はしないがあまり後ろにい過ぎても取り返しがつかないことが多い。しかし、福留の他に参戦した中央の騎手2人は門別にも慣れた騎手だ。彼らと十六夜頼三も後方勢に控えるので、あまりペースを上げると最後が怖い。
門別A2級というと、当地の重賞にも出走を狙うような馬がひしめき合う上位クラスなので、馬もわかってるようなのが多い。下級クラスとはまた違った意味で、騎手の力がモノを言う。つまり、
「ワシの力を見とけってことだべ!」
「ええ!?」
残り900m、折り返し地点で既に十六夜頼三が4番手グループのかなめに並びかけていた。
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