第140話

 ところで、この日の門別メインレースはダートグレードの重賞、JpnⅢ『JBC2歳優駿』というレースだ。元は『北海道2歳優駿』を名乗っていたが、近日開催となる地方競馬・ダートの祭典『JBC(ジャパンブリーディングファームズカップ)』諸競走の一部として設定され、去年度からJBCの名を冠している。例年、中央の2歳ダート有力馬も多数参戦しており、今年も中央から人馬が遠征している。なお、他のJBC諸競走は各競馬場の持ち回り制で今年は金沢競馬場での開催だが、2歳優駿は当面、門別開催だ。

「よお、霧生。頑張ってるな」

「あ、雄二」

 昨晩はさっさと寝ていて午前も特に顔を合せなかった同期の福留雄二が同期の活躍を聞きつけやって来た。菊花賞を制したご祝儀で、この日はメイン第10レースの2歳優駿とその直前、第8レースのみに騎乗があった。

「御蔵から聞いた。今週で5つ勝てって?」

「うん、『ファントム』の風間社長にね。それが勝てないから困ってたってのにね・・・」

「でも、今日で地方4勝したんだろ?すげえな」

「そうね、今週、もう4勝してるのか」

 あと1勝でもすれば、少なくとも『5勝』の約束は果たしたことになる。

「地方だけで認めてもらえると思う?」

「うん、まあな・・・仕方ねえだろう」

 この週末、かなめが中央で騎乗予定の馬たち、質はお世辞にも良いものと言えない。たったの1勝すら危うかったために、苦肉の策で地方遠征をしているのだ。

「中央より地方の方がいい馬乗ってるって、嘘みたいでしょ?」

「だな。さっきのジャスタウェイの子はすごかったよな」

「うん、本当に良い馬だよ。中央デビューしてないのがおかしいぐらいね。ま、それだとあたしと縁がなかったけどね」

「次、御蔵のとこの馬なんだぜ、良いだろ?」

「へえ、あの子のね。なんだ、あたしにだけ回してたんじゃないのね」

「おお、俺も門別になんて縁が無かったからな。JBCだけ回ってきて、他に乗鞍がないかって御蔵に泣きついた」

「それができるのがあんたの強みだよ」

「それほどでもねえな」

「褒めて・・・るわね」

 かなめは久々に肩の力を抜いていた。この数日、激しく緊張する場面が多すぎた。話し相手が温和な方の福留というのも良い。ここに出てきたのが口下手の火浦光成だったらここまでリラックスできなかった。

「・・・まさかね」

 これも御蔵まきなの差し金か?と思う心を抑え、もう少しだけ同期との会話を楽しむかなめだった。

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