第92話
『残り250m!ブーケトスガール!コーラルリーフに並んだ!ファントムレディも切れ味鋭く追い込んでくる!コーラルリーフは脚色劣勢!』
ハイペースの中でも中団からしっかりと脚を溜められていたブーケトスガールに比べ、延々と先頭で争っていたコーラルリーフはその勢いに負け気味だ。
「火浦!お前にクラシックはやらん!今日は銀メダルで満足しとれ!」
「いやですよ!」
「私を忘れるなあ!」
残り150mで、先頭2頭にファントムレディも並んでくる。大和に比べて仕掛けを遅らせた分、かなり脚色がいい。むしろ、
『ファントムレディ、脚色優勢!一気に差し切るか!?』
コーラルリーフが熾烈な追い比べに堪えかね、退がっていく。火浦も今まで無理をさせすぎた自覚があるため、無理に追おうとはしていない。
『武豊に大和、騎手学校同期対決!この接戦を制するのはどちらか!』
両馬は、ハナ先を並べてゴール板の前を通過した。
ずぅーん、と恨みがましく莉里子がウィナーズサークルの方を見つめている。優勝馬を称える特別な空間に、大和とブーケトスガールが、馬主他関係者と収まっていた。
「ううう、桜花賞…!」
「莉里子さん、いくつもGⅠ勝ってるのに…」
「同期の大和に負けるのは別なの!」
莉里子たち同期は、莉里子と大和の他は全員、騎手を引退している。それゆえに、
「ま、やっと復活したことだし?オークスや馬は違えどダービーでまとめて片付けてあげるわよ!」
同期の復活はうれしいのであった。
「桜花賞…俺のGⅠ…」
火浦はぶつぶつと、これまた恨めしそうにウィナーズサークルを見つめている。残り200mまでは確かに先頭でレースを進めていたのだ、その悔しさたるや…
「いいじゃん、火浦君!次だよ、次!」
「もうGⅠ取っとるお前は気楽でええのお!?」
ちなみに、まきなのミラクルフォースは13着敗退であった。大レースでは常に掲示板くらいは確保してきたまきなにとって、初めての完敗と言える。とはいえ、馬自身へのダメージはそれほどなく、1か月後への優駿牝馬、通称オークスへ向けて気持ちも切り換えられていた。
「いつまでもうじうじ悩まないだけですー!」
「何をー!?」
そんな同期二人の諍いを、にこやかに見つめるのは莉里子である。
「そんな時期もあったよねえ…」
莉里子は、過ぎ去った日々を…同期7人と駆け抜けたあの日を思い出し、久々に飲み会でも開きたいと思っていた。名目は、「大和復活記念」とでもしておこうと。
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