第70話

『キャー!カワイー!』

『!?!?!?』

 ユングフラウが抱きついてきた。そのまま、なすがままにぐしゃぐしゃにされる。事情が分からない困惑と興奮で一言も発せないジャンヌを、ユングフラウが抱きしめて離さない。

『あの、レディ?そろそろ・・・』

 と、佐藤が言わなければ、ジャンヌは人前に出られない格好にされていたかもしれない。それくらい、バス停のベンチに佇んでいたジャンヌは魅力的だったが、今やその片鱗もなくなっている。

『あ、あなたは何なんですか!?』

『ユングフラウよ?かわいいお嬢さん』

 ウィンクを一つ。いちいち美しいため、ジャンヌも秘かな思い人との再会のためにめかし込んでいたのを台無しにされた、その怒りの持って行き場を失っている。なんで、この人がここに!?なんであの人と抱き合ってたの!?

 その疑問を、一つ一つ説明している佐藤。理解したころには、ジャンヌの目はキラキラと光っていた。

「デハ、Formateurが、ドバイニ!?」

『そう、その子を推薦してくれたってわけ』

 少しは日本語もわかるらしい。ユングフラウは、ジャンヌの紙を梳き直しながら、佐藤の説明に相槌を打っていた。

『できた!フフッ、もう一回、かわいくなったわね?』

『あ、ありがとうございます!』

 しきりに頭を触っているジャンヌ。鏡はないですか?と聞くと、ユングフラウが自分のポーチから取り出した。

『わあ・・・!』

 自分で頑張った時より、出来がいい。佐藤の方を振り向いて尋ねた。

「ドウデスカ、慶太郎サン!?」

「うん、いいと思うよ」

 ジャンヌのまぶしすぎる笑顔。ベイカーランで凱旋門を勝ったとしても、こんな顔はしないだろうという満面の笑みだ。憧れの人に、これまた憧れの人から整えてもらった姿で再会できたのだから、これ以上の幸せもないといったところだろう。

「いいというより、きれいだと思う・・・」

「ホント、デスカッ!?」

 きれい。フランス人の中では背が低く、ちんちくりんな私が。これもユングフラウのおかげか。

『ユングフラウさん、ありがとうございます!』

『いーのいーの!それよりも・・・』

『?』

 ユングフラウの目は怪しく光っている。

『もう一度、優しくするから・・・ハグさせてくれない?』


 思わず、ユングフラウの頭をひっぱたいた佐藤であった。

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