第58話
同着。ジャパンカップで20分の審議がなされた末の結果だった。GⅠでの同着は、世界的にも珍しい。1センチ単位でも両者の鼻は、全く同じラインを通っていた。ジャミトン陣営にとって、凱旋門賞に次いでの連勝、ベイカーラン陣営にとっては待望の国際GⅠ制覇となる。だが、両陣営の反応は微妙に異なっていた。
『
「ぉお、ついにやったなあ、よくやった!ジャンヌ」
『ウム、ジャンヌよ、よくやった。凱旋門の借りは返せなんだが、実質勝利よ』
喜びに沸くベイカーラン陣営、
『殿下、これならまあ、許容範囲ですか?』
『まあな、満足はしていないが』
最低限、といったところのジャミトン陣営である。
ジャンヌは16歳11か月でのGⅠ初勝利である。見習い騎手の身でこの勝利は世界でも例を見ないだろう。経験豊富な名手ローランに、騎手になって2年足らずの新人ジャンヌが同着である。実質、ジャミトン陣営の負けとも見れた。
『ジャンヌさん、おめでとう!』
『まきな、さん・・・?』
ジャンヌの姿を見かけたまきなが祝福の言葉をかけに来た。
『私の生産馬も出ていたんです。3着だったけど』
『リリコサンの馬ですか!』
『あ、莉里子さん知ってるの?』
『ハイ!すごいジョッキーで、魅力的な女性です!』
自分はそのジョッキーに勝ったんだという、興奮が見て取れる。
『ベイカーラン、いい馬ね。来年は走るの?』
『繁殖です、日本で』
『そうなんだ!』
『だから、何としてでも勝ちたかった。最後の勝利を、この子と・・・』
じわり、とジャンヌの目じりに涙が浮かぶ。
『勝てた、勝てたよう・・・』
『あーっ、えっと!?』
とてつもないプレッシャーに晒されていたジャンヌ。解放されて、感情があふれ出す。そのジャンヌの肩を抱いて、慰めるまきなであった。
外国勢の表彰台独占は、2005年の優勝馬、イギリスのアルカセットにまで遡る。南アフリカ所属馬の勝利は初で、フランス馬も久しく勝っていなかった。強い外国馬を久しぶりに見せつけられ、日本競馬ファンの興奮は高まり、日本生産馬、日本人騎手で海外GⅠ、できれば凱旋門賞を、との声が高まっていった。
ラジオで、ジャパンカップの様子を聞くのは齋藤哲三とカガヤキである。
「はあ、リキュールは負けたけど、すごいべなあ・・・3着だべ」
哲三はカガヤキに語りかける。
「お前は、どんな馬になるんだろうべなあ?」
遥か先、西の方を眺めながら、カガヤキは嘶きを一つ。
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