第41話

≪さあ、キタウラクイーン!上がってきた!エルベット!4角先頭!火浦もムチを入れる!≫

 直線は300メートルほど。追い競べは、すぐに勝負がついた。火浦の剛腕追いも、遅きに逸した。抜け出した莉理子に、まきなが追い付き、半馬身抜け出したところがゴール。

「うわ!負けた!」

「莉理子さんに、勝った・・・!」

「やるやん・・・重賞初制覇おめでとう」

 門別で顔なじみとなった他の騎手も、銘々お祝いの言葉をかけていく。

「御蔵・・・」

「火浦くん」

 火浦は言いにくそうに口をもぞもぞさせて、言った。

「おめでとう」

「うん、ありがとう!」

 笑顔になるまきなである。これでJRA通算15勝目。火浦を追撃態勢である。

「次は、負けない」

「私も負けないよ!」

 夏の夜空に、星が瞬く。


 さて、7,8月と、夏競馬が続く。舞台を北海道や小倉に移して、秋のために賞金を稼ぎ、力を蓄えるのである。

 まきなは、北海道方面で札幌と函館競馬場、また依頼がたまにある地方競馬の門別競馬場にも転戦していた。競馬場と桜牧場を行き来する、忙しい日々である。牧場では2歳馬に乗り込んだり、シロッコと戯れたりしていた。桜牧場の2歳馬は晩成のケがあり、入厩は早くて8月。最後の乗り込みである。エコ、テコ、メコ(いずれも幼名)など、牧場に残した芦毛の牝馬たち。桜牧場の馬は、仕上がりこそ遅いが新馬勝ち上がり率がいい。出した馬も必ず1勝はして牧場に戻ってくる。しかし、今のまきなの関心はシロッコにあった。

「本当に白いやねえ・・・」

「あぁ、これまた人懐こいんべさ」

 哲三が言うや否や、顔を舐められるまきなである。

「あはは、このー!」

 鼻面を撫でるまきな。気持ちよさそうに、シロッコは撫でられるままだ。

ブルル・・・

「本当に白いんね」

「ああ、頭もいいべさ」

「かわいいねー、エライエライ!」

 なにがえらいのか。

「白い馬だねー。ダービー、一緒に取ろうね!」

「だ、だだだ!?」

 ダービーだべか!?と絶叫する哲三。無理もない。ダービーはグレイゾーンも、スーパーキーンですら取ったことがない。皐月賞までは無敗だった両馬だったが、しかしダービーでは不可解な敗戦。『桜牧場はダービーを取れない』ジンクスがあると囁かれていた。

「ダービー、取るんだべか!?」

「うん、取るよ」

 まきなはシロッコの鼻を撫でながら、言った。


「この子は今日からカガヤキ。おじいちゃんの最高傑作。名前から一字を取って、カガヤキ、だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る