第6話 何これ! 凄く柔らかくてしっとりしてる!
昼は豚肉とレタスをたっぷり使って、白ワイン煮込みを作った。ルーシーたちは昼休憩の時間がそれぞれ違うので、ばらばらに帰って来る。
そして後片付けを終えたら、馬車で村外れの自宅へ。
「合宿でロロアの研究時間とか減っちゃってごめんね。僕お手伝いするから」
いつもは午前の時間も研究や薬の調合に使っていたのだ。それが合宿中は出来なくなる。浅葱としては申し訳無いと思うのも無理は無い。
「大丈夫なのですカピ。勿論アサギさんのお手伝いは助かりますカピ。よろしくお願いしますカピ」
「うん。どんどん扱き使ってね!」
「俺は家事をとっとと片付けるからよ。ほらアサギ、洗濯物出しておいてくれな」
「うん、ありがとう」
浅葱はバッグから洗濯物を出して、水周りに持って行く。そうしたらロロアの助手として、研究室に
「では僕は研究室に入りますカピ。アサギさん、お手伝いをお願いしますカピ」
「うん。出来る事なら何でもするからね」
「頼りにしていますカピ」
そうして午後は過ぎて行く。
さて夕方になり、浅葱たちは
今夜は魚を使う。そうだな、青魚を
この世界の人々には焼いた肉や魚は硬くて美味しくないという誤解があるが、焼き時間さえ適当なものにすれば、美味しく食べられるのだ。
それに野菜とチーズでたっぷりとサラダを作ろう。野菜はアボカドとトマトで。モッツァレラチーズと合わせて、ブラックオリーブを使ったドレッシングで和えるとしよう。
カロムと並んで作っている間に、ルーシーたちが帰って来る。仕事帰りに自宅で洗濯などをするので、いつもよりは遅い帰宅なってしまうのだが、公民館には洗濯機が無いのだ。
魚は
手開きにして、小骨も綺麗に外す。
塩を振ってまずは臭み取り。数分程置いておいたら表面に水分となって浮き出て来るので、
塩と強めの胡椒で下味を付け、オリーブオイルを多めに引いたフライパンで皮目からじっくりと焼いて行く。
その間にサラダの準備。トマトは一口大のざく切りにし、アボカドは縦に包丁を入れて種を取り、皮を剥がして、こちらも一口大にカット。モッツァレラチーズも一口大に。全部をボウルに入れておいて。
ドレッシング作り。白ワインビネガーを入れたボウルにオリーブオイルを少量ずつ垂らしながら泡立て器でしっかりと
出来たドレッシングをトマトとアボカドのボウルに入れて和え、馴染ませる為に盛り付けるまで置いておく。
さて、鰯の続き。周りが白くなって来ていたら、程良く火が通っている証拠。フライ返しで丁寧にひっくり返して、中面も焼いて行く。
その間にレモンをくし切りにしておく。
そうしている内に鰯が焼き上がる。皿に移してレモンとパセリを添え、サラダボウルにはサラダをたっぷりと盛って。
鰯のソテーと、トマトとアボカドのブラックオリーブサラダの完成である。
食卓に運ぶと、アントンたちも来てテーブルに着いていた。
「アントン先生、クリントさん、こんばんは。お待たせしてしまってすいません」
浅葱が言うと、アントンは「ほっほっほ」と
「いやいや。
「なら良かったです。じゃあ早速夕飯にしましょう」
浅葱とカロムが食事をそれぞれの前に置くと、皆一様に首を傾げた。
「これは鰯ですか? え、鰯を焼いてあるんですか?」
「おや、アサギくんの料理の腕前は
「僕だから、と言う訳では無いですよ。ちゃんと適度な時間で焼けば、ふっくら柔らかく美味しく焼き上がりますよ。まずは食べてみてください」
「じゃ、じゃあ」
神に祈り、感謝を捧げ、「いただきます」と手を合わせ。
「あ、でもまずはお野菜ですよね?」
「あ、そうですね。お野菜から食べてくださいね」
皆はまず「ああ」と慌てた様にサラダボウルに向かう。
「鰯で驚いてうっかりしていました。こちらも美味しそうです。この黒いのは何ですか?」
「ブラックオリーブを微塵切りにしたものです」
「へえ? ブラックオリーブってこんな使い方も出来るんですか?」
サラダを口に放り込むと。
「凄い! ブロックオリーブって凄いんですね! 美味しいです。こんな使い方もあるんですね」
「そうですねぇ。輪切りにしてサラダに入れたりはして貰ってましたが、こうしたらどこを食べてもブラックオリーブが味わえる。これは良いですねぇ」
ウォルトは嬉しそうに言う。どうやらブラックオリーブが好きな様だ。
「この世界では、サラダのドレッシングはシンプルなものが定番だからな、ロロアと俺はアサギのお陰でいろいろなものを食えてるぜ」
「はい。
「ああ、それは良いのう」
「簡単に出来るものばかりですよ。合宿中にもお出ししますね。鰯もどうぞ」
「あ、そうでした!」
フォークで身を支えながら、鰯にナイフを入れる。すると身はあっけなくほろりと崩れ、ルーシーたちは「あれ?」眼を丸くする。
「柔らかい? え? お魚って焼いたら硬くなりますよね?」
「そうじゃなぁ。ぱさぱさになってなぁ。なのにこれはそんな感じでは無さそうじゃの?」
「それな」
カロムが愉快げに口角を上げる。
「まぁまずは食ってみなって。きっと驚くぜ」
「ほほう。では」
フォークで刺そうとするとまた崩れてしまうので、皆はフォークを利き手に持ち替えて、腹で
「何これ! 凄く柔らかくてしっとりしてる!」
「それにふわふわしていますね。なのに表面は香ばしくて、胡椒が効いていて。これは美味しいですねぇ!」
「でしょ」
カロムがまた面白そうに小さく笑う。
「俺もアサギに聞いて知ったんだ。俺らは肉も魚も焼き過ぎてたんだな。煮込むのと変わらない時間ぐらいは焼いてただろ。けどそうじゃ無いんだぜ。俺はいつも手伝いしながらアサギが調理をしているのを見てるが、焼く時は、そうだな、この鰯だったら薄いからかな、中火で片面1分とか2分で充分なんだ」
「そんな短くて良いんですか? それでちゃんと火が通るんですか?」
「通るんだなそれが。実際通ってるだろ?」
「うむ、確かに」
アントンが驚いたまま頷く。
「そのままでも良いですけど、お好みでレモンを絞ってみてください。さっぱりといただけると思いますよ」
浅葱が言うと、皆レモンを手にし、ぎゅっと絞る。それを食べると、また一様に「おお」と声が上がった。
「本当だ、これも美味しいですね! 確かにさっぱりと食べられますね」
クリントが嬉しそうに口角を上げる。そしてまた一口、口に運んだ。
「あ、アサギさん、今度、あの、お時間のある時に、美味しいお肉とお魚の焼き方を教えて貰えませんか? お家でも作ってみたいです。あ、あのさっき仰ってたドレッシングも」
「良いですよ。じゃあルーシーさんのお仕事がお休みの日にしましょうか。それをその日の夕飯にしましょう」
「はい。よろしくお願いします!」
ルーシーがぶんと素早く頭を下げた。
「ああ、減量中だって言うのに、こんな美味しいご飯が食べられるなんて嬉しいなぁ。量も少ないなんて事無いし。お米が食べられなくても我慢出来ちゃいます」
ルーシーが
「減量がストレスになっていない様なら良かったです。合宿中のご飯は任せてくださいね」
「はい!」
ルーシーは満面の笑みを浮かべた。
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