第44話 不可思議な夢

「ガレイオス神の声も聞こえません」

「やはり、そうか」

魔王は深刻な顔をしながら、手を差し出した。その手を取り、魔王の執務室へ戻り、待っていたガレンとユーリンに状況を説明する。


 「しかし、ガレイオス神の祠が壊れるとは……」

「ああ、ただの凶事ですめばよいのだが。問題は、神気を感じられなかったことだ」

魔王の言葉に頷く。以前は満ちていた神気を全く感じなかった。


 「ガレイオス神に何かあったとか……?」

「ガレイオス神は、異世界におられるのでは? こちらならともかく、異世界で何かあるとは思えませんが。祠を直せば、ガレイオス神も現れるのでは?」

ガレンが考え込む。異世界……、地球に追放されたと以前ガレイオス神は言っていた。地球で何か、あったんだろうか?


 「ひとまず祠を修繕しないことには、話にならないか。夜も遅い。続きは明日にしよう」

 ■ □ ■


 魔王の配慮で、私の部屋は以前使っていた客室を使うことになった。


 「ミカ様! そんなお姿になってしまうなんて、さぞお辛いでしょう」

「心配してくれてありがとう、サーラ」

そして、私のお世話もサーラがしてくれることになった。サーラは5年の間で、また一段と美人になっており、目に眩しい。


 その夜は、サーラの5年間の話を聞いて、楽しく過ごした。


 ■ □ ■



 何の変哲もない通学路を歩いていると、誰かの呻き声が聞こえる。

 じっとりと、体が汗ばむのを感じた。前もこんなことがあった気がする。

 ──どこにいる……!


 女の声だ。振り向かずに、家に向かって走る。


 ──許さぬ。許さぬぞ!



 「はぁ、はぁ」

走っても走っても声は追ってくる。それだけではなくて、段々と近づいているような気がした。


 家に帰るのはやめて、木陰に隠れる。息が、荒い。声の主は変わらず私を探している。

 ──どこにいった!


祈るようにして、声が過ぎ去るのを待つ。声は徐々に、聞こえなくなっていった。体から、力が抜ける。良かった。気づかれなかったようだ。




 「……ま。ミカ様!」

「!?」


 名前を呼ばれて、飛び起きる。サーラが心配そうに私を見つめていた。

「大丈夫ですか? ミカ様。大分うなされておいでのようでしたので……」

……夢か。どうやら、もう朝になっていたようだ。


「起こしてくれてありがとう、サーラ」

魔王から貰った月下氷人の壺を枕元に置くのを忘れていた。だから、夢見が悪かったのかもしれない。今日は、ちゃんと置いておこう。


 身支度を整えて、魔王の執務室へ向かうと、さっそく、祠のある洞窟へと転移した。どうやら、昨晩の間に、祠を修繕したようだが……。


 相変わらず、神気は感じられない。嫌な予感を感じながら、祠へと進む。


 「巫女、祈ってみてくれ」

「はい」

魔方陣の真ん中で祈りを捧げてみる。しかし、ガレイオス神の声はやはり聞こえなかった。そのことを魔王に伝えると、魔王は頷き、手を差し出した。その手をとり、執務室へ戻る。


 ──と、勢いよく、執務室の扉が開いた。息を切らせながら、入ってきたのは、ガレンだった。

「ただ今、アストリアから、連絡が入りました。聖女が、カスアン神の封印を解いたそうです!」

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