二度目の召喚
第39話 変わった世界
森の中を進むと、この森が見知らぬ森ではなく、アストリアとクリスタリアの国境になっている森だと気付いた。
「ここで、ユーリンと出会ったんだよね」
懐かしく思いながら、森の中を進んでいると、足跡がたくさんあった。
「……?」
人間はこの先にある、谷を越えられないはずだ。越えられるのは、魔物だけだったはずなのに、何故だろう。疑問に思いながら、足を進めると、森に人だかりが出来ていた。
「ユーリン様、私も早く連れてって!」
「私が先よ!」
「何よ、貴方たちの方が遅かったでしょ!」
人だかりの真ん中には、ユーリンがいて、ユーリンを人間の若い女性たちが取り囲んでいる。まず、人間が敵の魔物であるユーリンを取り囲んでいることも驚きだが、女性たちの髪が全員黒いのも驚きだ。黒い髪をしていたのは、聖女と私だけだったはずなのに。
「順番に城に運ぶので、並ぶように」
そういわれた女性たちは、言う通りに、一列に並んだ。何となく、私も最後尾に並ぶ。
「あの……これ、何の列なのですか?」
近くに並んでいた女性に尋ねてみる。
「やだ! そんなことも知らずにここまできたの? そんなの魔王様の花嫁になるためにきまってるじゃない!」
「よ、嫁……?」
聞き間違い、だろうか。というか、人間と魔物は戦争中では?
「そんな5年も前のこと、もう関係ないわよ」
5年も前……? 私が、日本に帰ってからまだ1ヶ月も経っていないのに、この世界では少なくとも5年は経っている……?
話を聞くと、カスアン神が現れたあと、魔物と人との戦争ではなく、カスアン神対、魔物と人との戦争になったそうだ。何がどうなって、そんなことになったかは、わからないが、その戦争にこの世界の人たちは勝ったらしい。そして、魔物と人は、友好条約を結んだとか。
私からしてみれば、ついこの間まで、魔物と人は戦争をしていて、その溝はかなり深かったはずなのに、不思議な話だ。
──そして、その友好の証として、魔王の伴侶は、身分に関わらず、人間から選ぶことになったらしい、ということだった。そして、この列は魔王の花嫁候補たちの列だったらしい。人間の女性で、伴侶がいなければ誰でも可ということで、すごい数の人数が集まったと言うわけだ。
あれだけ魔物憎しだったのに──
「だって、魔王様カッコいいじゃない!」
ということらしい。私は、その戦争のため一度殺されかけているのだから、魔物と人が手を取り合っているのは、嬉しいが、なんだか、複雑な気分だ。
そして、女性たちの髪の色について、尋ねてみる。
「この髪?エリンの実で染めたのよ。貴方もそうでしょう?」
ここ数年でこの世界の染色技術が向上し、黒に髪を染められるようになったらしい。
「……貴方の髪、綺麗ね。少しも斑になってないわ。聖女様や巫女様みたい」
まさか、巫女だったんです、なんて言えないので、笑ってごまかす。女性は少しだけ、感心した顔をしたが、すぐに勝ち誇った顔になった。
「でも、貴方に負ける気はしないわ。……その顔じゃあね」
それっきり、会話が途切れてしまった。顔? 私の顔は、何の変哲もない顔だ。彼女は確かに美人だったから、確かに私では見た目で勝てそうにないけれども。
魔王の花嫁になるつもりはないけれど、私が、なぜか、この世界にまた来てしまったことを話して、保護を願い出るべきだろう。ひとまず、魔王に会わなければならない。
どれくらい待っただろうか。ついに、私の番がやってきた。ユーリンが女性たちを転移魔法で、運んでいるらしい。
「ユーリン」
ユーリンに会うのは、久しぶりじゃないが、あちらにとっては5年ぶりだ。久しぶり、と挨拶をしようとすると、睨まれた。
「俺を呼び捨てにしていいのは、兄上と婚約者と巫女殿だけだ」
……?
事情が飲み込めていない、私をみて、ユーリンはため息をついた。
「兄上が身分に関わらず、なんておっしゃるから、分を弁えない者がでたのか。……まぁ、いい。名前は?」
もう、巫女の力をもっていない私が、ユーリンの名前を呼ぶのは失礼だったのかもしれない。
「申し訳ありません、ユーリン様。美香です」
「ミカは、巫女殿の名前だろう。……貴方の名前は?」
……? これは、私のことを完全に忘れられたということだろうか。でも、ミカという名前は覚えているようだし。
「美香です」
「だから、貴方の名前は?」
美香は名乗ってはいけない名前リストにでも載っているのだろうか。ユーリンがイライラしているのがわかったので、適当な名前を言う。
「ミラです」
「ミラ、貴方は、魔王陛下の花嫁になりたいという意志があると思っていいのだな?」
「……はい」
とりあえず、魔王に会わないと始まらないので、頷いておく。
頷くと、ユーリンの転移魔法で移動して、魔王の城に着いた。
城につくと、全員にメイドがつけられ、服を着替えることになった。
「……?」
何だか、私の顔を見ては、笑われている気がする。何でだろう。
そう思ってふと、鏡を見ると──、
「!?」
あれ、可笑しいな。もう一度、目を擦るが、目に移る姿は変わらなかった。
私の顔は、目と目の間がかなり開いていて、鼻は突き出て、口はひんまがっており、──有り体に言うと、ものすごく不細工になっていた。
「いやいやいや、え?」
自分のことを美少女だと思ったことはないが、とんでもなく不細工だと思ったことはない。
……もしかして、ユーリンに忘れられたのではなく、私だと気づかれなかった?
巫女の力は無くなってしまったようだし、顔も何故か変わってしまった。
果たして、魔王に会ったところで、私だと気づいて貰えるのだろうか……?
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