四九 フードコート
「ふ~ん、なるほどね」
刹那が話し終えると、舞桜は飲んでいた綾鷹のペットボトルをテーブルに置いた。
「そう、わかったでしょ? あたしは結婚なんてしない!」
「え? そう?」
「ハッキリ、しないって言ったじゃ……」
「いやいやいや」
舞桜は手をブンブンと振って否定した。
「違うよね、せっちゃんが言ったのは『鬼多見さんが惚れたならまだしも、責任で結婚なんてしてほしくない』ってことだよね?」
「それは……」
「だから、言い換えれば鬼多見さんがせっちゃんに惚れていれば結婚するんでしょ?」
刹那の顔が再び真っ赤になる。
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「本気でイヤなら、その場で座敷童子のサポートだけ頼めば良かったじゃない?」
「そ、それは……」
確かに舞桜の言う通りだ、どうしてそうしなかったのだろう? それは刹那自身にも解らなかった。
舞桜はフッ、と微笑んだ。困っている刹那を見るのは面白くて微笑ましい。
刹那は自分の恋愛のこととなると全く
「まぁ、これぐらいで
あんまり追い詰めて、意固地になられても困るし。
永遠ちゃんは、気が気でないでしょうけど」
どうやら舞桜の追求は終わったらしい。刹那は心底ホッとした。その途端、あることが気になりだした。
「そうだ、永遠から連絡を受けたとき、何て言ったの?」
「うん? 『姉さんとおじさんが結婚すると何か困るの?』って聞いた」
「そしたら?」
不安げに、それでいて興味ありげに刹那が促す。
「まぁ、沈黙するよね。だから、『姉さんがおじさんに取られるのがイヤなの、それともおじさんが姉さんに取られるのがイヤなの』、って聞いた」
「何てこと聞くのよ!」
いくら何でもストレートすぎる。
「だって、取り乱している理由はどう考えたってそれでしょ?」
「そうかもしれないけど……で、永遠は何て答えたの?」
「『どちらもかも……知れません』だって」
「どちらも……」
刹那はその意味を咀嚼した。永遠は「おじさんに姉さんを取られるのはイヤです」と言ってくれなかったが、「姉さんにおじさんを盗られるのはイヤです」とも答えていない、「どちらも」だ。
ホッと胸を
これが「おじさんを取られるのがイヤ」だったら、立ち直ることができなかった。
「よかったね、せっちゃん。永遠ちゃんに嫌われてなくて。
で、ワタシは言ったんだよ、『永遠ちゃん、あの二人は結婚して子どもができたって、永遠ちゃんをないがしろにしたりしないよ』って」
刹那の顔が明るくなる。確かにその通りだ、自分はもちろん鬼多見だって、何があっても永遠を想う気持ちが変わったりはしない。
「舞桜ちゃん……」
「『だから、永遠ちゃんに恋人ができたりしたら、二人ともうっとうしいよ』って忠告したら、『やっぱり二人ともいらないかも』って、普段通りにもどってたよ!」
ニッコリと微笑む。
「嬉しくない!」
永遠に恋人なんて考えたくない、それはブレーブとしても大問題だ。
「とにかく、鬼多見さんの気持ちを確認だけでもしといたら?」
「だから、自分は責任を取るだけだって……」
「それは『気持ち』じゃなくて『意志』でしょ? だから『鬼多見さんは、あたしのこと好きなの?』って聞くんだよ。
そうすればボールは、また鬼多見さんに行く」
「そ、そんなこと、聞けるわけないでしょッ?」
顔がまた火照る、ここに来て何度目か判らない。せっかくこの話を終わらせたと思ったのに、永遠のことを聞いて墓穴を掘った。
「大事なのは気持ちなんでしょ? だったら聞かなきゃ始まらないじゃない。鬼多見さん、自分から言ったり絶対にしないだろうから」
「そうだけど……」
たしかに鬼多見から告白などあり得ないだろう。そもそも姪のことしか頭にないのではないだろうか。
「まぁ、すぐに確かめる必要もないんだから、時間をかけて覚悟をしたら?
その間に別に好きな人ができれば別だけど」
「そんなこと……」
思わず声を上げて、刹那はハッとして口を閉じた。ムキになった自分に気が付いたからだ。
自分は鬼多見のことをどう思っているのだろう。少なくとも今までは仕事仲間ぐらいにしか思ってなかったはずだ。
気のせい気のせい。
刹那は湧き上がってくるモヤモヤを打ち払おうとした。
「ま、せいぜいガンバってね、せっちゃん」
「何をがんばるのよッ?」
刹那は頬を膨らませた。
自分はこれからどうなるのだろう。佳奈だけでなく、刹那も声優として生き残るのは難しい。
好恵の言う通り、マネージャーとしての仕事が増えるのは間違いない。でも声優を、役者を
鬼多見のことも、そのうち答えが出るだろう。
今はまだ演じなければならない役がある。『デーヴァ』の鳴神真那を全力で演じよう、永遠の役とは従姉弟だ。そしてこれを最後にはしない。
前途多難だが、刹那は前へ進み続ける。
―終―
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