四八 プロダクションブレーブ 参
「正直、ハルちゃんは頼りになるけど当てにならないところがあるし、仕事の切れ目が縁の切れ目になりかねないわ。
でも、あなたの霊力は一生付いてまわる。なのに座敷童子まで背負い込んで……
せっちゃんを守ってくれる人が必要だと判断するのは当然でしょ?
しかも将来のことを考えて
「だから勝手すぎますッ、あたしの気持ちは……」
「もちろん、あなたが嫌なら強制はしない。と言うか、さすがにできないわ。たとえ事務所の方針でもね」
「そもそもこれは事務所の方針でもありません」
好恵の言葉を早紀が補った。
「そう、これはあくまで私の願望。
ただ、鬼多見さんには何らかの責任は取ってもらいたいから、結婚が嫌なら座敷童子に関して一生サポートしてもらう事で手を打つわ」
そう言って悠輝に同意を求めるため視線を向ける。
「おれはどちらでも構わない」
相変わらず表情も変えずに同意する。
「ちょっとッ、こんな大事なこと、そんなにアッサリ同意していいのッ?」
刹那が思わず身を乗り出す。
「アッサリじゃない、社長とサキねえちゃんに責任を取るって言った時点で、どんな要望でも受ける覚悟はしていた」
「それじゃ鬼多見さんの意思は?」
「おれの
「好きでもないのに義務感だけで結婚されたって嬉しくない!」
刹那の言葉に悠輝は微笑んだ。
「何がおかしいのッ?」
「いや、おまえらしいと思ってさ」
「え?」
「そういうところは朱理にソックリだ」
「だから何?」
「いや、何でもない。
社長、一つ確認させてほしい。おれが一昨年の事件で何をしたか、理解した上で言っているんですね?」
悠輝はアークソサエティを壊滅させた事件を言っている。この事件で彼は多くの信者を手に
「ええ、知っているわ。ハルちゃんからも、あの事件については詳しく聞いたから」
「なら、どうして?
普通なら、かわいい姪と結婚させるどころか、近づけたくもないはずだ」
好恵は悠輝の鋭い視線を静に受け止めた。
「そうね、どんな理由があれ、あなたのしたことはゆるされない。座敷童子のした事とは比較にならないわ。本当なら、もう関わりを持ちたくはないわね」
歯に衣着せぬ言葉に、刹那が何か言いかけたが、それより早く好恵が言葉を続けた。
「でも、さっきも言った通り、せっちゃんを守ろうとしたら選択肢は多くはない。それでハルちゃんに、あなたの人間性を確認したの」
「身内が言っていることに信憑性はない」
その言葉に好恵は遙香に視線を向けて微笑んだ。
「ホント、ハルちゃんの言う通りだわ。あなたは自分を絶対に認めないって」
悠輝は遙香を睨んだ。
「それに私が一番信頼している人間も、あなたのことを高く評価したの。だから大切な姪を託すことにした」
「サキねえちゃんが知っているのは、小学生のおれだ」
「二〇年近く経っても変わってなかったらしいわ。家族をとても大事にして、自分がどんなに傷ついても守ろうとする。
なら、その人と家族になれば絶対に守ってくれるでしょ」
「別に結婚しなくたって、座敷童子の事はおれが責任を持つ」
そこで言葉を切って、悠輝は刹那を見つめた。
「さぁ、ボールはおまえが持っている。
どうなんだ? 御堂、おまえはどうしたい?」
「そんなのイヤに決まってんじゃない!
鬼多見さんがあたしに惚れたっていうんならまだしも、責任や義務で結婚なんてしてほしくない!」
刹那は悠輝を「おじさん」ではなく、「鬼多見さん」と呼んでいることに気が付いていなかった。
しかし、好恵を始め、勘の鋭い他のメンバーはその変化を察知していた。
「まぁ、すぐに答えを出さなくていいわ。あくまで今回の目的は私の考えをせっちゃんと鬼多見さん、それに永遠ちゃんに伝えることだから」
「そもそもこれって、おばさんの個人的な考えでしょ? 社長としてそれでいいわけ?」
刹那の怒りは収っていない。
「だいじょうぶよ、早紀ちゃんが、いいって言ったから」
「なんで早紀お姉ちゃんに決定権があるのよ!」
「だって、せっちゃんを
それは正しい。
「何で今回に限って反対しなかったのッ?」
今度は早紀を問いただす。
「当然です、このまま放って置いたら、あなたの命がいくつあっても足りません。
それに相手が悠輝くんなら、親戚の子同士が結婚するみたいで私も安心です」
「それも個人的な理由でしょッ。ってか、親戚の子同士が結婚するから安心ってナニッ? むしろ不安しかないわ!」
刹那の感想に永遠も賛成なのだろう、しきりに頷いている。
「とにかく、あなたはブレーブの次期社長です。そのため背負わなければならない責任や義務があります。あなたに万が一のことがあったら社員や所属タレントが路頭に迷うことになりかねません」
「あたしに何かあったら他の誰かに任せればいいわ。早紀お姉ちゃんがやらないなら、永遠だって……」
「ダメだ」
意外にも遮ったのは悠輝だ。
「朱理は真藤家の長女だ。いずれ、
「えッ、そうなのッ?」
永遠が再び驚きの声を挙げた。
「そりゃそうでしょ? まさか紫織に継げっていうの? 確実に倒産させるわよ」
確かに彼女に任せたら英明の会社は間違いなく潰れる。
「でも、わたし、声優を……」
「あ~心配しないで当面は続けてだいじょうぶ、お父さんだって元気だし。
それに女性声優の寿命は短いから、どんなに長くても二〇年後には、あんたも刹那たちの気持ちが骨身に染みて解っているわ」
嫌なことをしれっと言う。
「それじゃ、この辺でお開きにしましょうか」
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